品定めされているようなプレッシャー。
なんだか久しぶりの感覚だ。


「目線ください」


カメラマンの要求に、ユノは僕の肩に肘をかけ、細い指で唇をなぞった。
壮絶に挑発的な視線を向けているに違いない。

僕はそんなユノを横目に見てから、ゆっくりとカメラに視線を流す。


「それ!もう一枚」


鋭い声が飛んだ。

カシャカシャと安物にはない心地良い音。
その数に反比例するように
話し声が消え
足音が消え
息遣いが消えてゆく。


……プレッシャーはもうない。
あるのは期待と興奮に満ちた視線だけ。


僕はユノの肩に片腕を回して、甘えるように顔を寄せた。






tare.gif 【タレソカ学園高校/24.】






撮影が終わり、控え室には僕ら二人。

「ほんと、びっくりした」
「まだ言ってるんですか」

量産品とは思えない程手の込んだ刺繍とラインストーンで艶やかに飾られたジャケットを脱がせて
壁際のハンガーにかけにいく。
貴公子風ゴージャス衣装はユノの為に作ったんじゃないかと思うほど似合っていた。
…まあ、似合わない服なんてないけど。

そのユノといえば僕に脱がせてもらったきり、着替えをするでもなく、
撮影後から楽屋に入った今でさえもヒナみたいにとことこ僕の後をついてきて、
興奮気味にしゃべり続けている。


「だってスタジオさ、いつもと空気違ったし」
「そうなんですか?」
「みんなそれぞれ仕事あるじゃん。
 だけど気付いたらザワつきがなくなって…息さえも忘れててるみたいな。
 お前に見惚れてたよ。つーか、女子スタッフはみんなチャンミンに惚れたな!」
「ヒョンも惚れちゃいました?」

って言う僕の言葉なんて聞いていやしない。
その証拠に惚れた~♪惚れた~♪て作曲しながら僕の腕を掴んでゆらゆらし、
別の話題を振りかけてくる。

ってゆうか、僕だってユノが撮影前に言った「好き」の意味が後輩を超えたものなのか…
まぁ超えてはいないとおもうけどツッコんで聞きたいのに。
カラスの行水みたいなシャワーをして服を着せられメイクして撮影して
終わってみればユノはこの調子だし、タイミングなんてありゃしない。


「なーなー聞いてる?」
「はいはい、何ですか」
「編集さんにいきなりツーショットに変更んなった理由聞いたらさー」
「ええ、それ、僕がお願いしました」
先回りして答えておく。
「ちなみに話せば長いので、詳細は割愛します」
「長くねーよ。俺がシャワー浴びてた間だろ」
「バレましたか。名探偵ユノですね」
「ん、まぁな!」

親指と人差し指でL字型を作ってビシッと顎に当て得意気な顔をする。
僕はその手を邪魔ですよとやんわり退けて、
フリルシャツのリボンをシュルリと解いた。










編集さんと話したのは、仕事の話が1割で、残りはもちろんユノのこと。
アノ出来事が起こった経緯についてだ。

ユノが読者モデルとして登場するまで、ジョンホさんという、現実世界の彼と同じ顔をした大学生が
投票ランキング一位だったらしい。
だけどその不動を動かしたのが、ユノだった。
初回登場の次の回。企画タイトルは『花より男子』。

ビビッドな花たちがまるで花葬のようにユノを彩るさまに、どこの野郎ごときが勝てようか。

その美麗さに。
高貴さに。
艶やかさに。
圧倒的なまでの存在感に。

かくして人気は一気に爆発。
バックダンサーとしての知名度、技量も相まって限度を知らず。
しかも名が売れれば売れるほど、巷から人となりについて声が上がるわけで。
それらが軒並み人柄への絶賛ときたから、文句のつけようがない。


だけど意味不明な理由でイチャモンつけてくるのがアンチってやつ。
一度一位を奪われたくらいなら、「ライバル?フッ…100年早いわ」的な上から目線でいられただろう。
けど、一度ならず二度、そして三度、四度…転落を認識する。

じゃあどうやって不動を取り戻すか。
簡単な方法がある。
それは、ユノ自らの意思で退いてもらうことだ。

この世界のユノにはボディーガードがついているわけではなく、ましてやマネージャーがいるわけでもない。
車で送り迎えがあるわけでもなく、学園の外に出たら情報は漏れ放題。
嫌がらせもやりたい放題。

