ユノのいう愛は、身内への親愛。
僕の愛は、恋い慕うもの。


「……僕とユノヒョンの愛は、違います」


こんなことを僕に言わせるユノはひどい奴だとなじりたいのに、
おさまりかけていた涙が溢れてきて、またユノのシャツを濡らした。












     【僕らの、/10-3.】












「なぁ、チャンミン…」

ユノは、今の僕とは正反対の、ゆっくりとした穏やかな口調で

「…何でお前にキスしたのか、何で昨日お前の好きにさせたのか
 考えたことある?」

一言一句しっかり聞かせるかように、問いかけた。

「そんなのっ……」

たくさん考えましたって言おうとしたけれど、言葉に詰まってしまう。



    僕は、思い出していた。

ユノのことが好きだと自覚した日のこと。
ユノに初めてキスされた日のこと。
そして今朝のこと。


“俺のことが好き?”そう聞いたユノに僕は“好きじゃない”と答えた。
ユノはそれを正解と言い、キスしたことを不正解だと言った。
向けられた背中に手を伸ばすことも声をかけることもできず、
僕は喪失感だけを抱えて、自分のこと、そしてユノのとった行動の意味を考えていた。

今朝だってそう。
「忘れろ」と言われた理由は分かっていたけれど、
そう言ったときのユノの気持ちを、考えることなんてなかった。


…きっと僕を突き放すようなことをするのは、胸が痛んだに違いないのに。
僕が傷ついたのと同じように…いや…それ以上に傷ついていたのかもしれない。
それなのに僕は今、ユノを非難して罪悪感を抱かせるような行動をとっている。


なんて自分勝手なのだろう。


自分の気持ちばかりに振り回されて、ユノを見ていなかった事実をつきつけられて…
なにやってんだ!って罵ってやりたい気持ちだった。


ユノにしかみついていた腕をゆっくり解いて、顔を上げる。
泣き腫らしたひどい顔をしている自覚はあったけれど、そんなことはもうどうでもよかった。


「…ごめんなさい」


ひく、と喉が鳴ったけれど、なんとかそれだけを口にする。

「違うって、チャンミン」

ユノはちょっと慌てた様子で

「…お前に考えさせるのはよくなかったな」

独り言のように呟いた。

何が違うのだろう。
続きがあると思って待っていたけれど、ユノはそれ以上何も言わず、
まるで僕に許しを請うかのように、コツンと額を合わせた。


ユノが目を閉じたから、僕も目を閉じた。













どのくらい時間がたっただろうか。

「…チャンミン」

ぽんぽんと背中をたたかれ、名前を呼ばれる。
僕はユノの肩に顔をうずめて、相変わらずユノのシャツをぎゅうっと握っていた。
いつの間にか涙は止まっていて、さっきの自分が嘘のように気持ちも落ち着いている。

「チャンミン」

もう一度呼ばれる。
僕に顔を見せるよう促しているのだろう。
平常心に戻っているのはバレているだろうから、しぶしぶ顔を上げる。
でも、握ったままのシャツは何故だか離せなくて、
それに気付いたユノにちょっと笑われてしまった。

僕じゃない。手が離さないのだから仕方がない。などと心の中でよくある言い訳をする。


「…話してもいい?」

僕の顔を覗き込んだユノに、そう聞かれた。
何を言われるにしても、さっきほどの不安も恐怖もなかった。
ユノの表情が、すごくあったかくて安心してしまったからかもしれない。

だから頷く。

ユノはそれを確認すると、ソファーに僕を促した。

やっぱり窓に一番近い端っこに腰を下ろすから、シャツを掴んだままの僕もそれに倣う。
ユノは片足をソファーに上げて、僕の方に体全体を向けると

「ごめんな」

開口一番に謝罪を口にした。
何の謝罪だろう。

「ヒョンは何も悪くありませんよ?」

自分の気持ちを優先して行動したのは僕だから、ユノに非があろうはずもない。
僕の困惑が伝わったのか、じつはさ、とユノがちょっと気まずそうな顔をして、目線を右下に反らせた。


「…お前、みんなが大好きだったろ? なのに急に…側にいてやれる奴が俺だけになって…
 そのせいで俺のことが好きだって思い込…」
「それは違います」


僕の強い否定にユノはちょっと驚いたように目をぱちくりさせる。

たしかに好きになる要因のひとつではあったかもしれないけれど
寂しさから生まれた依存のせいで、ユノのことが好きだと思い込んでいるだなんて…断言できる。あり得ない。

なのにユノはそう思っているということ?

