楽屋まで響いてくるさざめき。次第に起こる歓声。目前に迫った舞台。
2人だけの東方神起になってから今日、初めてファンの前に立つ。


僕らは、一度、伝説を終えた。

だけど確信している。

新しい伝説は、今から始まるのだ。








     【僕らの、/01. 】







楽屋。

たくさんの後輩アイドルがいて華やかな雰囲気であるはずなのに、それは表面上だけ。
一見楽しく談笑しているように見えるが、誰もが部屋の隅のソファーを気にしていた。
そしてここにいる全員の気持ちを代弁するのならこうだろう。


チャンミン、お前がなんとかしろ。


でも、僕は言いたい。
いやいや、僕も結構ナーバスになってるんですけど、と。

そんなつっこみを心の中で入れていたら、件の人物がソファーから立ち上がり、さっきまでプレイしていたゲームを座っていた位置に置いた。
そして長くて細くてモデルにしか見えない肢体を伸ばして肩をほぐすように首をゆっくり回し、一息ついてから歩き出す。
まるで目が疲れたから外の空気を吸ってきまーすといった足取りの軽さで廊下へ続くドアに向かった。


バタン。


ドアが閉まった瞬間、部屋の空気が一気に緩む。
しかし、相変わらず僕への懇願にも似た空気は消えない。

はいはい。すぐ行きますって。
食べかけのロールケーキをそのままに立ち上がり、ドアへ向かう。

言われなくても、これは僕の役目だ。
むしろ他の誰かがやると名乗り出たとしても、譲るわけがない。



廊下へ出ると賑やかな声は遠くなり、ドアを閉めるとそれは聞こえなくなった。
件の人物は、ドアの正面より1mほど離れた壁にもたれて、こっちを見ていた。
まるですぐに僕が追ってくるのを知っていたかのようだ。

やっぱりか。

「……ヒョン。気付いててやるのは、タチが悪いですよ」
「そうだな。ごめんな?」


僕の言葉を受けると、ユノはしゅんとしたふりをして見せる。
しかられた子供が謝るふりだけして、腹の中ではほくそ笑んでいるような顔をしてだ。


そもそも人一倍周囲に気を配っているこの人が、楽屋の空気に気付かないはずはない。
分かっていてあの場で一人、ナーバスになっていますよ!という雰囲気をプンプンさせながらゲームをしていたということだ。
僕らの心情を推し量って扱いが慎重になっている周囲がどうするのか試してみた、というところだろう。
カッコイイのは舞台の上。舞台を降りたらイタズラも大好き、楽しいことも大好き、まるで少年のような兄さんなのだ。



だけど、すぐに考えを改める。
あのユノが、ピリピリした姿を晒していたずらに皆を心配させるようなことをするだろうか……


真意を探ろうとしても正しい答えは見つからない。
一見分かりやすいようで隠すのも上手い人だから。
こんな風にユノのことがちゃんと見えないときはいつも思う。
もはやカリスマ・ユノからは想像もできないような勢いで、全身全霊で僕に我儘言ったり、愚痴ったり、だだ甘えをしてくれたらいいのに、と。
けれどそれは無理だと分かっている。
僕にすべてを見せてくれないのは、弟だからという理由だけではない。
きっとすべてを曝して頼るに足る男であると、認められていないからだ。


ひとつだけため息をつき、ユノのちょうど左側の20センチほど離れた位置に陣取って壁に背を預ける。
左側に立つのは、右側より心地良いからだ。ユノの心臓がある側だからだろうか。
そしてこの距離は、僕がユノの心情を量りかねている結果の現れでもある。

目線だけを隣に向けて軽めに口を開いた。

「みんなナーバスなヒョンに恐々としてますよ?」

恐々というのは正しくない。
ただただ心配している、が正しい。

「ぶっちゃけ迷惑です。」
「………ぶっちゃけすぎじゃない?ちょっとくらいオブラートに包もうよ」

ユノの肩が揺れた。ちょっと笑ったのが分かった。

「例えば、ヒョンのせいで平らげ損ねているロールケーキが僕を待っているから早く戻りましょう、とか?」
「なんか、存在意義がロールケーキに負けた気がするけどな」

口元には笑み。

「で、どうするんですか。戻ります?まだここにいます?」

ユノはカツンと靴の踵を壁にぶつけた。
動く気配はない。
質問への答えは、まだここにいる、らしい。

「…まぁ、いいですけど」

二人でここにいるのも悪くはない。






チームを組んだ当初は、こういう空間が気まずくて仕方がなかった。
それは僕がチームの足を引っ張っている現状を良く分かっていたし、一番年下で、たくさん気を使わなければならない立場だったから。
緊張と不安で眠れないことも多かったけど、舞台は待ってはくれない。
今日もやってくる。

