tare.gif 【視線のさきには、/05.】






スタジオを出た僕らは、またワゴンに乗り込む。

「どうだった?」

マネージャーの心配と不安の入り混じった第一声。

ユンホ先輩は僕を見てニヤりと不敵に笑う。
そしてクイと顎をしゃくった。

「多分…大丈夫です」

答えたのは僕。
とはいえ、自信があるわけではない。
ただ、身体がルーティンワークみたいに動いた、というだけだ。

「まじかーっ…よっしっっ!」

派手なガッツポーズをして満面の笑み。
ユノは運転席に身を乗り出してシートに腕をかけた。

「ちょっと、マネージャー。信じてなかったのかよ」
「もちろん信じてたさ!業界屈指の練習量を誇るコンビだからな!ただ、事が事なだけに…初めてのケースだから」
「まぁ、……問題はこの先なんだけどな」
「……え?」
「準備してくれた?」
「ぁ、ああ…」

マネージャーからはファイルに挟まれた紙を、ユンホ先輩からはタブレットを渡された。

「歌詞、出てくるとは思うけど、念のため。あと、どんな感じに撮られるか頭に入れとけ」
「今日の台本も渡す?」
「いや、いい。密着系カメラ、チャンミン撮らないよう言っといてくれる?」
「わかった」
「チャンミンはとりあえず俺から離れんな。でも周りの空気を読んで動け。なんかあったら俺がフォローする」
「はい」

難しいことを言われている気がするけど、
やるべきことは分かってた。

収録という名の本番。
これをまずは完璧にこなさなければならない。

僕はイヤフォンを取り付け、ユンホ先輩の指示を忠実に実行しはじめた。









到着したのはテレビ局。
ビルの地下に入り、ワゴンを下りる。
そのままエレベーターに乗り、収録スタジオに向かう。


第一スタジオ。


メタリックな扉を開けると、たくさんの人がきびきび動いていた。
僕らに目を止めたスタッフがあいさつをしてくる。


「遅れまして申し訳ありません。よろしくお願いします」


ユンホ先輩はスタジオに響き渡るような大きな声で言い、
スポットライトの当たる煌びやかなステージに歩いていく。

みんなは笑顔で迎えてくれるのに、どうして空気はこんなにピリついているんだろう。
そんな中を、どうして普通に歩けるんだろう。

僕は顔を伏せて、後を追った。





そして僕らが立たされたのは、スポットライトのすべてが集まる光の中心。


急にドクドクと脈が速くなる。
なんだこれ…


たくさんのカメラが僕に向いていて、
たくさんの目が僕を見ている。
たくさんの声が飛び交い、
たくさんの言葉が僕らに投げかけられていた。


そんな中……僕の視界は色を失ってゆき、耳は音を拒絶する。

いつのまにか、影絵が動くだけのお芝居みたいな世界にいた。







大丈夫か?


ユンホ先輩が何か言ってる。
遠い。
ひどく遠い。
聞こえない。


「…………。」
チャンミン?
「……すみ、ませ、ん…」


揺れながら謝る声が、頭の中に響くだけ。
聞こえているのだろうか…。


…と思ったら、ユンホ先輩が僕の手に触れた。
瞬間、反射的にキツく握ったままの手を胸元に引き寄せて………


…ハッとする。


振り払うみたいな行為。
ただ…震えを隠したかっただけなのに。


でもユンホ先輩は気分を害した顔も見せず、
キリリとした顔でポンと肩に手を置いた。







          そうだ。

ここに居るのは、“ 東方神起 ” のユノ・ユンホ。

僕は、チェガン・チャンミン。









ワゴンで見た映像の僕らは、『東方神起』 と紹介されていて、番組ではトリを務めていた。
登場した瞬間、歓声で地が揺れる。空気が変わる。
ピリっとするというより、浄化されてクリアになる感じ。
…本当に凄かった。
これがトップアーティストでなくて、何だというのか。

しかもパフォーマンスが始まったら、圧倒的なまでの存在感。
空気も感情も視線も全てを掌握する絶対的王者の風格。

ファンへのサービスだって僕だったら恥ずかしくてできない。
だけど、映像の中ではセクシーだったり可愛かったり、なにより踊りも歌もめちゃくちゃカッコよくて…
僕と同一人物だとは、一瞬たりとも思えなかった。

なのに、これを僕が…やる…?

たしかに、身体は動いた。
それだけ。
動いただけ。

立ち姿すらもう別人なのに、できるわけがない。
レベルが違う。


……それがわかっていてもなお、

役割をこなさなきゃ。
しっかりしなきゃ。
やらなきゃ。
踊らなきゃ。
歌わなきゃ。

僕は今、ユンホ先輩の隣に立っているんだから。












          それなのに。






音楽が鳴り始めても、どうすればいいのか分からなかった。

身体は動かないし、声も聞こえない。

何も出てこない。




ユンホ先輩はそんな僕を見て

周囲のざわめきから守るみたいに、





抱きしめた。



「ごめん、チャンミナ…」









続く..

»Read more...

スポンサーサイト
tare.gif 【視線のさきには、/06.】






楽屋に引き上げるとき、マネージャーはしきりに僕の緊張を解そうと話しかけ、
逆にユンホ先輩は黙ったまま。
だけど “ 東方神起 ” とネームのかかった部屋のドアを開け、僕に入るよう促したところで
初めて声を発した。

「申し訳ありませんが、15分だけ2人にしてください。」

一緒に移動していたスタッフは顔を見合わせて、頷いた。





僕とユンホ先輩、2人だけには広すぎる楽屋。

バタンと音を立てて扉が閉まった。
でもユンホ先輩の気配がなくて振り返る。


誰もいない。
僕、一人だった。



それが分かった瞬間、
力が抜けてへたり込んでしまう。
涙が溢れてきて、視界が霞んだ。


ぽたりぽたりと流れ落ちる。
とめどなく。






         『 俺の隣はお前しかいねーよ 』         


ユンホ先輩が、言った言葉。

喜んでたのがバカみたい。
今なら分かる。
あれは…未来の僕のことであって、僕じゃない。


積み重ねてきた “ 東方神起 ” は、
針に刺され続けるような痛みと
両手じゃ持てないくらい重たいプレッシャーを伴う場所で
戦ってきた、
未来の僕だけのもの。




だから……

戦えない今の僕には、ユンホ先輩の隣に立つ資格がない。









「チャンミン?」

扉の音と同時にユンホ先輩が入ってくる。

「ごめんな、ちょっとマネージャーに…」


振り向いた僕がぐしゃぐしゃな顔をしていて、びっくりしたはずなのに。
一瞬目を見開いただけで、ふんわり柔らかい笑顔を浮かべた。
そして、僕の前に回ってしゃがみ込むと、親指で頬を拭ってくれる。
だけど涙はぷくぷく溢れて止まらない。
ユンホ先輩の指を濡らした。




「…なんだよ、安心した。さすが俺のチャンミン」

白い歯が見える。
キラッキラの笑顔。

「なんですか、それ」

僕が泣いてて安心したの?
意味わかんない。
僕はユンホ先輩のなの?
ユンホ先輩は誰のなの。


ぐずと鼻をすすると、ユンホ先輩がポケットからハンカチを出した。

受け取る僕。
反射的に涙を拭おうとしたけど、直前でハタと手を止める。





……使うのか?

