今 宵 は 、 星 屑 が 落 ち て き た 。

手 の 中 で キ ラ リ と 光 る 。

僕 は そ れ に キ ス を し て か ら 、 空 に 還 し た 。








【 恋する星 /05.】









「ふた重…だったんですね」


僕の、20センチ向こう。
なんかふわふわした別の生き物に見える。


「よくひと重に間違えられる」
「一石二鳥ですね。切れ長ビューティーもふた重きゅるるんも両方いけます」
「いいこと言うな!」
「ありがとうございます」
「お前はでっかい。ヒチョルといい勝負だ」
「レラ様の方が僕よりおっきな世界が見えていそうです」
「俺はどこ見てもお前しか見えなーい」


眉辺りに手をかざして、ちっちゃくきょろきょろ。


「世界のスターなのに」
「今は違うし。お前だけがいい」
「……普通にそーゆうこと言えちゃうとこ、そろそろ耐性できてきました」
「そーゆうことってどーゆうこと?」
「どうゆうことって…」
「うんうん」
「えっと、しょ………ゆ…、…ノれません。激しく不本意です」
「ぷはっ」
「女性なら胸をキュンとさせてしまいそうな台詞ってことですから!」
「うん、知ってる」
「え、故意に言ってたってことですか!?」
「ホントにそー思ってるから言ってるだけ」


って言いつつ、僕の胸元に額を押し付けて、くくくと笑う。
完全に僕の反応を見て遊んでいたに違いないのに、悪い気がしないあたり、
スターは僕の平和をひたすら維持できるのかもしれない。


「で、耐性できてないときは、キュンしてたんだ?」
「えっ!……しませんよ…男ですから」
「ふうん。 じゃーどんな時にキュンすんの?」
「どんな時……」


ぽわんと浮かんだのは、さっき や さっきの、


「甘えられたみたいのとか……」


ポロリと脳内が飛び出てきたから、慌てて付け加える。
「一般女性は、てことですけど」

そうは言ったものの、すぐに何十万人の女性を虜にしているスターだってことを思い出し、
もはや語尾は消えゆくしかない。
スターはそんな僕に失笑するでもなく、


「ふうん? 試してみようぜ」


語尾に★が付いてるみたいなノリで、おかしな事を言い出した。







「試すって?」
「キュンしたら教えろよ」
「いえ、だから僕は男ですから」
「甘えるってどーやんだろー。 いざとなると浮かばないな」


僕の主張は流しそうめんよりキレイさっぱりつるりと流して、
首を傾げるスター。

いいんです、別に。
それより、あの…ぽわんと浮かんだ数々…スターにとっては甘えるうちに入らないのか。
だとしても、キュンさせる甘え方としては完璧です。





「とりあえずぅ~」

って語尾を伸ばしながら
よいしょと体を寄せてくるスター。


いきなり10センチの距離。


水晶みたいな黒い瞳に映った僕がよく見える。
もっと見ていたかったのに、映った僕があまりに恥ずかしい顔をしてたから、
動揺しすぎて目が泳いでしまった。


「…チャンミン」
「あー…はい」
「今俺の方がキュンしちゃった」


スターは両手を自分の頬にぺたとして、くねくねする。


「空気が入って寒いから動かないでください」
「そーゆう顔も、すげー可愛い」
「それ、褒め言葉にならないですからね」


自分のことは棚上げしとく。


「チャンミンて実は俺の顔、見惚れるくらいすきなんだ?」


ええ特に目が。
…じゃなくて、


「あのですね、」


ふわふわ笑うスターの方が可愛いから。


「…気恥ずかしいので、やめてください。」
「じゃぁカッコイイにする?」
「…なにがじゃぁか分かりませんが、どちらも結構です」
「チャーミングがいい?」
「…なんかピカピカにできそうですね」
「ならプリティ」
「…ステッキで戦えそうですね」
「最強にカッコ良くて宇宙一可愛いくて、もうチャーミングでプリプリプリティなチャンミン」
「長いのでチャンミンでいいです」
「じゃぁチャンミン」
「もうこの下り、飽きません?」
「そう?俺は楽しい」