僕の気持ちが偽物だと思っていたから、甘やかしては突き放すような言動をして
それを悟らせようとしていたとでもいうのだろうか。

もしそうであれば、思い違いも甚だしい。
僕の葛藤はぜんぶぜんぶ、ユノの勘違いのせいのように思えて、だんだんムカついてくる。


ユノのシャツなんか伸びてしまえばいいと思って、おもいっきり引っ張ってやった。


「やっぱり、謝罪はもらっておきます。
 正しくは“思い込み”じゃなくて“気付いた”ですからっ!
 そのとぼけた頭にしっかり覚えさせておいてください」


何で好きになったかなんて、心当たりがありすぎてわからない。
でも側にいるのが当たり前になっていたから気付かなかっただけで、
ふたりっきりになったからこそ、自覚することができたということだけは分かっている。

「だから、悪かったって。伸びる~っ」

僕がこんなに怒っているのに、
ユノは声を立てて笑いながらシャツを自分の方に引っ張った。


「…まぁ、お前に手を出しては、気持ちがホンモノになればいいなっていうのと…
 それはそれで、手段としては間違ってるって分かってたから、曖昧にしてたんだけど」


急に真面目な顔をしておかしなことを言うから、シャツを引っ張るのをやめてまじまじと眺める。

偽物の好きが本物になればいいと思ってた?

考え始めた隙に、ユノは僕の手からシャツを抜き取って
「伸びちゃったかな。大丈夫かな。まぁいっか」などと呟きながら皺を伸ばす。
それから膝の上に頬杖をついて、僕の顔の前でピンと人差し指を立てた。


「お詫び…じゃないけど、チャンミンにいいこと教えてやるよ」


片方の口角を上げたカッコイイけどちょと悪い顔で、僕を斜めに見上げる。
無駄に見とれてしまって、“いいこと”の方に思考が持っていかれた。

しかも、なんだろう…急に僕らの周りの空気が甘ったるくなったような気がする。

…でもそれはすぐに勘違いだと分かった。
ユノが口にしたのは、感情に流されない、理性的で厳しい言葉だったから。


「俺は誰とも付き合うつもりはない」


“曖昧”がなくなると、こんなにもはっきりしてしまうのだろうか…

僕の気持ちに相当する関係には発展しない。
それを改めて認識させて…一体、これのどこが「いいこと」なんだ。

僕とユノは手を伸ばせばいつだって触れられる距離にいるのに、
僕とお月さまくらい、見た目からは想像できないほどに気持ちは遠く離れている。




…と思ったのに、

「だから、俺はお前のもんだろ?」

ユノはそう言った。
大切な秘密を打ち明ける子供みたいな顔をして。




「………へ?」



ボクノモノ?

なんですか、それ。おいしいの?
初めて聞く言葉のように、理解できなかった。

そんな状態の僕を放置して、ユノといえば

「もう難しく考えんのはやめようぜ。在りのままの俺らでいいんじゃない?」

それはもう、すべてをふっ切ったような軽さで、「だろ?」と僕に同意を求めた。




いや、いや、ちょっと待ってほしい。
僕は片手を前に出して、もうそれ以上何も言ってくれるなと、ユノにストップをかける。

“付き合わない→からの→ボクノモノ”

一体、全体、どうして、そんな厳しい前提から、甘い結論が出てくるのだろうか。
本当にもう…いわゆる「詳細は割愛しますが」を今、実践しないでほしい。


「…あの~、ヒョン…」
「ん?」
「え~と…」

どこから何を聞けばいいのだろう。
無邪気と言えば聞こえはいいけれど、ユノは僕の困惑など1ミリも理解していないように見える。
できれば取材を受けるときのように、順序立ててわかりやくす話してほしい。


「…恋人を作らないってことはわかりましたけど、
 なんでそれが“ボクノモノ”ってことになるんですか?」


眉をしかめてそう聞いてみると、ユノはやっと僕が飲み込めていないことに気づいたらしく、微苦笑を洩らす。
でもすぐに姿勢を正すと、どこまでも優しい笑顔を浮かべて、僕をまっすぐ見た。