あのユンホ先輩のだぞ。
ジップロックすべきだろ。

ぐず。
もう一度鼻をすすり、右の尻を上げて、ハンカチをスッとポケットにしまった……。





「なんでインしたんだ」

ユンホ先輩は目元をくしゃっとさせて可笑しそうに笑う。

「…おかげさまで思考が正常に戻りました」
「ぷっ…そーなのか。よくわかんないけど、よかったよかった」


太陽みたいな笑顔で僕の頭をよしよしする。
涙で目が霞んでてよかった。
眩しくて耐えられるレベルじゃない。



「…あの、」
「ん?」
「リハーサル、上手くできなくて…ごめんなさい。」


ぐず。


「そーだな。話、しよっか」


自覚していても肯定されるとキツイ。

ユンホ先輩はその場にぺたりと尻を落ち着けて胡座をかいた。











「なぁ、チャンミン」
「はい。」
「本番、どーする?」


いきなりの核心。
…重たい。
だけど、ユンホ先輩の声のトーンはティッシュくらいの軽さ。

できます。
僕がそう言うとでも確信しているのだろうか。

「…選択肢、あるんですか?」
「そーだな。お前がどうしたいかによる。」
「僕が、…」

…どうしたいか。
僕に決めろというのか。


ユンホ先輩はチラと時計を見てから、片手を開いて僕に向けた。
考える時間は、5分。







僕の目の前のこの人は、頬杖をつき、今にも口笛を吹きそうな雰囲気。
どっからどう見てものんびりさん。

結構な緊急事態に直面してるはずなのに。

この態度が本当か嘘かわからないけど、
これだけははっきりしてる。



ユンホ先輩は          厳しい人。


ベストな答えを持っているのに、教えてくれない。
それは、
僕の口からそのベストを聞きたいからだろう。


だけど、いくら考えたって、僕が出すべき答えは…ひとつしかない。
ユンホ先輩の隣に立つ資格がないってわかった時から、決まっていた。







「できません」



そう告げる。



「うん」




ユンホ先輩は静かに頷いた。
それだけ。

都合良く受け取ってもいいのかな。
僕の答えを信じてくれてるって。

精一杯の、ベスト。




「明日ならできます。 だから、1日だけ時間をもらえますか」


正座し、床にぶつかる勢いで頭を下げた。


「わかったー」
「えっ、軽っ!!!」


上から降ってきた声に、がばっと頭を上げる。

羽毛布団くらいのトーンで了承されるとは。
しかも、太陽の下、干したてフカフカの清清しさ。


「わかった」
「いや、低い声で言いなおしても今更ですから」


…すごく大変な決断をしたと思ってるのは、僕だけみたいだった。










「安心したって言ったろ?」


そう言って、胸をグーでトンとされる。
たしかに…言ってたけど…
泣いてる僕を見た第一声。
でも、


「…ユノヒョンの言うことは、難しいです」


すっかり涙の止まった目をごしごし擦る。
その軽さと安心に、何の関係があるんだ。


「チャンミンはさ、何で泣いてたんだ?」
「何でって…」


色んな感情があった、…と思う。
上手く説明できない。


「俺は、くやしいから泣いてんだと思った。」
「……くやしい…から」



言葉にしてみると…すんなり僕の中に落ちてくる。



「でさー、その件でお前に謝んなきゃだめなことがある」
「その件なんてありませんよ」

今日のことは全部僕が悪いんだから。
むしろ迷惑しかかけてない。





「俺、知ってた」
「?」
「だから、ごめんな?」



てへぺろなユンホ先輩。
頭のてっぺんにクエスチョンマークが刺さる僕。

なにを…?

…収録はうまくいかない、そうなることを?
僕が負けず嫌いだったことを?
むしろ負けず嫌いだったら何なの?

疑問が積もってく。
会話って1から始まるはずだけど、7あたりから始まっている、そんな感じ。


でも     、とユンホ先輩が言葉を継いだ。





「明日はできるって。お前ならそう言ってくれること、」


ユンホ先輩はすくっと立ち上がり、
僕に手を差し出しす。





「信じてたから」





10秒前にはてへぺろだったくせに。
見惚れるしかない、カッコイイ顔で言い放つ。

…なんて、威力のある言葉なんだろう。

迷いを与えることなく、僕にその手をがっちりと握らせた。



立ち上がった僕の肩を、
まるで戦友であるかのように
抱き寄せて、



げんこつ同士をこっつんこした。










続く..

»Read more...



1 0 月 1 0 日 。

今 日 は 、 空 を 見 る 日 。







【 恋する星 /01.】







「はぁ…信じらんない」


今でも震えが止まらない。
この手を、握られた。
この肩を、抱かれた。


香ったにおいも、
感じた体温も、
触れた感触も、
目の前の笑顔も、
名前を呼んでくれた声も、

夢じゃない。
全部ホンモノだった。



…もう、一生分の運を使い果たしたに違いない。







僕は3年前からレラ教徒だ。


男のファンは珍しがられるし、恋愛対象が男だと思われる不名誉もたまにはあるけど、当然、
男性と女性でいうと、女性が好きだ。

ただ…
レラ様に限っては、男とか女とか、性別なんて関係ない。
もはや俗世を超越した美しさ。

でもそれだけじゃない。

自由人と呼ばれるくらい自分の信念に従って行動する人。そんな生き方は憧れだ。
だからって周りを無視してるわけじゃない。締める所は締める男らしさはもとより、
誰よりファンに真摯な人であり、情に厚い人でもある。


アイドルの本性なんてわからないだろって言う人もいるけど、
僕らに見せてくれるその姿がすべて。

そのすべてがレラ様のほんの一部分であっても、僕はその一部分が、全力で好きなんだ。





今日は初めての握手会だった。
勇気が出なくてなかなか会いに行けなかったけど…
ビギナーズラックなのか、握手だけじゃなく抽選にまで当たって、
完全オリジナルの非売品、レラ様人形をレラ様から直接、なんとハグ付きでもらってしまったのだっ!!