そう言ってまた笑う。
ふわふわ。ふわふわ。


ピコンと頭上にクエスチョンマークが立つ。
そのふわふわって、もしかして…


「…眠いんですか」
「そんなことない」


両目をこすこすしながら言われても。


「眠いなら寝ましょう?」
「胸キュンゲームしたいしー」
「いつの間にゲームになったんですか」
「勝ち負けある?」
「なぜそれを僕に聞くんですか」
「どうなったら勝ち? やっぱキュンとしたら勝ちだろーな」
「微妙に会話になってませんが、普通はそれ負けです。さっき自爆したからでしょ」
「バレたか」


てへ、と笑うアイドル。
何したって許されるに違いない。


「なら胸キュンゲームに勝って、気持ちよく寝てください」
「勝つ?チャンミンがキュンするってこと?」
「そうです」
「よし勝つー!」
「とりあえず目、つむってくれますか」
「ん? ちゅーの前触れ? チャンミンがするの? されるならまだしも? それキュンするの? むしろ俺、負けない?」
「しーっ!! 黙ってください」
「はい。…お口チャーック」


必殺技みたいに言ってからむんと口をつぐんで、目を閉じるスター。


星が瞼の奥に隠れ、映る僕も見えなくなった。







…さっき、顔がすきなの?って聞かれたけど、
目だけじゃなくて、構成するパーツ全てが綺麗だと思う。
女性を見てキレイだなって思う種類のキレイじゃなくて。

この人を知らないときは、そんな風に思ったことなかった。
実力人気共にトップクラスの大スター。
それだけ。

でも、人となりを知っていくにつれ、この人を形容する様々な言葉を1日で体感した。




今では…多分、

目の前にいるこの人を、好きになってる。




大スターなんだから、
同性なんだから、
みんなのアイドルなんだから、

好きになっちゃだめとか、好きになるなんてどうしようとか、
そんなふうに思わないのは、レラ様の存在が大きいかもしれない。

だけどひとつ、
ファンとしての好きと、この人への好きには、違いがある。









「チャンミーン。目、閉じてたら、このまま寝ちゃいそうだ…」

「…寝てもいいですよ」



唇に羽みたいに触れた。
スターの言うちゅーはおしまい。


そう。僕の好きは、手の届かない人だって分かっていてもなお
同じだけの想いを返して欲しい、
そーゆう種類の、好き。
捧げることより、返されたぶんだけ幸せを感じる、そーゆう好き。