「お前はずっと俺の人生にいるんだから…お前の独占だろ?」












窓から入ってくる暖かい光がユノの輪郭をキラキラさせている。
それより、もっともっと眩しい笑顔は、とっても甘い。



「チャンミン、嬉しい?」

分かっているくせに、そんなことを聞く。


でも、そんなことを聞くユノだって、“僕のもの”だというのだから
嬉しいに決まっている。


「…嬉しくなさそうに見えますか」

「ん~あと2時間はサングラスが必要な嬉しさに見える」


ユノの手が僕に伸びてきて、頬を伝う涙を拭った。
今日一日で、僕はとんだ泣き虫になったようだ。










* * *









気づけば、マネージャーが迎えにくる時間になっていて
僕らは朝ごはんを食べる余裕もなく、とりあえず出かける準備に追われていた。

いつもと何ら変わらない、バタバタの朝。

「ヒョン、準備できましたか?」
「見つかんない!」

寝室にいるユノに声をかけるとそんな返事が返ってきた。
たぶん携帯を探している。

「鳴らしましょうか?」
「頼む!」

ポケットから携帯を取り出してユノの番号をプッシュすると、微かな音が聞こえてきた。

それを確認してから、とりあえず車内で食べられそうなものを探しにキッチンへ向かう。
そこで僕は、コーヒーパックの入ったカゴの中にさりげなく置いてあるものを見つけた。


昨日の朝、ユノが出かける間際にこっそりカバンに入れていたお菓子。
ヤンパリンだ。

昨日の夜にはなかったはずなのに…頭の隅にひっかかりを感じる。



証拠隠滅のために、ユノがこっそり置いたのは間違いない。


じゃぁ、いつ置いたのか。
…多分あの後だ。

僕が眠るのを待ってベッドを抜け出したユノは、
新しく買ってきたヤンパリンをここに戻した。

ユノがやけに眠そうだった理由も、僕が抱き枕にされていたことも、これで説明がつく。

でも、僕を抱き枕にする必要はあっただろうか。
普通に枕でもよかっただろうし、僕の部屋のベッドを使ったっていい。
選択肢はいろいろあったはずなのに。


その行動が意味すること   

「…じゃなくて」

アブナイ、アブナイ。また間違えるところだった。


僕が考えなきゃだめなのは、ユノの気持ち。
目の前のヤンパリンをぼんやり見ながら、思考をめぐらせてみた。

答えはすぐに浮かんだ。
無意識のうちに口元を押さえる。



『お前のこと愛してるよ』



急に、ユノの言葉が蘇ってきて、胸の奥がすごく熱くなった。







「…チャンミン?」

いつの間にかコートを着てリュックも背負った準備万端のユノが
鳴りっぱなしの携帯を手に僕の前に立っていた。

「あ、すいません」

緩んでいる口元をマフラーで、赤い目をサングラスで隠してから、携帯を切る。
音が鳴り止んだ。

「見つかってよかったですね。
 もうマネージャーが下に来てるみたいなんで行きましょうか」

ユノの背中に手をそえて促す。
でも、ユノは僕をじっと見て動かず、明らかに不満そうな顔をした。

首を傾げる。

「…どうかしましたか?」
「お前さー、出かける前から完全防備すぎるだろ」
「そうですか?」

厚着しすぎだと言っているのだろうか。
首を傾げたままの僕にあきらめたのか、ユノはしょうがないなとばかりにわざとらしく溜息をつくと


「マ・フ・ラー。邪魔だろ」


尖らせた自分の唇をツンツンと人差し指でつついてみせた。
その仕草でユノのいわんとしていることを悟る。

「………なんですか、そのぶりっこは」

呆れたように言ってみるけれど、完全なる照れ隠し。
表情は見えていないはずなのに、ユノは分かっているのだろう。ニヤリとした。


そのとき、急に。
ほんとに急に、僕らがバカップルのように思えて、それが言葉では表現しきれないくらい幸せで
気持ちが溢れてきて、どうしようもなくて、そんな自分が可笑しくて、思わず吹き出してしまう。

ユノはちょっとびっくりしていたようだったけれど、そんな僕が可笑しかったのか、釣られたように笑った。






いつもの日常に、幸せな出来事がひとつ加わる。
でもそれはすぐに、いつもの日常に変わってしまうのだろう。


だから、いつもがいつも通りであることも、幸せだっていうことを忘れないでおこう。






僕らは家を出る前に、…キスをした。










完..