数は増え、集団となり、善悪の境界線は踏み荒らされ、エスカレートする。

ユノがこのビルに来る日時をどうやって把握しているのか…
待ち伏せするようになり、ヒソヒソ話から罵詈雑言へ。
それを超えてある日は卵、ある日は腐ったトマトを投げつけるようになった。
見かねたスタッフが注意をしても懲りず、半年近く続いているらしい。

その間、ユノは平然としていたし、いつだって笑顔で気にする素振りさえなかったとか。

今日みたいに。










「お願いしたくらいで企画は変わんねーよ。何があったんだ?」
今度は2倍くらいの振り幅で、僕の腕をゆさゆさしてくる。
「わかりましたよ。あのですね、今月号の新人紹介枠にっていう話をいただいて。
 撮影は不安だから、ユノヒョンと一緒だったら参加しますって言ったんですよ。
 そしたら、衣装着せられてメイクされていつの間にかあーなってました。」
「不安とかどの口が言うんだよ」

確かに真逆のことを言った。
広告写真用の爽やかイケメンと評してもらえる顔をして。
全力での自己アピールが実を結んだといえる。

「ユノヒョンがいてくれたから、上手くいったんですよ」
「いーや。慣れてた。ほら、ソファーの上でさ、お前がセクシーな流し目してたやつとか」
「ユノヒョンがR18の顔してワイルドに僕に絡みまくったやつですね」
「絡み…ん、なんかほら、周りからの圧が…近寄れ!絡め!そうそう!それ!!みたいな…」
「要求に応えるのは大切ですよね。で、足上げて?」
「あ、はい。って、人のズボン勝手に下ろすんじゃねーよ!自分でやるし!」
慌てた様子で引っ張り上げる。
「今更?」
「なんだよ今更って」
「ジャケットもシャツも僕が脱がせましたけど?」
「ぅ、それは…」
「早くして」
「でも…」
「肩に手置いていーですよ」
「え、あ、うん」
「上手ですね。もっかい足上げて?」
「ん」

結局、ユノが履いていたズボンは脱がせて左腕にかけ、すかさずクリーニングから戻ってきていたズボンを履かせる。
脱がせたズボンはハンガーにかけ、今度はシワひとつ無くなって戻ってきたTシャツに腕を通すよう、裾を向ける。

「どうぞ」

ユノはそれを見つめて、独り言のように呟いた。

「俺のこと何歳だと思ってんだ…」
「5歳です」
「即答!? つか5歳でも1人で着れるしっ!」
「そうですよね~冗談です。ほら、手、入れて?」
「……んー、んー……」


ユノはしばらく僕の顔とシャツを見比べ、
腕を組んで
首を捻って
うーんと唸り
つま先を床にトントンし、
指先を顎に手を当てて
もう一度僕を見て、
それから

勢い良くすぽっと両手を裾に入れ
襟首からぽすっと顔を出した。

そして、
乱れた髪を手ぐしで撫でながら


「……て、ことだ。」


っていった。


……。
ん?
今、何が完結したんだ。
むしろまとめられたのか。
で、何が?
しかも何で照れ気味なんだ。


「なんだよ、わかんねーの?」


僕の様子を眺めていたユノは腕を後ろに組んで前かがみに顔を覗き込んでくる。
可愛らしく首を傾げて、
くりくりの黒目でじっくりと。

「わかりま……す」
「ならいい。お前も早く着がえろよ」

着替えが完成したユノは鼻歌を歌いながら壁際のソファーに移動した。
対する僕は消化不良を極めているわけで。
なんでわかりますって言っちゃったんだと後悔しながら、パリッとしてかえってきた服に着替え
ユノの向かいに腰を下ろした。

「そこテーブルだし」
「固定概念です」
「なんだそれ」
「テーブルだって決まってないでしょ」
「どう見てもテーブルだろ」
「僕には広い椅子に見えます」

ユノは目をパチクリして頷いた。

「一理ある…」
「納得するんだ…」
「なんだよ!言ったのお前だろ!」
「で、」
「で?」
「さっきの、やっぱりわかりません。教えてください」
「素直だな」
「細胞呼吸で素直を生産してますから」
「…ツッコめねーよ」