だから欲を持てば持つほど、この人の側にいるのが苦しくなりそうで怖い。
捧げ続けることはできないから。
返して欲しい想いが大きすぎて、きっと自分を追い詰める。

だから、ほんの少しだけ。ほんの少しだけでいい。







「…キュンは?」
「あなたの勝ちです」


スターは薄く目を開いて、再び僕を映す。
それから緩く首を振った。


「俺は、ボロ勝ちすんだ」
「僕をキュンさせて?」
「そ。だから…」


おねむさんはどこへやら。
口元に浮かんだのは艶やかな笑み。
誘う指先が、僕の唇の形をゆっくり辿った。



「…もっと、しようぜ?」



スターの纏う雰囲気が一瞬のうちに濃密なものに変わって、動揺する。
天使みたいなこの人しか知らなかったから。


唇が僕に触れ、
指の後を追う。

頬を伝い、
耳を噛み、
首筋を吸い、
胸元に辿り着き、

体を跨いで、僕を見下ろした。


その瞳が雄弁に語るこの行為の目的に気付いて、僕は愕然とする。








「あなたは…僕に欲を持たせるつもりですか?」



スターは片方の口角を上げて悠然と笑んだ。

そして自分のシャツに両手をかけて
魅せつけるようにゆっくり脱ぐと
まっすぐ伸ばした腕をベッドの外に向けて
パサリと落とす。

僕を煽りたかったのなら、成功というしかない。



「だって、俺ばっかりお前が欲しいなんて、ずるいだろ?」



さらさらの髪の毛を後ろに撫で付けるように
かきあげた。
目を奪うには十分だ。



「……欲張りになりたくないんです…」



それでも抵抗する臆病な僕に、ピタリと動きが止まる。



「お前にとって俺は…遠い遠い空の、高い高いとこに在る、手の届かない星と同じ?」

「はい……」



その言葉に何度も頷いた。
どんなに背伸びしたって届かない。
できるのは見上げることくらい。
いくら欲しいと願ったって、手に入ることは叶わない。






「なら、空になれよ」

「え?」






まるで僕の葛藤なんて蹴散らしてしまうかのような言葉が降ってきた。



「俺が星なら、お前は俺の空になればいい」



だろ? としたり顔で笑いかける表情は、天使に戻っていて。
この人の空になるなんて、具体性もなければ意味だって全然分からないのに、
なぜかすべてが解決したみたいな、そんな気持ちになっていた。

ゆっくり体を起こして、少しひんやりした体を抱きしめる。






「僕は…あなたの空になれますか」


くてと預けられた重みが答える。


「俺より上まで登って来たらな」






そのひと言で、具体的なプランが頭に浮かんできた。
明日から仕事漬けの日々になりそうだ。


「長くは待たせません」


そのまま体を入れ替えて、今度は僕が見下ろす。
迷うことなく、シャツを脱いだ。

そしたら、

「やっぱバキバキじゃねーか」

ちっちゃい悔しさが腹に刺さる。
可笑しくて声を上げて笑ったら睨まれた。
でも、


「マシュマロくらいがちょうどいいです」
「フォローになってねぇし。俺は板チョコのがいい」
「すべすべで弾力があって、手触りが気持ちいのに」


滑らからな腹部の上をすべって、その下に手を這わせると、
ひくりと腰が揺れた。


「俺がしたい」
「だめです」
「なんでだよ」
「星はおとなしく未来の空に抱かれてください」
「……今日だけだからな。本物の空になるまで、俺がするから」


不満げに言い募る唇にキスをする。


「チャンミン」


返事を促されても、はいとは言えないから、
深い深いキスを、答えにした。












end..














あ る 日 、 星 は 、 友 達 の 空 で 見 つ け た 。



金 色 や 銀 色 の テ ー プ が 舞 う 宙 を 見 上 げ る こ と も な く 、

た だ 一 心 に 、

彼 だ け を 見 つ め 続 け て い た 、

ま っ す ぐ な 瞳 を 。





そ の 瞬 間 か ら 、 星 は 瞳 に 、 恋 を し て い た 。














»Read more...

スポンサーサイト
【 恋する星 /06.】







「ほんとにいた…」


1番奥の隅っこ。
黒いパーカーに青いジーンズ。
ソファー席で長い足を優雅に組んで座っていた。
リズムを取るように肘掛に置かれた指が動いてる。
ざわめきも視線も、何ひとつ気にしてる様子もなく、
店内でも外でもなく、ましてや誰かでもなく、別のところを見てた。







一週間前の朝。
抱きしめなて眠ったはずなのに、目が覚めたらスターはいなくて。
だけど、冷たくなったシーツの上には手帳を破ったみたいな紙が置いてあってた。

『チャンミン
仕事だから先出るな。来週、朝飯食べよう。何が何でも来い。
ユノ』

メモには店の名前だけで連絡先とか書かれてなかったから、確認のとりようもなくて。
だから…本当にこのカフェにスターが来るのか半信半疑だったんだけど、
すぐそこにスターがいて…

なんだか胸が熱くなる。







急ぎ足でテーブルに近づいた。


「お待たせしちゃいましたか?」


スターの目が僕に向く。
直後、まん丸な目がさらに丸くなったかと思えば、
ぽかんと口を開けて固まってしまった。


まさか…これって、
何故此処にコイツが現れたんだ状態?