そんな…そんな一生に一度の機会が巡ってきたというのに、
大好きな人が目の前にいる事実が大きすぎて、何もしゃべれなかった…

10センチのレラ様をカバンから大事に大事にそっと取り出して、街灯越し、星空にかざす。



「いつだってレラ様の存在が、生き方が、
 僕に良い影響をくれること、力をくれること、
 ありがとうございます…
 レラ様が笑ってくれたら僕も楽しいし、
 レラ様が幸せなら僕も幸せを感じられるんです。
 だから、ありがとうございます。」


ぽつりと呟く。
実際のところは、空虚に溶ける独り言。


「…本物のレラ様にも、感謝を伝えられたらよかったのに」




そのとき、
ドンと肩に衝撃。

あ、と思った時には、ふわり。 手から離れて宙を舞う、小さなレラ様。
手すりを超えたその向こうに消えそうになる。
その下は       



「だめ!!」



身を乗り出して手を伸ばした。掴もうとしたけど届かない。

もっと、
もっと、
あと少し!
レラ様…!!


ふわり。
今度は僕の体が宙に浮く。



「ちょっ、あぶねっ!!」


誰かに強い力で引っ張られた。
だけどレラ様の方に必死で手を伸ばす。


「離せっ」


落ちちゃうじゃないか。
僕のレラ様が、落ちてしまう!


「離せって!!…ぁ…」


その姿が黒い闇に消えたと同時に
僕の視界はぐわんと反転し
次に見えたのは黄土色に照らされたアスファルト。

ぶつかる。
衝撃を予期して目を閉じた。



だけど。

…。
……あれ?
………どこも痛くない。
そーっと目を開ける。



「おい、大丈夫か?!」

声の方に首を回したら、唇が触れそうな距離に顔があって、オバケを見たような声が出てしまう。
しかも、後ろからしっかりホールドされていて、動けやしない。

「…離せっ」

ジタバタしてると腕が緩んだから、思い切り押しのけて立ち上がり、手すりまで後ずさる。

「ふ~、大丈夫そうだな」

声の主はホッとしたような顔で僕を見上げて、微笑む。


アスファルトに尻をついているこの男。
どうやら、こいつに引っ張られ、でもって下敷きにしたらしい。


けど自業自得。
こいつが僕にぶつかって……

直前の光景がフラッシュバック。



「…うあああぁーーーっ!! レラ様は!!!!」


慌てて手すりの下を覗き込む。
黒い川。緩やかに流れる音があるだけ。

どこにも姿は見えなかった。



「…そんな…」


愕然。
僕のレラ様が…


「えと、おーい」


つんつんと肩を叩かれる。


…コイツのせいでっ!!
振り返ると同時に、思い切り拳を突き出した。

スカッ。
見事に空を切る。

「なんで今なんだ!? ぶつかるなら他の日にしろよ!!」
「え、おいおい…」

反対からも拳を突き出す。
だけど当たらない。

「避けるなーっ!」
「待てって」

百発は入れなきゃ気がすまない。
でも…僕は平和主義だから、

「一発で勘弁してやるっ!」
「俺は川に落ちそうだったお前を助けようとしただけで」
「、ふえ?」

足を出そうとして途中で止める。
僕を助けようとしただと?

男ははぁと息をついて、ポケットから取り出した携帯を開くとプッシュした。

「あ、すみません。今盗難にあって…」

一瞬、暴行でまさか僕を?…と思ったけど、違ったらしい。
うんぬんかんぬん。
場所を口にする。
ここだ。
この人、何か盗まれたの?

「お前、名前は?」
「…えっ」
「早く」
「チャンミン…」
「フルネーム」
「シム・チャンミン」

男は頷き、電話口で告げ、はいとかええとか返事をして、090で始まる番号言って、携帯をたたんだ。
そして、


「カバン」


て、言った。


「カバン?」
「ごめんな、お前を優先して…スリは追えなかったんだ」
「スリ?」

カバン。
カバン。
そうだ、僕のカバン!
右左下、なぜか上もふくめ目を凝らしたけど、


「ないーっ!!!!」


まじか…
レラ様を失くしただけじゃなく、


「限定グッズが…」
「そこか! 自分のことも心配しろよ」

的確だけど的外れなツッコミ。
無性にイラっとしてしまう。

「当然でしょう?!財布も鍵も携帯も心配ですよ、でも!でも!でも!!
会場、数量限定なんですよ!もう手に入らないんですよ!朝から並んだし、
泣く泣く手に入らなかったファンだっているのに!他はいいから返して欲しいです!!
僕が買ったグッズがオークションに流れたらどうしますか。レラ様のファンとして申し訳が立ちません。
買い戻したいけど買っちゃだめだから我慢しなきゃなんですよ!また同じ事件が起こったら困るから、
非公式からは買っちゃだめなんです。ほんとは僕だって所有して誇らしい気持ちになれたのに。
毎日癒してもらう予定だったのに。てゆうかレラ様人形なんて超ミラクルスーパーレアだし、
しかも心を込めて僕にくれたのに、川に落とすなんて、レラ様に顔向けできません。レラ様を守れなかったなんて!!
犯人がレラ様の代わりに沈んで欲しいです。いえとりあえず僕が沈めてやります。」


ハァハァ…


言い切ったところで、ハタと我に返る。
僕は息継ぎもせず初対面の男に何言ってんだか。
しかも、落ち着いて思い返せば、川に落ちそうな僕を助けて、警察も呼んでくれた人。
対して僕は拳を振り上げ、イラツキマシンガントーク。


「えっと、その…ご、ごめんなさい」

と、同時に、
ぐぅぅー
腹が飯食わせろと主張してきて、慌てて右手で押さえる。

男はククッと笑いながら、いいよいいよと、顔の前で手を左右に揺らした。


「……お前、腹減ってんの?」


そういや、朝から何も食べてない。
ドキドキしてそれどころじゃなかったから。


「大丈夫です」
「財布ないだろ」
「……」
「バスにも乗れないな」
「…」
「家近いのか」
「…」
「飯、食いに行く?」
「お断りします」


知らない人についてくな。
これ鉄則。
助けてくれて、警察にも通報してくれたし、悪い人には見えないけど…
そもそも見ず知らずの人にご飯をたかるわけにはいかない。

「怪しくないって~」
「怪しくない人は自分で言いません」
「ぷはっ…たしかに」

何が可笑しいのかまったくわからないけど、男は笑いながら言葉を継ぐ。

「うんと、俺のこと知らない?」
「知るわけありません」

なんだ、新手のカツアゲか?
いやでも今僕、無一文。
半身を引いて警戒する。

「そっかー。俺の知名度もまだまだだな」

ひょいと肩をすくめてそんなことを言った。

知名度?
なんだ、こいつはタレントか何かか。

上から下まで全身を眺めたところで、一般人ぽさが無いことに気づく。
長身、足長、体格もなかなか…
顔も…なんだよ、イケメンか。

あれ、でもイケメンが過ぎやしないか…?