ユノは少し笑って、すぐに真面目な顔をした。

「ほんとはさ、お前がモデルをやりたくて仕事を引き受けたわけじゃないって分かってんだ」
このテンションの落ちっぷりは良い話題ではない。そんな予感。
「急になんですか。」
「俺を心配して、だろ?」
すごくすごく優しい声。
だけど、声から、言葉から、ユノの言わんとすることが分かって…イラっとする。

「そんな覚悟じゃ勤まらないから辞めろとでも?」

ユノは答えない。
表情に少しの変化もない。
こんな時だけ読めない顔をするの、やめてほしい。

確かに心配している。めちゃくちゃ心配だ。
あんなことがあった後だし、ユノを守れるのは自分だけだから。
それがモデルをやる気になった理由でもある。
だけどその根本にある覚悟なんて、とうの昔に持っている。
ユノと2人で何日も何回も幾度となく、悩み、落ち込み、恐怖に追われながらも、考えて、考えて、答えを出した。

それをどうすれば説明できるのか。
伝えられるのか。

この世界のユノに。



「……ごめん。」
「何に対する謝罪ですか」
「ほんとに悪いと思ってる」
「だから、」
「辞めろって言ってやれなくて」

………ん?
ユノの言葉を頭で反芻したことろで違和感に気づく。

「…えと、辞めろって言わないんですか?」
「当たり前だろ?」
「当たり前なんですか?」
「うん」

相変わらず深刻な顔をしたまま、こくりと頷くユノ。

「なんですか!…思わせぶりな…まったく」

辞めさせる辞めないで口論になりそうだと思った予感は見事に外れていて、思っきし脱力する。

「今日、俺はお前と仕事したいと思ったんだ」
「撮影が上手くいったから?」
「もちろんそれもある。けど……それ以上に、お前が隣にいんのが心地いい…てか、
 しんどいこととかあるけど、お前がいてくれるだけで乗り切れるっつーか。
 お前と一緒なら上も目指せるんじゃないかなって…
 悪い、全部自分の為の理由しかないんだけど、俺とやろう!ついてこい。

 ………って、お前…すげーなんか嬉しそうだな?」

照れ隠しなのかまくしたてるように言ってから、しげしげと僕の顔を見て首を傾げる。


ユノは知らないだろうけど、誰でもなくユノに頼られるって、仕事で頼られるって…めちゃくちゃ嬉しい。
今なら垂直の壁も勢いで登れそうだ。



「……なんだかプロポーズされたみたいで」
「プロポっ…!し、してないし!」
「だから、みたい、って言ったでしょ」
「え、…うん、言った…
 …んで、どーなんだよ。」


僕の答えに緊張しているのか、少し唇を尖らせつつ、答えを急かす。
まったくこの人は…僕が辞めたいと言うとでも思っているのか。
顔が溶けてどうしようもない顔をしていると、僕自身が自覚しているのに。


「今日から、東方神起、結成です!」
「とーほーしんき?」
「そうです。東の方から神が起きる。」
「…おーっ!!カッコイイな、それ!」
「でしょ。まずは僕ら2人。こっそりはじめましょう?」
「いいよ、いいよ、いいねーそれ!!!楽しそうだ!!」

目をキラッキラさせてユノが言う。
そしてガシッと手を組んだ。

「ありがとう、チャンミナ。」
「どういたしまして。でも忘れないでください」
「何を?」

戦友なノリも悪くはないけど、ただの戦友になっても困るから、
クギはさしておく。

「ただのメンバーではいませんからね。
 絶対ユノヒョンの“いちばん好きな人”に昇格しますから」


ユノはぱちぱち目を瞬いた後、まるで仕方ない奴めっていうみたいに笑った。


「なんだよ、わかんねーの?」


セカンド。
セカンドだよ。
また謎かけに戻る。
ってゆうか、それについて聞いたはずが見事に話題転換されてた。
でも戻ってきたから、今度は素直に言う。


「わかりません。だから教えてください。」
「ん~そうだな~」

ユノはよいしょ、と中腰になり…
顔が近くなったと思ったら、

ちゅぱ。

なんか可愛い音を立てて口端から離れていった。
そして、


「……て、ことだ。」


って言った。

そして、口をぱくぱくさせて言葉にならない僕に


「鈍いよな~、チャンミンて。」


って、ため息混じりに、言われた…。






end..