「あの、…」


熱かった胸がまたたくまに冷たくなる。
なんて言っていいか分からなくて言葉が続かなかったけど、
そもそもイヤフォンをしたままのスターに聞こえるはずもなく。


お互い、まさに 『……』 これ。


でもギィコって鈍さで動き出したかと思ったら、スターはイヤフォンを外しつつ、
目の前に立った僕を、頭のてっぺんから足先まで眺めはじめる。
たっぷり。それはもうたっぷりと。
そして顔に戻ってきたときには、凄い勢いで瞳のキラキラが割り増してた。




「俺のチャンミン、…カッコよすぎるよな?」

何故にそれを僕に問いかける。

「はぁ……ありがとうございます」

スーツの胸元あたりを手持ち無沙汰に撫でてしまった。



一週間ぶりの第一声。
CDでも動画でもなく、生声だよ?
僕は毎日どこかでスターを見てたけど、スターは僕を見てないわけで。
久しぶり、とか、元気だった、とかじゃないんだ。
しゅわしゅわ。しゅわしゅわ。気が抜けてしまう。

スターはやっぱりスターだった。









「座んないの?」
「あ、そうですね」
「コーヒーでよかった?」

僕の分らしい。
テーブルの真ん中あたりにあったカップやらサンドウィッチなどが、ずさーって寄せられる。

「ありがとうございます。いただきます」
「なーなーチャンミン」
「はい」

両腕をテーブルに乗せて前のめり気味なスター。

「社長って何の会社やってんの?」
「やっと興味がわきましたか」
「だって、聞いても分かんなかったら失礼になりそうだし」
「じゃあなんで聞きたくなったんですか」
「そんなモデルみたいなスーツ着て仕事する職業、そりゃあ気になるだろ?」



スターはうんしょと袖の中に手をスッポリ隠して腕を組んだ。
いわゆる萌え袖。

サイズの合っていない服を着ることの何がいいかわからないし、あざといとゆうかなんとゆうか。
僕は体に合った服を着こなしてる人の方が好きだ。

な〜んて思ってたけど、全面的に間違ってました。
スターの萌え袖は…ちっちゃい子みたいな可愛さが75°くらいの角度でギュンと登ってくる。

自分の顔がどーなってるかなんて想像したくもない。
エヘンと咳払いをした。







「名刺渡しときましょうか」
「もらっていいの?」

カバンからケースを取り出す。
スターは指先だけをニョキと出して、両手で恭しく受け取った。


「……えっ!?」


片手で口元を押さえるスター。


「ご存知でしたか」
「当たり前じゃん! 最近、スタイリストさんから名前よく聞く。 スーツのブランドの」


だけど、スターが仕事で着たことはないはずだ。
タイアップもしてなければ、メディア露出情報も入ってない。


「反応に困るような知名度じゃなくて安心しました」
「俺も」

えへへ、と笑って更に僕の方に身を乗り出す。

「今度、見立ててもらいに行っていい?」
「ありがとうございます。でも……」
「ん?」
「………あなたに着てもらうのはしばらく先でもいいですか」
「なんで? 俺に着て欲しくない?」


トスンと背もたれに体を預けて
しょんぼりしてますって顔で言うから、慌てて言葉を継ぐ。


「違いますよ! ただ…」





この人の空になると決めてから、
僕には考え続けてきたことがある。


それは、
       新しいレーベルを掲げ、この人にブランドモデルをお願いすること。

それがこの人を飾る、初めてにしたい。






「ただ、なんだよ」
「……そのうちプレゼントしますから、待っててください」
「まじー! なら待ってる」
「その代わり、それまでうちのスーツは着ちゃだめですよ」
「なんでだよ」
「なんでも」
「なんでもってなんだよ」
「ネクタイもつけますから」
「物じゃ釣られないし」
「靴もです」
「だーかーらー」
「時計も選びます」
「…お前が選ぶの?」
「はい、シャツもです」
「……全身、チャンミンコーデ?」
「そーゆうことです。 約束してくれますか」