…ん?
……んんん?


暗くてはっきりとは見えないけど、
…どっかで……

首をひねる。

あー、そうそう…レラ様の…友達じゃない…?
名前も知ってる。

もちろんレラ様の友達だからという理由だけじゃなくて。

でもこんなとこでフツーに僕と、
言うなれば、トップ・オブ・アイドルが話してるなんてあり得ないことなんだけど、



「……ユノ・ユンホ」

あ、年上。

「…さん…?」

「おぉ。名前絞り出してくれてありがと。」



ホ!ン!モ!ノ       ッッッ       !!!

急に、ほんとに急に、背景がキラキラピカピカ眩しくなって、目を細める。
ユノ・ユンホ、恐るべし…
僕の脳に、あの人は光ってるんだよって判断させるんだから。

一応、名誉の為に言っとくけど、誰彼構わずそうなるわけじゃない。僕はミーハーでもなんでもないんだから。
レラ様以外の芸能人に会ったところで、背景変わんなかったし、「あ、なんかいる。」程度だったのに。



…にしてもだ、こんなキラキラしてんのに…なんで今の今まで気づかなかったんだろう…



親しげな笑顔を向けてくるからか。
レラ様とはまた違ったタイプでコミュ力高いに違いない。すっと懐に入り込む系。
しかも、その辺にいるお兄さんと同じような雰囲気を纏うこともできるらしい。


「……」
「おーい?」

ぽかんと顔を見ていたからだろう、苦笑いしながら顔の前で手を振られる。
僕はよくわかんないけど、コクコク頷いた。

「な、怪しくないだろ。安心した?」
「はい、まぁ…」

この人に限っては聞こえてくる風評、軒並み大絶賛。
あれだけの業界人が太鼓判を押す人柄だ。
警戒すべき人であるはずがない。

「よし、じゃあ、肉がいい?」
「肉いいですね。って何の話ですか」
「ノリつっこみか、なかなかやるな。飯の話だよ。」
「ツッコんだだけでノッてないですけど。ってゆーかお断りしましたし、そもそもなんであなたが僕に?」


大スターも大スター。
キッラキラのピッカピカですっごいスターが、なぜ僕をご飯に誘うのか。

当のスターは顎に人差し指を押し付けて、可愛らしく首を傾けた。


「ん~困ってそうだから。」
「………………正解ですね。」


たしかに、金ない、家遠い、腹減った、金ない。ループだ。
つまり、今から僕は凄~く困ることになるだろう。



そこに、サイレンを鳴らしながらパトカーがやってきた。
僕はため息をつき、スターは肩をすくめる。


「アレ、終わったら肉食いたくなんだろ?」
「間違いないです」
「やっと意見が一致したな」
「奇跡ですね」
「そこまでなのか」
「ええ、星が生まれる程度には。」
「…お前とは仲良くなれそうな気がする」
「どっからその結論が?」
「それそれ」
「どれ」



「笑った顔が可愛いから」


ぱちんと片目をつむって、僕を指差し、口角を上げてニヤりと笑う。
そして、行こうぜとばかりに、顎をクイと上げて合図した。


「…スターめ」
「なんか言った?」

振り返った斜め45度も完璧。

「あ~、まったく星がキレイですねぇ…」
「絶対悪口言っただろー」







空を見上げる。

顔がほんのり熱い。

見てるのが、空の星達だけでよかった。


目の前の星には、内緒だから。












続く..

»Read more...

tare.gif 【視線のさきには、/07.】






深夜のスタジオ。
鏡の向こうには涼しい顔をした僕。

クタクタになって床に倒れこんだ僕を、余裕の笑みで見下していた。



くそっ。



重たい身体を起こして立ち上がる。

服も重たい…。
絞れば水たまりができそうなシャツを脱いで、壁に投げつける。


負けんのはいやだ。
悔しい涙はいやだ。
不甲斐なさに泣くのはいやだ。

なにより、ユンホ先輩に、あんなこと…死んでもさせない。




ぐいと、目元を拭った。










あの後の楽屋。




「お前はもう帰っていいよ。」
「えっ、ユノヒョンは…?」

グーと親指を立てただけで楽屋を出て行ったユンホ先輩。
入れ違いに、マネージャーさんが入ってきた。

「ぴったり15分だな。さ、帰るぞー」
「帰るって…あの本番は」

マネージャーさんにはまだ伝えてない。
本番を明日に延ばしてもらいたいってこと。

「ああ、大丈夫だ。明日にしてもらえたから」
「え?なんで…」

それをユンホ先輩に告げたのはさっき。
マネージャーさんと話す時間はなかったはずだ。
ハテナになってるのは僕なのに、マネージャーさんの方が何言ってんだみたいな顔をするから、余計ハテナになる。

「…リハの段階で、もー明日にズラすって決めてたろ?」
「決まってたんですか?」
「えっ……」

マネージャーさんは目を瞬かせたあと、手のひらをぺちんと額に当てた。

「ユノの独断か…」
「いえ、さっき僕が……」
「えっ……」

2人して目をぱしぱし。
だめだ。本番が明日になった事実以外、何も噛み合わない。
一体、何がどう……



ピッコーン!ズザッ!!
頭のてっぺんに、今度はビックリマークが刺さる。

ユンホ先輩が言ってた不可解な言葉が、ここにきて繋がった。



リハの段階で僕が上手くできないことを予想していて、
マネージャーさんに本番の日程を明日にすることを相談してた。
だけど僕には伝えず、僕が言い出すのを待っていたんだ。