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※【タレソカ学園高校】の続きです。

tare.gif 【視線のさきには、/01.】






「ん~……」

なんだか凄くあったかくてフワフワしてる。
すっげーい~におい。
もちもちでスベスベで、気持ちいいし。
でも僕、そんなの持ってたかな…

薄っすら目を開けると、視界いっぱいに艶めいた髪の毛。
シャンプーの香り?
ん~…違う。
首筋に顔を埋めてみる。
ん~…これだ。これがい~におい。
この人のにおい。


………。
………。
………。
って待て待て。
誰の頭を抱いてんだ僕。
キュヒョンのか。
勝手にベッド入ってきたのか。
しかもこの感触、裸?
腕枕といい巻きつけてる腕といい、まるで恋人同士みたいなこれなんだ。
さすがにナイよキツイよキモいよ無理だよ、キュヒョナ…

抜け出すべく肩を揺らす。


「キュヒョナ、起きろ」
「ぅん?」


胸に押し付けられていた顔が見える。
その瞬間、僕は瞬きすら忘れて釘付けになっていた。

凛々しい眉。
彫刻みたいな鼻。
チェリーみたいな唇。
シャープな輪郭。
顎は…かなり青い。
だけど総じて、…美人。


いや、ちがくて、誰だ。
キュヒョンじゃない。

…ん?

誰って、見たことあるじゃん…
あるじゃん!!

これ…
、これ…、ここ、この人、
いやそんな…
まさか…


「……ユンホ、先輩…?」


声に出してみると、心臓が凄い音を立てて走り始める。
大混乱と言った方が正しいか。


なんでどうしていったいぜんたいなんでどうしてこのひとがここに…!!?


うっすら瞳が開いて、僕に焦点が合った瞬間、
僕は窓ガラスが揺れるほどの叫び声を上げながら、ベッドから落っこちていた。









「おーい、チャンミン、大丈夫か?」


ダイジョウブなわけない。

どうか夢から覚めますように。
どうか夢から覚めますように。
どうか夢から覚めますように。

三度念じて恐る恐る目を開けると、ベッドから身を乗り出して僕を見下ろしていた。



誰が。
ユンホ先輩が。

……ユンホ先輩が。

…………ユンホ先輩がっ!!!


普通さ、ベッドから落ちたら、いつもの日常に戻るもんじゃない?
何も変わっていやしない。



「あの、すいません、あの、…ユ…ンホ先輩…、えと、なんで…ここにいる…んです…、か?」


しどろもどろだけど、仕方ないんだ。
初めて…初めて話しかけるんだから!!


「?何でって…?」
「いや、だから、何で僕の…その…、ベッドに…いるんですか」
「俺のベッドだけど」
「え?」
「だから俺の部屋、俺のベッド。ほら、上がってこいよ」


手が差し出される。
僕に。
目の前には、ユンホ先輩の手。
ユンホ先輩の手。
ユンホ先輩の、…手。

その手を掴もうとして自分の手が視界に入り、慌てて引っ込める。
正気に返ったとでもいうべきか。

むりむり。
さわれるわけないさわれるわけないさわれるわけない。

ぶんぶん首を振って、1人で起き上がる。
そして気づいた。





……ぜ、全裸なことに。





しかし、ヒトって驚きすぎると声すら出ないんだな~


「なに下着?パジャマ?」


石化している僕の様子を不思議そうに見ていたユンホ先輩は、
布団の中でゴソゴソして、僕に放る。


え、何でそこにあるの?!
ベッドの中で脱いだの!?
てか2人して裸?!
それって…それって…いわゆる…


慌てて下着やら何やら身につけながら、ぶわっと頭に浮かんだ想像があまりにも後ろめたすぎて、
恥ずかしすぎて、申し訳なさすぎて顔が熱くなる。

しかも、ベッドから下りてきたユンホ先輩は堂々としたもので、
晒す。
全部。
どこもかしこもアソコも。

慌てて目を反らしたけど、葛藤が始まるのも早かった。
だってユンホ先輩のカラダなんて想像でしか見たことない。
あ、…ごめんなさい。
いやらしい想像では…あり、ません。
…えっと、まぁ、つまり見る機会なんてまずないし、これを逃したら一生ないかもしれないんだから。
目に焼き付けておかないと勿体無くない…?!