スターはにこーっと笑って袖を重ねた上に顎を乗せた。
うんうん首を縦にふる。

「約束する」
「ありがとうございます」
「俺もお礼しなきゃだな。 何欲しい?」
「そうですね…欲しいものはたくさんありますけど」
「たくさんあるの? 意外だな…」
「僕は案外欲張りですよ」
「ふぅん? 欲張ってもいいけど、俺にできることにしとけよ」
「…3つお願いしてもいいですか?」
「3つ?」
「ダメですか?」
「……いやいーけど。 なに?」
「その時になったら言うことにします」
「えー、気になるだろ。 今言えよ」
「じゃあ…」
「じゃあ?」
「今日から叶えてくれるなら、1個だけ言います」
「…内容聞いてから決めていい?」
「なら、胸の内にしまっときます」
「……… わーかった!!  いーよ、叶えてやるから。 …で、何?」
「毎日」
「毎日?」
「一枚」
「一枚?」
「セルカを送ってください」
「セルカー?」


スターはポケットから携帯を取り出して僕に後頭部を向けた。
頭上斜め上に向けたカメラにピースする。
ほっぺにムニュとくっつけて。

カシャ。

ピポポコ。カチコチ。ピロリン。


「今日の約束完了。 だろ?」


携帯のCMか。
コツンと頭にぶつけて得意気に笑うもんだから…


ガタンと音を立てて立ち上がった。

「…チャンミン?」
「詰めてください」
「お、おう」

スターを壁際に押しやり隣に座る。
それから首にかけられていたイヤフォンを取ると、
スターの目の前に身を乗り出し、片方をスターの耳へ。片方は僕の耳に。

「隣に座る口実できましたね」

触れる腕からぬくもりがが伝わってくるような気がして
胸の中まであったかくなる。
ホントは抱きしめたいけど、これで我慢。

「お前って…」
「ん?」
「……絶対モテるよな」
「何の話ですか?」
「ううん、別に」

何だか急に元気がなくなった気がして、心配になった。
向こう側の腕にそっと触れて、顔を覗き込む。
目だけで様子を伺った。

相変わらず星みたいな輝きを秘めた瞳。




「……!」




急にひんやりした体温を感じて、思わず下を見てしまう。

くっついてる方の腕。

指先を、スターが握っていた。




視線を戻すと、スターは口笛を吹く真似みたいな口をして、素知らぬ顔をする。
やることなすこと可愛くて…顔が緩むのを止められない。



「急にどうしたんですか」

「いーだろー。 俺のなんだから」

「僕の指はあなたの?」

「…違うのかよ」



ばちんと視線がぶつかる。
その瞳の揺らめきに…初めて、自分ってこんなに性格悪かったんだと自覚した。

…僕がモテそうで心配なの? 心変わりしちゃいそうだって。
自分だけのものだって、確認したかったの?

僕の存在に、行動に、言葉に、スターが揺れている。
それが、とろけそうなくらい嬉しいだなんて。





「違いません。」





指先を握り返したらスターはつーんと鼻を上に向けて、
当たり前だからなみたいに、ふふんと笑った。










「…ってゆうか、僕の携帯にメールしましたよね?」
「うん」
「……連絡先、交換してませんよね?」
「うん」
「………何で知ってたんですか?」
「覚えてた」
「…………どこで?」
「うん」
「……………どこだ?」



首を傾げたらスターの頭とこっつんこ。
顔を見合わせて僕らは笑った。










end..