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【僕らの、/05.】【僕らの、/08.】のお話がちょっぴり絡んでいます。

めでたく気持ちが通じ合いましたね。やっとですよ…ホクホク。
ここまでお付き合いくださり、ほんとうにありがとうございました。
自己満足で書きはじめましたが、読んでくださる方がいる楽しみを教えていただきました。
コメントや拍手、ランキングのポチ、感謝感謝です。ありがとうございました。
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| 2013.11.04(Mon) 22:42:44 | | EDIT

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| 2013.11.04(Mon) 22:46:09 | | EDIT

ありがとうございます。

>蒼** さん
こちらこそ、いつもありがとうございます!ご感想をいただけて喜んでいますー!
ほんとですね、チャンミンさんの体当たりにユノさんも覚悟を決めてくれました♪
以降はラブラブ間違いないでしょう(笑)…が、【僕らの、】はとりあえず完結させたので
ラブラブから始まるかは怪しいですね…でもラブい二人を私も読みたいです!!

YUKA | 2013.11.06(Wed) 15:52:39 | URL | EDIT

ありがとうございます。

>ゆ** さん
はじめまして!お話を気に入っていただけてよかったです!!
ユノペン歴長いのですね!私ももっと早くユノと出会っていれば…もっと幸せだったのに!!!と(笑)
私の書きたかった二人の距離の縮まり具合が伝わっていたようで、しかも幸せにひたっていただけたという
ご報告に嬉しさでいっぱいです!ありがとうございます。次のお話もがんばりますっ
リアル、そうなのです。やっぱりリアルと妄想は切っても切れないトキメキがありますよね!

YUKA | 2013.11.06(Wed) 16:02:09 | URL | EDIT

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| 2013.11.06(Wed) 22:51:52 | | EDIT

ありがとうございます。

>m******** さん
お礼だなんて、とんでもないです!こちらこそ、長々とお付き合いいただいて、ありがとうございました!
いきなり【僕らの、】を完結させてしまってごめんなさい。でも2幕を書きたいと思っています(^^)
そうですね、うちのユノさんはチャンミンさんを振り回す傾向がありましたね。溺愛ゆえですよ(笑)
わたしもユノさんの方が振り回される日を心待ちにしているのです!!が、しばらくはなさそう…w
次のお話も気にいっていただけるようにがんばりますので、お付き合いただけると嬉しいかぎりです。

YUKA | 2013.11.07(Thu) 10:47:15 | URL | EDIT

拍手コメントありがとうございます。

>月香 さん
こんばんは!はじめまして。こちらこそ、とっても嬉しい拍手コメント残してくださってありがとうございます。
リアルを想像(妄想!?)していただけたようで何よりです!≧▽≦ それにしても一気読みとは…結構大変でしたよね…おつかれさまでした。私の駄文でホミンちゃん愛をさらに実感していただけたなんて、…これはもう本望ですっ!!
拙い文章でどこまで情景や心情を伝えられるか、それが課題でしたので、広いお心で受け止めてくださって、感謝感謝です。ありがとうございました!!

YUKA | 2013.12.12(Thu) 02:02:33 | URL | EDIT

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| 2013.12.12(Thu) 13:56:41 | | EDIT

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| 2014.05.31(Sat) 21:06:19 | | EDIT

ありがとうございます

>リリィさん
こんばんは!読破ありがとうございます!!2日も費やして頂いて…恐れ入ります><
でも、幸せな気持ちになっていただけたとのお言葉、嬉しかったです。リリィさんが幸せな気持ちになれたなら、二人はもっと幸せだと確信できました(笑)
お知り合いがいらっしゃったのですね!コメ欄で被る…ウケましたwどんどんこちらでも被っていただけると私は嬉しいのですが♪こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。輪が広がっているようでウキウキします!!

ブラックユノ~いますよん!!うんうん。2幕はタレソカ学園高校が落ち着いたら戻ってみようと画策中。まだまだ書きたいことがあるので♪
なのでタレソカ学園高校も更新がんばります★また遊びにいらしてくださいね!

YUKA | 2014.06.01(Sun) 18:39:38 | URL | EDIT
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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。