その日の体調は最悪だった。
体調管理もできてこそプロ。それは分かっている。
だから表にはださない。
この舞台が終わるまで、決して弱い姿は見せない。
天使のようだと言ってもらえる笑顔ですべてを隠す。

舞台へ上がる通路を歩いていると、ポンポンと背中を叩かれた。
誰かと思って顔を向けるとユノだった。






「今日の舞台、………楽しめそうか?」


回想はユノの言葉で遮られた。
一瞬回想の続きかと錯覚しそうになったけれど、そうではない。
昔と変わらず彫刻のように完成されたディテールを持った横顔だが、今は男らしさが加わってさらに魅力を増している。
目は合わない。
だけど、問われた意味を考えるより先に言葉を返した。

「どうでしょうね。今は不安とか緊張のほうが大きいかも。ほら、足だってめっちゃ震えてますし」

人差し指で自分の足を指す。
その指を追って、ユノの視線が斜めに下りてきて僕の足に辿り着いた。

「…むかつくくらいスリムな足だな。って、震えてないし!」
「目では捉えられないくらい高速で震えているんです」

今度はユノと目が合う。
ぽかんと口を開けてこっちを見ていた。
実は、ユノの瞳に自分が映る距離で目を合わせるのは苦手だったりする。
言葉では上手く表現できないけれど、胸の奥がざわつくからだ。
そんな感覚をなんとかやり過ごしつつ真顔で見つめ返していたら、ユノが声を立てて笑いはじめた。


いつもの笑い方だ。つられて笑ってしまうような幸せなやつ。


「チャンミナ~…お前はやっぱり最強だ」

僕の腕をバシバシ叩く。
まだ笑いが止まる気配はない。
そんなユノにちょっと安心を覚えながら、先ほどの言葉を考える。



本当は“楽しめそうか”ではなく、今日の舞台への不安を口にしたかったのではないだろうか。
けれどそれを口にしてしまったら、これまでの努力を否定するようなものだと思ったから、問いを変えた。



復帰の舞台が決まった日から、僕らはやれるだけのことをしてきた。
立てなくなるまで踊り続けて、声が枯れるまで歌い、アドバイスをしあった。
昔の方が良かったと言わせないパフォーマンスを見せつけ、これが新しい東方神起の始まりだと宣言するために。


そんな中でも、僕とユノは同じことを思いつづけていたはずだ。


5人のパフォーマンスを知っているファンを、2人だけで満足させられるのだろうか。
そもそもファンが僕たちを待っていてくれているのだろうか。


これからも東方神起で在り続けることが出来るのだろうか    と。



ただ、僕には不安の中にも確信めいたものがあった。
すべてが期待とは反対に転がったとしても、ユノとなら最悪も最高に変えられる。

さらに言えば、僕が初めてユノの舞台パフォーマンス見たときの、あの強烈な印象。

俯き加減に佇んでいたユノが顔を上げた瞬間、僕の知っているユノは、そこにいなかった。
モデル顔負けの美しくて鍛えられた肢体が、まるで重力を感じていないかのような軽やかさで動き出す。
視線の動き、息づかい、顔の角度、指先、多彩で魅惑的な表情、全てを駆使して、魅せる。
誰もが息を止めて、ユノだけを追う。
もちろん、僕も。
そして、ユノと視線がぶつかったとき、ユノは艶やかな笑みを浮かべた。





      そう。ここにいるのは、完璧なカリスマ。




真っ先に頭に浮かんだ言葉。
言葉にしてしまうとチープだけど、これしか浮かばなかった。
この人こそ“本物”なのだと体が震えた感覚。
この衝撃が忘れられない。

僕がそうであったように、観衆だって忘れられるはずがない。
だから、




「大丈夫ですよ」



思いをめいっぱい込めて、言葉にする。
ユノの笑いがピタリと止まった。

それに、と思う。
ユノは舞台の上だけの人でない。
どんなときでも真摯に向き合おうとする誠実さ。
自分の思いや考え、善悪をきっちり口にできる強さ。
子供やお年寄りに優しくて思いやりに溢れた姿。
いつもファンやスタッフを大切にする温かい心。
たまに見せてしまう天然なユノ。