ドキドキしながらも勇気を振り絞って、そーっと目を開ける。
そしたらすでに上下を身に付けたユンホ先輩が僕のそばにしゃがみ込んで、眺めていた。

何を。

僕を。

僕を……?



「ヒッ…!!!…ぁいった」

がむしゃらに後ずさりしすぎて壁に頭をぶつける。

「…何やってんだか」

ユンホ先輩は可笑しそうに、ぶつけた後頭部をよしよし撫でてくれた。



ユンホ先輩の手は僕の頭上に。
見上げればキラッキラの笑顔。

ユンホ先輩の手は僕の髪に。
見上げれば死ぬほどカッコイイ顔。

ユンホ先輩の、…手は。
僕に、僕に…ふれている。

匂いも感触も感覚も、さっきからすべてが生々しい。




「立てるか?」

また、手が差し出される。

この手は、僕用?

僕しかいないもんね?
だからもしかしなくてもそうなんだよね…?
……。
……だったら…
………握っても、いいのかな…、


……
………
…………いや、むり。
やっぱむり。
さわれないっっ!!


だから壁に手をついてよろめきつつ立ち上がった。



「だいじょうぶです…」



ユンホ先輩の気配は物凄く近くにあるけど、直視できるわけもなく、
この部屋唯一のドアに向かって早足で駆け逃げた。








続く..

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tare.gif 【視線のさきには、/02.】






ドアと開けると、ブラック&ホワイトを基調にしたダイニングとリビングを兼ねた空間が広がっていた。
オープンキッチンから開放的に見えるリビングは、ひとつひとつの家具のボリュームが小さいせいか、
すごくシンプルな印象。
柔らかそうなブラックのラグマットにホワイトのソファー。
窓際にソファーなんて変わったコーディネートだ。
でも、動線が開いているせいか、家具に囲まれているような窮屈さは微塵もない。



「先輩の…部屋?」



口にしてみるとドキドキした。
いやいやでも違うだろうと思い直す。 
だって、キュヒョンとシェアしていた学生寮とは、共通点が1つもない。
最高学年で生徒会長で芸能活動もしていて学校一の有名人であるユンホ先輩が
特別室みたいなものをあてがわれていたとしてもだ。

……いやでもユンホ先輩はさっき「俺の部屋」って言ってた。
しかもうちは“超”がつく金持ち学校なんだから、僕が知らなかっただけで…
校内に高級マンションみたいな部屋もあり得るかもしれない。




仮にここがユンホ先輩の部屋だとして、いつなんでどういった理由でここにいるんだ、僕は。

だって昨日の夜は…高等部への入学式の準備をして、目覚ましかけて、キュヒョンにオヤスミ言って、
ユンホ先輩の写真にもオヤスミナサイして、それから自分のベッドに入ったはずなのに…








「チャンミン」
「ヒッ」


耳元に息がかかって、飛び出そうになった心臓を慌てて飲み込む。


「何で逃げんの?」


そんな不思議そうに聞かれても…僕にもわからない。
好きな人と距離が近くなったんだから素直に感受してしまえばいいのにと、思わなくもないけれど、
いかんせん、恥ずかしくて耐えられない。

今だってそう。
僕相手に、…肩に頭をのっけて、腰を抱くだなんて…
しかも背中にユンホ先輩の体温と感触が…ぴったりくっついてるし!
意識が否応無くそっちに持っていかれてしまう。



「チャンミン~なんか言えよ。」



もーむりっ!