だからこそ、
魂の抜け殻なんかじゃなく、言い方は悪いけど…思い通りの方向に事が運んで 「 安心した 」 。

僕がリハさえ上手く出来ないことをわかっていたのに、やらせて、泣かせて 「 ごめん 」 。

そして、僕に現実を伝え、現状にぶち当たらせ、これからを考えさせた。
僕の出す答えがユンホ先輩と同じであることを 「 信じてた 」 。



つまり、1から10まで 「 知っていた 」 、ユンホ先輩の手の平で転がっていたわけだ。



「スーパーナチュラルだ…」



マネージャーさんも噛み合わない状況の原因にユンホ先輩を結びつけたのか、
苦笑いを浮かべていた。


「だな。あいつは、基本そーだから」


顔を見合わせて、頷き合う。


「とりあえず、帰ろうか。」
「はい。…あの、ご迷惑おかけしました。ありがとうございます。」
「気にすんな」

肩を叩かれる。
労りと励ましを、その手から感じた。





廊下に出て、並んで歩き出す。

「ユノヒョンはどこ行ったんですか?」
「あぁ…あいつはまだ仕事あるから」
「僕はいなくて大丈夫なんですか」
「正直、大丈夫じゃないけど。まぁ、ユノが大丈夫って言うんだから任せとけ」
「わかりました…。あの、今から朝行ったスタジオに行きたいんですけど」
「ああ、押さえてある」
「ええっ!?」
「え?」
「まさか、ユノヒョンが?」
「……だな…。」

小さな沈黙が落ちる。
僕が練習したいと言い出すことも予想済みだったってことだ。


あ!だらか…。
ユンホ先輩が言った 「 くやしいから泣いてんだと思った。 」 が、フライングなスタジオ予約に繋がるのか。


またきたスーパーナチュラル。





……気を取り直す。

「僕、1人でいいので、マネージャーさんはユノヒョンのとこに行ってください」

そう言ったとき、少し顔が曇ったのを見逃さなかった。
心配、そう顔に書いてある。
でも、すぐ消えた。

「もう1人スタッフ呼んだから、大丈夫だ」
「そうですか…」

あのユンホ先輩を心配する理由。
重たいことをしている証拠だ。

「あの、連れてってください」
「お前が行く必要はないから」
「お願いします」
「だめだ」
「ユノヒョンがそう言ったんですか」
「お前が考えるのは今日の事だけでいい。あんま背負うな」
「僕はメンバーでしょ?」
「もちろんだ」
「なら、ユノヒョンだけが背負うことなんて、あっていいはずない」


立ち止まったマネージャーはため息をついて、そして、誇らし気な笑顔を浮かべる。


「だな。……ユノには言うなよ」

約束だと小指を立てた。





連れてこられたのは、リハーサルをしていたスタジオ。
観覧のファンだろう、たくさん集まっていた。
あんな舞台に立つ予定だったなんて…

今更だけど震える。



「…あ。」


ユンホ先輩が出てきた。
凄い歓声。
だけどその後すぐに…ざわめきが起こる。


そこで、見たのは…ファンに謝るユンホ先輩の姿。


僕の名前は出さずに、自分のせいだからと。
謝っていた…



「スタッフ一人一人にも、頭下げてたな」


呆然と見ていた僕の肩を抱いて、マネージャーはそう言った。






ユンホ先輩の何でもないような返事。
軽いのは見せかけだった。

そりゃそうだ。
手間と時間とお金をかけて会いに来たファン。
僕らのためにしっかり準備していたスタッフ。




結果的に、僕は、…たくさんの人達の信頼を裏切ったんだ。

その尻拭いさえ、させてもらえないのが今の僕。





また、涙があふれた。






信頼に応えるには、きっと努力しかない。


努力の全てが報われるわけではないと言うけれど、
努力は人に認められて初めて、努力したと言えるのだ。
だから実らない努力なんてない。
実らないなら、努力が足りなかっただけのこと。




明日の朝、絶対に本番をこなしてみせる。

自己満足では、終わらせない。








続く..

»Read more...



手 を 伸 ば し た ら 届 き そ う だ け ど 、

星 に 手 を 伸 ば し た り し な い 。


ず っ と ず っ と 遠 い と こ ろ で 輝 い て い る こ と を 、 僕 は 知 っ て い る か ら 。








【 恋する星 /02.】








僕の向かいに、イイ肉たちがジュウジュウ。
その向こうにスターがキラキラ。

ここは焼肉屋で、通されたのは個室。
僕らしかいない。


「食わせがいのある食べっぷりだな」
「腹減ってて…」


…だけど、こんなにがっつくにはがっつくなりの理由がある。


「そんなに見られると居心地悪いんですけど」


そうなんだよ、さっきから。スターが僕を眺めてるんだ。
なんてゆーか、お尻がムズムズする感じ。


「お前も見てたじゃん」
「!それは…」


…反論するすべがない。




もちろん顔はテレビやネット、広告でも知ってるし、イケメンなのも知ってる。
僕だけじゃなくて、みんなが知ってる。


だけど、二次元で見るスターと本物は、全然違った。


どこがって、…目が。
星そのものみたいに輝いてるんだ。
それでいて大きな黒目は、見つめたものを惑わせるような艶がある。
だけど微塵の濁りも無い。子供みたいに真っ直ぐ心を見つめる瞳。


この人の前で平然と嘘をつける奴なんて、誰一人としていないだろう。







「あなたは見られ慣れてるでしょうけど、僕は苦手なんです」

特にスターには。

「そーなの?見られるだろ、お前も」
「ヲタク感出過ぎですか」

スターは違うよと首を振る。

「お前、カッコイイから」
「は。なんですか、イヤミですか」
「イヤミに感じるってことは、俺のことカッコイイって思ってんの?」
「カッコイイって思われたいんですか」
「当たり前だろ。お前は思わねーの?」


正直…カッコイイはよく言われる。
今日だって、握手会でも周りの女の子に言われた。
なになにあの人かっこよくない?声かけようよ、えー。みたいな。きゃっきゃと聞こえる声で。

ただ、頭はレラ様でいっぱいなわけで。
レラ様の美しさを超える生物なんてその辺にいるわけない。
よって、その辺は空気と変わらない。
空気に何を言われようと色をなさない。
そして僕も、その空気の一人なんだから。


「みんな同じ顔です。僕だって同じ顔。カッコイイもなにも大差ないです」
「なるほど。ヒチョル以外はみんな似たようなもんってことな。じゃぁ俺もかー。」
「いえ、あなたは、」
「…俺は?」