»Read more...

tare.gif 【視線のさきには、/08.】






無造作に置かれたままの携帯。
黒い画面が明るく光っていた。

音楽を止めて電話に出る。


「もしもし…」
「チャンミン?」


マネージャーだった。


「まだスタジオ?」
「、はい」
「息切れてるけど、大丈夫か」
「まぁなんとか…」
「一晩中?」
「……ええまぁ…、すみません、ご心配をおかけしてます」
「気にすんな。 あと30分くらいで迎えに行きたいんだけど…」
「わかりました」
「ユノにも伝えといて」
「えっ? ユノヒョン、ですか」
「そっちいないの?」
「僕一人ですけど」
「あれっおかしいな」
「いつこっちに向かいましたか」
「仕事終わった足で送ってったから… 0時くらいか」
「電話してみます」
「いや、俺が探しとく。 ユノ連れて迎えに行くから、シャワー浴びて休んでろ」
「…わかりました。 よろしくお願いします」


昨日、僕の代わりに頭を下げてくれた人。
こっちに向かったのなら、この建物のどこかにいるの?


そう思ったら、会えた義理でもないくせに、もの凄く顔が見たくなって…
スタジオを飛び出した。



      が。

「…あれっ」


なんか視界の端に黒い塊があった気がして
三歩戻って、振り返る。


「まさか…」


スタジオの隅っこに、パーカーをすっぽりかぶって、長い足を抱えてる人がいた。
しかも僕が持ってきた着替えを座布団よろしく尻に敷いている。


「ユンホ…先輩?」


足音を立てないように近づいて、目の前にしゃがみ込む。
そーっとフードを持ち上げた。
膝に押されてほっぺがぷにゅっとなってるし、唇もタコだけど、間違いない。


「いつ入ってきたんだ…」


全然気づかなかった。
0時には…って言ってたけど、もしかして… ずっとここにいたの?



誰も居ないことは分かってるけど… 一応ぐるりと周りを見回す。
それから、ドキドキしつつ指を伸ばして、すべすべそうなほっぺに触れてみた。
柔らかい…


…ねぇ、ユンホ先輩。


「僕に本番できるか心配で… こっそり見に来たの?」


やるだけのことはやった。でも…僕には、『でも』 が、捨てきれない。


「…こんなんじゃ、ふがいないですよね 」


自分が頑張ればいいだけだと思ってたけど、
頑張っても100パーセントじゃないし、こうして迷惑かけてる。
努力のレベルが全然足りないのかもしれない。


「もっともっと頑張ったら、先輩の傍にいられますか?」


見てるだけじゃない。
堂々と、触れられるくらい。










プルル。
電話の音に、慌てて指を握りこむ。

無意識の動作だろう。
ユンホ先輩はポケットから引っ張り出して、耳に当てた。


「はい…うん。 ん? あ、… 一緒にいる」


間近にいた僕に気付いて、半目が驚いたようにぱちくりした。


「…わかった。…よろしく」


相手はきっとマネージャーだ。
話してる内容は大体想像がつくけど。
ユンホ先輩が電話を切ったタイミングで正座をして頭を下げた。


「昨日はすみませんでした!」
「おう、大丈夫だ。気にすんな」


何でもなかったかのように言う。
昨日とおんなじ、綿毛のような軽さで。
全然軽くなんかないのに。
なんで大丈夫だなんて言うんだろう。


「……僕が頼りないせいですけど、でも…気にしないわけないじゃないですか」
「チャンミン…」
「ユンホ先輩に尻拭いさせた僕がどんな気持ちかわかりますか」
「マネージャーに聞いたの?」


聞いたんじゃない。 見てた。
ユンホ先輩は苦い表情を浮かべる。


「罵倒してくれればいいのに。 お前のせいで迷惑してるんだって」
「怒ってんのか」
「いえ、自分が情けなくて…いたたまれないだけです。今日だって夜通し付き合せて…」
「やっぱ裏目に出たか」
「やっぱり?」
「うん。 迷ったんだけど…」


