「チャンミン」

今、ユノが僕の名前を呼ぶのは、足りないという合図。
何が足りないって、完成度だ。

「すみません!」

さっきから僕は、謝罪しか口にしていない。










     【僕らの、/03.】









完全防音であるこの部屋に響くのは、僕の荒い息遣いだけ。
額から顎先にかけて滴る汗が、ぽたぽたと床に落ちていく。


「…っ、くそ…」


悪態しか出てこない。



本格的なカムバックに用意された曲。
このパフォーマンスが完成すれば、センセーショナルな復活となるであろう。

確信はある。

けれど、今の僕には、この曲が要求する体力とスキルが足りなかった。
練習をこなすしかない。
それは分かっている。

でも、ユノの隣に立つという僕自身が僕に与えるプレッシャーが、気持ちを焦らせていた。




ガチャ。
ドアの開く音。


「差し入れだよ」


ユノの声。


「……ヒョン…」


今は、一番会いたくない人物だった。


だから“今は放っておいてくれ”という空気を纏わせる。


頑張ってるな~だなんて労われた日には自己嫌悪に陥ること間違いないから。
さらに励ましなんて受けようもんなら、このビルから飛び降りたくなる。

つまり、未だに完成を見ない、こんな格好悪い姿をユノには見られたくないのだ。
ユノの隣に並ぶに相応しい男になると決めたばかりだったのに…

苛つく気持ちも、乱れた息も、今は隠すことができるほどの余裕はなくて、
汗で湿った髪の毛を左手でぐしゃぐしゃとかき混ぜる。


「不機嫌してんな~」


ガチャ。
ドアの閉まる音がした。

空気を読んで出て行ったわけではない。
ドアを締めたユノは、一面が鏡になっている壁に背を預けて、腕を組んだ。
練習をしている僕が正面に見える位置に陣取る形だ。


きっと、仕事終わりに、わざわざ寄ってくれたのだろう。
普段なら嬉しいはずだ。
けれど今日はもうだめだった。


「………すみませんが、一人で練習させてください」


そう。空気を読めるユノだけど、読んだうえで自分のしたいように行動するのもユノなのだ。
だからはっきりと意志を伝える。

しかし動く気配はなかった。
だから口調が自然ときつくなってしまう。


「意味わかりませんか?出て行ってくださいって言ってるんですけど」


ユノのことだ。きっと僕の気持ちなんて見抜いているだろう。
だからこそ、その態度に腹が立つ。
そして苛立ちをぶつけてしまう自分も腹立たしくて仕方がなかった。





「チャンミナ~、なんか気付かない?」

そんな僕をよそに、ユノはまったく気にしていない様子で、のんびりと問いかけてくる。




       なぜ、気持ちを汲んでくれないんだ。





大股でユノの前まで歩いてゆくと、ガツンとガラスの壁を殴り、正面から見据える。


「出てけって言ってるだろ!!」


声が大きく響き、後には肩で息をする僕の息づかいだけが残る。
まっすぐユノを見た。
動じるそぶりは見えない。

最初と同じ、何も変わらない瞳に格好悪い僕の姿だけが映っていた。






その瞳が突然、何か良いことを思いついたかのようにキラめく。
どこかで見た光景。デジャブ。
何を言い出すか、だいたい想像がついてしまう。


「チャンミン、それ、いいかも!」


やっぱり。


「………またそれですか」


この人の頭の中は、一体どうなっているんだろう。
唐突にもほどがある。

ため息が漏れた。

さっきまで、あんなに頭の中がヒートアップしていたというのに。
もう普段の落ち着きを取り戻している自分に気付く。



「で、何がいいんですか?」
「ケンカだよ。舞台の上でしよう」
「……は?」
「チャンミナ~!お前はアイディアの宝庫だな!!」

明日、振り付け師さんに相談してみよう♪ と、やっぱり聞き覚えのある台詞を呟くのだった。


いつだって、最優先は東方神起。
大人になったと思っていた自分が急に子供っぽく感じて恥ずかしくなる。


ユノ肩に、コツンと頭を乗せた。




「……ごめんなさい」




ダンスが出来なくて。