ニヤニヤ問われる。
どうしても僕に言わせたいらしい。
なんか反抗したくなる。


「ま、空気じゃない程度です」
「空気?何の話かよくわかんねーけど、ありがと?」
「褒めてませんから」
「ちぇ。やっぱヒチョルには勝てねぇか~」
「当然です。」
「たしかに中身も見た目も美人だもんな。俺も認める」
「そうでしょう!!?? そうなんですよ!!!!」
「お、おぉ…」


あまりに力強く同意しすぎたのだろう。
スターは肩を揺らして笑った。


「そういや、橋の上でレラ様人形だっけ、失くしたって言ってたよな」
「その件ですね……。。。」
「チャンミン、チャンミン、泣くなよ?」
「それは難しいかもしれません…」


斯く斯く近々、経緯を話す。
途中、何度か泣きそうになったけど、僕がどれだけレラ様を敬愛しているかを交えて語った。
スターはうんうんしながら聞いてくれて、
話し終わる頃には、全部スターの黒い目に吸い込まれて、すごくスッキリした気持ちになっていた。







「そういえば、あなたは何であそこにいたんですか」

スターの登場シーンを思い出す。

「ヒチョルに会いに行ってたんだよ。」
「そうなんですね…」
「なに、羨ましい?」
「まあ羨ましいですけど…」

じゅうじゅう、肉をつまんでスターの皿に乗せて、
自分の口にも放る。

「けど、なんだよ」

スターはさんきゅと言って、もぐもぐ。
食べる所作も美しいなと、不意に思った。

「…なんてゆうんですかね、レラ様には僕の手の届くところに来て欲しくないってゆうか…」
「?…握手しに行ったんだろ?」
「そうなんですけど…難しいですね。」
「みんな近くで触ったり話したりしたいもんなんじゃないの?」

「それを分かってて、握手会をしてくれる。僕らへのその気持ちはすごく嬉しい。
 だけど、いつもそこにある星と同じように…ずっとずっと輝いているのを見上げていたいんです。
 だから手が届くところに降りてきてくれなくていいんです。
 レラ様の笑顔を分けてくれたら、それでいいんです。」

「……。」




静かな時間。




はっとして前に目を向けると、少し寂しそうに微笑んだスターと目が合って…
なんか悪いこと言ったかなと、焦ってしまう。


「あ、すいません。また語っちゃいました」
「…ヒチョルが羨ましくなったなー」
「何でですか」


スターはテーブルに頬杖をついた。


「お前に好きって言ってもらえて」
「熱狂的なファンはあなたにもいるじゃないですか」
「そーだな…」
「足りないんですか?」


否定も肯定もしないスター。
代わりに、手のひらを上に向けて、僕の方に差し出す。

そして、こう言った。









「俺のことも、好きになって?」









愛されてる。

スターはトップ・オブ・アイドルなんだから。
人が一生に得る愛を、毎日もらっているはずだ。
なのに、何で僕の愛まで欲しいと思うんだろう。
何が足りないんだろう。
満たされない想いはどこから来るんだろう。


目の前に差し出された手を握ったら、それが分かるのだろうか…。
もっとこの人の内側を知りたいと思う。
見せてほしいと思う。


だけど、この手は幻でしかないことも分かってる。
遠い遠い場所で輝き続ける、スターなんだから。









「お前の愛はヒチョル独占だもんな~」


スターは手の平で指をぎゅと握りこんで、腕を引く。
わざとらしくため息をつく様子に、さっきまでの陰はない。

そして、カバンをごそごそ漁ると、くしゃっとなった紙を取り出して、綺麗に伸ばした。


「なんですか、それ」
「ミニヒチョルの代わりにはなんねーけど、やるよ。」


渡された紙はチケット。


「これ…」
「再来週、ライブあんだ。」
「ええっ!!」
「会いに来いよ」



この人に、会いに行く…僕が…?



「でも、」
「なんだよ、興味ない?」

ぶんぶん首を振る。

「そんな、貴重なチケット…いただけません…」


ユノ・ユンホのライブチケット。
入手困難度、不動のナンバーワン。
パフォーマンスの完成度の高さは業界屈指との噂だ。
そんなライブチケット…どう頑張っても入手できないファンがいるのに、
会いたくても会えないファンがいるのに、僕がもらうなんて…


「そっか…」

スターはすんなり、引っ込める。
それが、また僕を焦らせる。

「あの、そーじゃなくて、」
「ん?」
「いらないとか、そういうわけじゃなくて…チケットは自分で手に入れて行きますからっ」


何を必死に自分で自分をフォローしてんのか分かんないけど、悪い意味に受け取られたくなかった。

驚いた様子のスター。
おっきな黒目がもっとおっきくなった。



「…………じゃー、待ってる」



目を三日月形にして、届くはずのない手が僕の頭を撫でた。











続く..

»Read more...



星 と の 距 離 は 、 何 万 年 も か か る 道 。

死 ん で 、 生 ま れ て 、 死 ん で 、 生 ま れ て 、

何 度 繰 り 返 し た ら 、 辿 り 着 く の だ ろ う 。








【 恋する星 /03.】








店を出る頃には、2人とも結構デキ上がっていたけど、店主さんが気をきかせてくれたみたいで、
無事、タクシーに乗り込んだ。


「家、どこ…」

ですか。と、聞こうと思ったけど、知られたくないかもしれない。
僕が先に降りたほうがいいだろう。
自分家の住所を告げる。

スターはほんのり赤く染まった顔でふんふん鼻歌を歌っていた。


「明日は早いんですか?」
「うん。お前は」
「僕は普通です」
「そか。」
「はい。」
「なー、」
「はい?」
「お前ん家泊まっていー?」
「…僕ん家?なんでですか」


聞き返すと、スターは組んだ膝の上に肘をついて、手のひらにほっぺを乗っけた。
そして斜め下から僕を見上げて、にっこり笑う。


「もっと一緒にいたいから」


僕はぱちぱち。
瞬きする。

スターもぱちぱち。
瞬きした。


「おーい、チャンミン?」


……うん?
……………。
………… 一緒にいたい?


「………………ええっと、それは…」


どーゆう意味で。

僕が女性なら絶対口説かれてると勘違いしてしまう台詞だ。
家に帰るの面倒だから泊めてーみたいなノリならまだしも…
友達として親しくなりたいならそう言えばいいのに。
しかも0時過ぎてるし、帰っても寝るだけだ。

それなのに、
一体どーゆう意図…?