ユンホ先輩は両手を僕の肩に置いた。


「ごめんな。 俺がここにいるの、俺のエゴだから」
「……エゴ?」


意味がわからない。
ユンホ先輩は両手を下ろしてあぐらをかいた。


「俺に対して申し訳なさいっぱいなのは分かってた。
 なのに追い打ちかけるみたいに一晩練習に付き合うなんて、
 お前にとっては嫌がらせみたいなもんだろうけど…お前のこと、見てたかったんだ」
「………寝てました」
「それな!あはは」
「笑って誤魔化す気ですね」
「いやいや、寝たフリだから」
「家に帰ればいいのに」
「まあ、それはそうなんだけどな」
「心配だったんでしょ? 僕に本番ができるか」
「そうじゃないよ、見てたかっただけってのはホント」
「嘘だ」
「俺はうそつきなの?」


ユンホ先輩は足の上に肘をついて手のひらにほっぺを乗っける。
斜め下から僕を見上げた。

うっと言葉に詰まる。


「なーチャンミン。 俺はさ…お前が思ってるよりお前のこと、知ってる」
「たとえば?」
「自分に厳しい完璧主義者なこと」
「さりげなく悪口ですよね」
「じゃあ言い方変えるか」
「そうしてください」
「頑張り屋さん♪」
「……」
「そんな顔すんなって! ほんとに分かってるから」


頬杖をやめたユンホ先輩はトスンと壁に背をあずけて、なぜか指揮者みたいに指を振る。


「歌とかダンスとか動線は、完璧だろ」
「はい、多分…」
「お前が引っかかってんのは、表現力じゃね?」
「………」
「目に見える部分は真似できるけどアイツが何を伝えたくて歌ってんのか、踊ってんのか、
 今のお前にはわかんねーだろ? お前のじゃないからな」
「つまり……僕はどう頑張っても劣るんですね…」


未来の僕のようにはなれない。

だけどユンホ先輩は左右に首を振った。
言ったのは、ユンホ先輩なのに。


「勘違いしてる。 劣る劣らないの問題じゃねーよ。
 今のお前を見せればいい。 映像のチャンミンになる必要はないんだから」
「でも…」
「一日で色んなこと知って、気付いて、いっぱい成長したろ?」


両手が僕に向かってまっすぐ伸ばされる。




「だから褒めてやる」
「えっ」




何でそうなる。
褒められることもしてないのに。
しかも自分からあのユンホ先輩の胸に飛び込むなんて出来るわけもなく…
かといって抱きしめていい前フリを無視できるはずもないし、
どうしていいかわからない。
右往左往とはまさにこれ。


「まったく」


ユンホ先輩は仕方ないなぁとばかりに笑うと、
そんな僕の腕を取って引っ張った。


「わっ!」


正座をしてた僕はそのまま倒れ込むしかない。
だけど、がっしりした胸に抱きとめられた。

そのままそろりと背中に腕が回ってきて、ぎゅうってされる。
僕もおんなじように、力いっぱいぎゅうってした。


「ユンホ先輩…意外と細い」


腰にまわした腕は十分に余っていて、もう二周くらい抱きしめたい。


「意外とって失礼だな。それにヒョンって呼べっつったろ?」
「はい…ユノヒョン」
「よーし。 にしても汗だくだな」
「あ!ごめんなさい」


慌てて離れようと体を起こしたところで、ワシワシと頭を撫でられた。







「頑張ったな、チャンミン」







朝日より煌めいててあったかい笑顔。 キラキラが僕を照らす。


頑張った…。
僕は頑張ったのかな。


本番が上手くいったわけでもないのに、
出来る気がしてくる。





「ユノヒョン…」
「ん?」
「…もしかして」






一晩中僕に付き合ってくれてたのは、
このひと言を僕に言うためだった?








「もー …大好きです。」



真顔な僕の口から飛び出したのは、そんな告白。
ユンホ先輩は、可愛らしく首を傾げて、



「知ってるけど?」



なぜかドヤ顔でふふんとするもんだから、… 思わず笑ってしまった。











end..

»Read more...

 | Home | 

プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。