苛立ちをぶつけてしまって。
怒鳴ってしまって。
面倒をかけてしまって。

まだまだ貴方には追いつけなくて。



態度が180度変わったからだろうか。
耳元でユノが笑う。
両腕が僕の頭をゆるく抱き、そして、よしよし、と優しい手が僕の頭を撫でてくれた。






「さて、チャンミン。さっきも言ったけど、なんか気付かない?」


笑いを含んだままユノが問う。
僕はユノの両腕が解かれるのを名残惜しく思いながらも顔を上げ、ユノの全身に目を走らせた。


怪我などしている様子はない。
そして、今日も変わらず格好良い。
仕事だったからか、衣装を着ているようだけど……


あ。


「…差し入れ?持っていない?」
「大・正・解!」



………だからなんだというのだ。
3つくらいのクエスチョンマークを頭につけている僕に、ユノは言った。





「差し入れは俺だよ」

「………は?」




ユノといえばニコニコしているだけ。

彼氏の誕生日に彼女が『プレゼントはわ・た・し』とかってゆう、R18的なアレ?
『私をあなたの好きなようにし・て』とかってゆう、R20的なアレだろうか。

僕がユノを………





「ダンスに苦手意識持ってるだろ?」

おかしな妄想が始まろうとした寸前、現実がつきつけられる。
顔がこわばったのを見逃すはずもないユノが、言葉を継いだ。


「…なぁ、チャンミン。俺のことちゃんと見てる?」


もちろんだ。
大きく頷く。
いつだって見ている。


先輩後輩スタッフ、誰にでも礼儀正しく挨拶をするユノを。
くだらないことに爆笑しているユノを。
自分に厳しくてストイックなユノを。
一人遊びに夢中になって周りが見えていないユノを。
もちろん、完璧なまでに洗練された流れの中で踊るユノだって。


「だったら思い出せよ。俺がどの角度で、どのタイミングで踊ってたのか」


促されるまま頭のなかで曲を流すと、脳内のユノがしなやかで力強く、そして、美しく動き始めた。

真っ直ぐに刺さる強い視線。
一番格好良く見える角度の正確さ。
指先に至るまで気を抜くことのないパフォーマンスへのこだわり。
見ている者に訴える多彩な表情。
重さを感じない、ふわっふわっと移動する足捌き。
どれもこれもがコンセプト以上を完璧に表現していた。

練習中、あれだけいっぱいいっぱいだったはずなのに、こんな細部まで覚えている自分に苦笑がこぼれる。


「チャンミンなら合わせられるだろ? 俺に」


踊り続ける僕の頭の中のユノ。
まるで鏡を見ているかのように、その姿を自分に重ねることができた。


そう、簡単なことだったのだ。
ユノを思い出して、ユノに合わせて踊ればいい。
タイミングも角度も、全て完璧に揃えることができるはずだ。


にしても、俺に合わせろって、なかなかのむちゃぶりだと思う。
誰にでもできるものではない。
最初から僕にはできると思ってくれていたのだろうか。



「…ありがとうございます」



今度は謝罪ではなく、感謝を口にする。
ユノは頷いて、握った拳を目の前に突き出した。



「じゃ、やるか!」
「はい!」


ゴツと、その拳に拳をぶつけて、気合を入れる。

僕の返事に満足したのか、ユノは白い歯を見せて笑った。







end..
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チャンミンはユノのパフォーマンスを一番身近で見ていて、ユノの一番のファンでもあると思う。
でもって、チャンミンのパフォーマンスは5人の時より、すごくかっこいいと思うのだ。
きっとめちゃめちゃ2人でがんばってくれたんだろうな。
復活してくれてなかったら、2人を知らずに過ごしていたよ。

いつも素敵な二人を見せてくれて、ありがとう。
笑顔で癒してくれてありがとう。

二人が幸せそうだと、私も幸せなんだ。
ほんとに大好き。
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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。