……あー、だめだ。

ちょっとした言葉選びを深く考えてしまうなんて…スターより僕の方がどうかしてる。
意味なんかないかもしれないし、
大のつくスターなんだから、一般常識に収まるわけない。

深く考えるのはやめよう。

ブンブン頭を振る。






「…ダメ?」
「え、あぁ、ダメじゃないですけど…」
「さんきゅ~。お世話になりまーす」
「…でもですね、あまり気軽に親しくもない人の家に行ったらだめですよ。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。」
「言い切れません」
「だって、俺とチャンミンは親しいだろ?」
「……今日会ったばかりです」
「じゃあ、いつから親しいに入んだ?」
「3回目です」
「回数なの?」
「はい」
「気持ちじゃないの?」
「それもあります」


「じゃー、俺が親しいと思ってたら、今は片想い?」


……うん?
……………。
……………片想い?

…おっと、深く考えんのはやめようと決めたばっかりじゃないか。

そうそう、つまり、スターは僕と親しくなれたと思っているのに、お前はどうなんだと。
一般的な言葉に置き換えるとそんな感じか。
そういう意味でいえば、


「………りょ…両想いと言えなくもないです」


スター語に直して告げた。


「ならいーじゃん」
「でもですよ! 僕があなたの私物を盗むとか、盗撮したりとか、あとなんだろ、
 不利益になるようなことしたらどーするんですか」
「ん~、俺に見る目がなかったってことかな。」
「そんな、ちゃんと自分を守ってください」
「わかったー」
「わかってないでしょ」
「わかってるー」
「絶対わかってないです」
「あのな、俺が大人に見えねーの?」
「…」
「なんだよ、その間は」
「いえ……」


「安心しろ、お前を守れるくらい大人だから」


……うん?
……………。
…………僕を守る?

…つー…まり他人を気遣う余裕があるくらいの自己防衛はできますよと、
そーゆうこと…だろう。


だけど、あんまりに真っ直ぐ僕を見つめるから、
僕はどんな顔をしていいのか、何て返せばいいのか分からなくなって、

窓の外に目を向けた。
















結局、僕はスターと一緒に家に帰ってきたのだが、


「うわー、すげー、広いー、キレー」


リビングに足を踏み入れるなりの第一声。
バッと勢いよく僕を振り返る。


「お前のマンションなの?」
「はい、まぁ」
「社会人なんだ。俺、お前は学生だと思ってた…」
「まさか。そんなに若くないですよ」
「ワンルーム的なアパート想像してたのに」
「ボロボロの?」
「そーそー」
「あなた、そんな部屋のどこで寝る気だったんですか。」
「お前のベッドで」
「僕は布団無しですか」

「一緒に寝ればいーだろ」


…狭いベッドでくっついて?
……。
………っと、待て待て。
おかしな想像が始まる前に強制終了。

はいはい、つまり、修学旅行みたいな密集した環境でも寝れるってことだろう。
でもそれは、正直、


「嫌です」
「寝相悪くないぞ!」
「いえ、あの、それは、その、とりあえず、…ボロアパートには住めないです」
「だな。実際高級マンションだし。つかマンション買えるって、仕事は何してんだ」
「会社やってます」
「…やってるって…社長とか?」
「まぁ、そうです」
「なんかすげーな、お前」
「ヲタクはお金ないと存分にできませんしね。そりゃ頑張って稼ぎますよ」
「そこな。無理してほしくはないけど」
「モチベーションでは仕事しませんが、コレに限ってはファンの宿命、必然で働きますよ」
「なんかチャンミンの新しい一面だなー」
「そーですか?みんなと同じですよ。ファンはそんなもんです。それより、明日早いんでしょ?」
「うん」


リビングの右手にあるドアを開けて、どうぞと手で促す。


「この部屋使ってください。必要なもの一式揃ってますから」


スターは部屋に足を踏み入れるとグルリと周りを見回した。


「お前ん家はホテルのスイートみたいだな。ゴミも落ちてないし、パリっとしてんなー」
「寝るだけですし、ハウスキーパーも入れてますから」
「なるほどー」
「さ、お風呂に案内しますよ」


ベッドの上に置いてあるスウェットの上下を持ったスターを、今度は浴室に連れて行く。


「ごゆっくりどうぞ」
「さんきゅ」


ドアを閉める僕に片手をひょいと上げる。
その仕草だけでも指先までが洗練されていて、
テレビで見るスターは作り物じゃなくて、スターの一部分なんだなって、
当たり前のことを思いながら扉を閉めた。



「さて…まずは、手当たり次第に…」

ノートパソコンを開いてレラ教徒達に切実なメールを送る。

「チケット探し中。ユノペン知ってたら紹介してくださいっと…あとは…」

一般販売の有無を一応確認。
やっぱり年内のツアーはもう買えない。
チケット求めてます譲ります掲示板に書き込んでおく。
できることはこれくらい。


「…難しいか…いや、でもなんとか…」


チケット戦争の大変さは身に染みてわかってる。
でも、自分で手に入れて会いに行くって言ったんだから、コネクションでも何でもフル活用してやる。






「チャンミ~ン、風呂、さんきゅ」


のんびりした声。

頭を拭きながらスターが出てきたけど、
上半身を隠すのは垂れたバスタオルだけだった。


「…どーいた…………し…まして…」


程よく筋肉のついた体は服の上から見るより逞しくて、滑らかな流線が美しい。
だけどバキバキで硬そうでもないから、抱きしめても心地いいだろう……

……って、をいー、僕!!
頭おかしいぞ。
確実におかしいぞ。
抱きしめた感触なんか想像してどーすんだ。

レラ様にハグしてもらった後遺症か。
そーゆーことか。

…頭を冷やしてこよう。


「えーと、リモコンはそこ、飲み物は冷蔵庫にあるのでお好きなものをどうぞ。」
「お前の部屋は?」
「あそこです。」
「入っていい?」
「構いませんが、面白いものないですよ」
「さんきゅ。牛乳ある?」
「はい、冷蔵庫に」
「もらうなー」


スターはくるりと方向転換して冷蔵庫に向かう。
僕は浴室に向かう。

だけど…

今度はその背中に視線を持ってかれたせいで、自宅で壁にぶつかるという失態を犯し、




…星を見るはめになった。










続く..

»Read more...



星 が も つ 引 力 。

地 球 が も つ 重 力 。

そ の 間 に い る 僕 は 、 ど っ ち に 引 き 寄 せ ら れ る ん だ ろ う 。








【 恋する星 /04.】









「そういえば…」


スターの髪が濡れたままだったことを思い出し、ドライヤーを持って浴室を出る。


「あの、髪を………あれ?」


テーブルの上にはコップだけ。
リビングにスターはいなかった。

盛大に開け放たれたドア。


「…僕の部屋か」


入ると、僕に気づいたスターが振り返る。


「レラ教はダテじゃねぇな」


ギャラリーのように額に入れて飾られたいちばん好きなレラ様の前から、僕の前にスタスタ。
手の届く距離。
濡れて額に張り付いた髪を人差し指で掬い取って右に流す。
よく瞳が見えるようになった。

ん?って顔が、少し右に傾く。

………って僕ーっ!!