多くの人が見てきた。
誰しもがそんなユノを敬愛して止まなかったはずだから。




「絶対大丈夫。ユノヒョンは最高ですから。」




20センチの距離を詰めて、肩をトンとぶつけてみる。
でも、言葉は返ってこなかった。




“大丈夫”だなんて、僕がユノに言うには、軽すぎたのだろうか。

だけど、なぜ僕がこの言葉を口にしたのか、敏いユノは気付いているはずだ。
ユノが僕に、何度も何度も言ってくれた言葉なのだから。





途切れていた回想が映画のように流れ始める。

そう、舞台へ続く廊下でのこと。
背中を叩かれて初めて、ユノが隣にいることに気づいた。
メンバーの先頭を歩いてはずのユノがなぜ?
困惑。
でも、僕の視界は、僕に向けられたキラキラした眩しい笑顔でいっぱいになる。

「大丈夫」

すぐには理解できなかった。

「大丈夫だからな?」

ユノは確認するようにもう一度僕の背中を叩いて、先頭にかけていった。
ドアの向こうに消えていく背中を見つめながら、僕の状態に気づいての行動だろうと思った。
そのうえで、大丈夫か?と体調を心配するのではなく、大丈夫だと言い切った。
そして、僕に言い聞かせたのだ。

なぜそう言ったのか、その時は分からなかった。
でも舞台に上がって、理解した。

いつものように全力で歌って踊るユノ。
僕の近くを通るときは、腕だったり背中だったり、ポンと叩いていく。
倒れそうな体を支えてくれている気がした。
ユノの気迫に引っ張られるように、僕も最高のパフォーマンスを見せることができた。




その日から、ユノの“大丈夫”は僕にとっての魔法の言葉になった。







今度は、肩かかる重みにより、回想は終了。
横を見ると、ユノのつむじが見える。
こんな角度で見るのは初めてだからか、トクンと心臓が鳴った気がした。

「心がこもってないよ?」

からかうような口調。
大丈夫の魔法が効いたのだろうか。
…だったら嬉しい。

「それは失礼しました。じゃぁ、もう一度言いましょうか。ユノヒョンは最…!?」

同じ言葉を繰り返そうとしたら、肩がどんどん重くなって、よろめきそうになる。
全力で、むしろ、より体重をかけるようにして、ユノは僕にもたれかかっていた。

「…ヒョン、これは何の遊びですか」
「チャンミンは…すっかり大人になったんだなぁ」
「スルーですか。そして、結構前から僕は大人ですけどね」




「こんなことしても一緒に倒れちゃったりしないってことだよなー?」




僕は気付く。
この状態、言葉…………今、ユノに甘えられている最中なのだろうか。
これからは、僕を頼ってくれるということなのだろうか。
一歩後ろではなく、隣に立つ資格を得たのだろうか。

今どんな顔をしているのだろう。
照れた顔?優しい顔?困惑している顔?嬉しい顔?

のぞき込みたい欲求は、ユノの重みで動けないことにより封じられている。
…まさか、それを見越しての、行動だろうか…
そんな疑いを抱きながらも僕は、当たり前であるかのように、大人ぶった、ふざけた言葉を返すのだった。


「今更ですか? なんなら、お姫様だっこもできますよ」
「…う、それはなんか嫌だな…」
「ヒョンを抱っこするためだけに上腕筋を鍛えましたから」
「それ、マネージャーに言ったら『そんなくだらないことのためにダンベルを持ち歩いていたのか』って怒鳴られるぞ」
「マネージャーもイイ体になったし、感謝されると思いますけど」
「お!!たしかにーっ!!!」





そのとき、スタッフから遠慮がちに声がかけられた。
舞台の時間だと。


ユノは僕にもたれていた体を起こして、まっすぐ向き直った。
そこにいたのは、ニヤリと唇の端を上げて笑む、あまりに不敵なユノ。

僕の見てみたかった顔は、その笑みの下に隠してしまったらしい。
でも、いいんだ。
こんな顔をするユノも久し振りに見るのだから。

自分は最高なのだと疑わない、舞台上のユノ。




「これが俺たちの東方神起だってゆうところを、見せよう」




誰より、何より、最高の人。頂きが似合う人。




「はい!」




僕の返事も自然と力が入る。
もう一度始めるのだ。

ユノは僕に背を向けて歩きだす。
僕はその背を追う。

でも僕が一歩を踏み出す前に、ユノが足を止めた。
振り返る。




「ありがと、チャンミン」





僕はユノの隣に並んで、頷いた。






end...

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このブログに出てくる二人のキャラクターと関係性を盛り込んでみましたが、
書いていて気付きました。
脳内の2人はあんまりべたべた甘甘ではありませんね!!
ユノ、もっとチャンミンに甘えてあげて!!!
そう思いながらも、文章は気持ちとは裏腹・・・

何故だ!!

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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。