「ぁ、いや、気になって」

何を当たり前のように触ってんだ。
慌てて手を引っ込めた。
でもスターは別に気にした様子もなく、へラッと笑う。

「こんな風に飾ってもらってヒチョル、嬉しいだろうなー。
 人形当たったの1人なんだろ? ヒチョルもお前のこと覚えてるだろうし、伝えてやんなきゃ。」
「いえ、結構です」
「なんで?」
「僕の自己満足ですし」
「お前の存在を知ってほしくないの?」
「もちろん、知ってくれたら嬉しいですけど、僕は欲深い人間だから」
「逆だろ。無欲すぎじゃね?」
「きっと僕の存在を知ってくれたなら、次は覚えていてほしくなるでしょ?
 僕ですよ、僕ですよって。そんなの嫌じゃないですか」
「お前は…空の高いとこで輝く星を見上げてたいんだったな」
「そーゆーことです。さ、髪乾かしましょう?」
「はーい」

スターは良い子な返事をすると、ぴょんと僕のベッドに上がり、サイドぎりぎりに背中を向けて座った。

「……あのー、」

それって、乾かせということですか。

「チャンミン?」
「え、はい。ただいま」
「なんだその返事。執事ごっこか」
「イエス、マイ、マジェスティ」
「悪くない」

チラリと振り向いてスターは笑った。








ぶおーん。
コンセントを差し込み、スターの髪に温風を当てる。

小さな頭。
柔らかい髪の毛が僕の指に絡む。
手触りがいい。

スターにばったり会う一般人。
スターに助けてもらう一般人。
スターとゴハンする一般人。
スターとタクシーにのる一般人。

まぁ、いるだろう。

でも、スターの髪を乾かす一般人。
いるのかな…





「は~きもちい」


ぽてと背中が僕にもたれてきた。
その甘えた重みに胸がキュンて鳴る。


「…乾かせないんですけど」
「前は?」
「あー、そうですね」

って何がそうなんだ、僕。
熱くならないようにドライヤーを離しながらサラサラと乾かす。

「はい、できました。」
「さんきゅー」

スターは動かない。

「あの、終わりました」
「うん。知ってるー」
「じゃあ体起こしてください」
「はーい」

返事だけ。

「……………あの、」
「なに?」
「…僕が一歩下がったらどうなるか想像つきますか」
「頭から床に落ちるな」
「そーゆうことです」
「落とす?」

スターはチラリと振り向いて僕を見上げた。
瞳にはちょっと面白がっているみたいな煌めきがある。



「……もちろん落とします」
「そーなの?」
「落としますよ?」
「うん」
「頭ぶつけても文句言わないでくださいね?」
「うん」


思いきって一歩引いてみた。

そしたら、あ〜れ〜とか変な声を発しながら、後ろに落ちてくるから、
わざとだとわかっていても抱きとめてしまう。


腕の中にスター。

やっぱり…柔らかめ。
しかもいい匂いがする。
同じソープのはずなのに。
何でかな…。


「チャンミン、くすぐったい」


そのひと言で首筋に顔を埋めていることに気づいて、恐ろしいほど動揺する。
慌てて腕の力を緩めるけど、離したらスターが落ちるから、それもできない。
何やってんだ、僕。
心臓がドクドクしすぎて爆発しそう。


「ああああの、とりあえず…腹筋、使ってください」
「いやだー」
「…腹筋ないのか…」


独り言のように呟いた瞬間、スターは僕の腕を抜け出し
隠すように両手で腹をさすった。


僕は胸を撫で下ろしながら、このくらいのスキンシップは友達なら普通だと自分に言い聞かせる。
そうだ、普通。
別におかしなことじゃない。


だけど急にスターが振り返って、キッと睨むから
「ご、ごめんなさい」
両手を顔の横にぱっと上げて謝った。

だけど、睨まれた理由はそれじゃなかったようだ。


「…あるからな!ま、…お前より硬くないけど…」


気にしてるんだ。
思わず笑ってしまいそうになるけどなんとか嚙み殺す。

でもバレたのか、スターはほっぺをぷくと膨らませた。


「だから、あるし」


もう一回繰り返してから、スターはベッドの奥側に移動して、自分の前のスペースをポンポンと叩く。
そこに座れと?
僕のベッドだけど専有権はスターにあるようだ。







「なー俺より腹筋あってちょっと羨ましいチャンミン、」
「長いからチャンミンでいいです。腹筋見てないでしょ」
「さっき硬かった。髪も乾いたし寝ようぜ」

…寝る…
さらっと言ったけど…

その間にもスターはクッションを引き寄せて頭の下に敷いて、モフモフしてる。

ここで寝る気のようだ。


僕はどこで…?
その空きスペースは僕用?




「チャンミン?」




友達であっても、同じベッドで一緒に寝たりしない。

「…僕は…客室で寝るので、使ってください」

そう言ったら、スターは少しのタイムラグもなく

「そう?じゃーお前のベッド借りるー」

掛け布団をいそいそ引き寄せて肩まで引っ張り上げる。
一緒に寝ようってせがまれると思ってたから、すんなり引いてくれて、ホッとした。




…そのはずなのに。




おかしいな。
言ったそばから後悔してる自分がいる。

今日が終わってしまったら、もう二度と、この人に触れることなんかないのに、
自分の手で、今日を終わらせるのか?


この人を抱きしめたときの感覚。
まだ体が覚えてる。

だけど、1日、1日、普段の日常を過ごすうちに、消えていってしまうのだろう。




        忘れたくない。 失くしたくない。




そんなバカみたいな気持ちを僕の中に、見つけてしまった。







「迷える子羊チャンミン」
「…長いのでチャンミンでいいです」
「じゃあチャンミン」
「なんですか」


スターは天使みたいに優しい笑みを浮かべると、
ファサッて、布団を持ち上げる。


そして、言った。








  「おいで?」










言葉は引力。
短くても、強い強い、力がある。

高い空から見下ろす星には、お見通しに違いない。




僕は…


引き寄せられるように、ギジリと音を立てて、ベッドに上がった。













続く..

»Read more...

 | Home | 

プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。