「ごめんなさいっ」
「えっ」



ユンホ先輩の腕を振り切って、リビングを横切り、壁まですり足で走る。
ほんの数メートルの距離なのに、もはや疲労感は100m全力疾走後よりもデカい。



ユンホ先輩でイケナイ妄想をしたことないか…と問われたら、否定はできない。
だけどあくまで妄想だ。

現実の破壊力たるや。







こんなこと、バレたら軽蔑される。死んだほうがましだ。
いやその前に、まともにしゃべれてない時点で変な奴とは思われているに違いないけど。

心配しつつ背後の気配を探ってみる。
どうやらドアの前から移動しているようだ。


ホッとしながら、そろーりと首だけを回すと、キッチンに入るユンホ先輩が見えた。




「コーヒー入れてやるから、着替えてこいよ。」


姿は見えない。声だけ。


半歩ずつ、かろうじて見えるところまで移動してみる。
どうやらスティックのコーヒーを入れてくれるらしい。


だけど、さっきから、無駄が多いというか、効率が悪いというか。
簡単な作業であるはずなのに、見ていてハラハラしてしまう。




結局、カタカタとカップとソーサーを鳴らしながらダイニングテーブルに置くところまで
見守ってしまった。

はじめてのおつかいか。
自分にツッコミを入れる。





「あれ、まだ着替えてねーの」
「……!」


はっ!!
こっそり見てたのに、今や堂々と見てた!


「チャンミナ?」
「…は…はい、あの、先に、これ、いただきます」


しどろもどろではあるが言葉を絞りだしつつ、カップが置かれた席に腰掛けて
湯気の立つコーヒーをすする。


「うまい?」
「美味しいです」


たとえ、お湯の量が多すぎたって。


「落ち着いたみたいだな」
「あ、え、はい…」


いつの間にか身も心も、頭が働く程度には戻ったらしい。
ほっこりしたティータイム過程のおかげだろうか。


「で、どうしたんだよ。朝から様子おかしいし。目も合わせてくんないじゃん。
 俺に怒ってんの?」


コーヒーを吹出しそうになってしまった。
ユンホ先輩に僕が怒るだなんて!?
恐れ多い。
僕にとっては神レベルの存在なのに。


「何かしたかな~」


白い液体…牛乳?ヨーグルト?らしきものを手の中で揺らしながら
くりくりの黒目を斜め上に向けて考えている。


「あの、聞いてもいいですか?」
「うん」


おずおずと問いかけると、視線が僕に戻ってきた。
だめだ。反射的に視線が左右に流れてしまう。
直視は無理。
最終的には眉間あたりに落ち着いた。


「何で、僕はユンホ先輩のお部屋にいるんでしょうか…」
「いっしょに寝たから」


さくっと答えが返ってきた。
まって処理できない。置いておこう。


「…いえ、それ以前の話で…何でここにいるのかってゆう…」
「ん?…ここって、家って意味?」
「家…まぁ、そうですかね。僕がユンホ先輩の家にお邪魔してる理由を教えもらえるとありがたいんですけど…」
「……マジで聞いてんの?」
「え、ええと、はい…」
「そか……」

おっきい黒目だな~って思いながら思案する様子を眺めていたけど、
答えが返ってこない。


「あの…先輩?」


ユンホ先輩はテーブルの上で両手を組んで、顎を乗せた。


「…じゃぁ、お前は、ここじゃなかったらどこにいる予定だったんだ?」
「僕の部屋です」
「お前の部屋はどこ?」
「どこって…1年の寮ですけど。ここは3年の寮なんですよね」
「会社の寮だけど…」


かいしゃ?
まってこれも処理できない。置いておこう。


「俺も聞いていい?」


三回くらい無駄に頷く。


「俺とお前の関係は?」
「関係…」


口が裂けても言えないけど、僕が一方的に想ってる片思いの関係。
それを抜いたら、


「僕の先輩…です」

間髪入れず、質問が返ってきた。

「ただの先輩?」
「まぁ…そうです、ね…」
「…あー、………そうか。ちょい…考えさせて」

そう言ってユンホ先輩はテーブルの上に組んだ手に、今度は額を乗せた。




つむじ、こんなに近くでは初めて見る。
今のうちに存分に見ておこうと、髪の毛の一本一本まで目を凝らしていたら
ぱっと顔が上がった。

ばっちり目が合っちゃったから、慌てて眉間に修正。
よし。



「多分今日のスケジュールはキャンセルできないから、言っとく」
「あ、忙しいんですね」

なんでか分からないけど思いっきり苦笑された。

「チャンミン、お前のだから。」
「僕…?」
「お前がやんなきゃ成り立たないのは、収録1本。あとはまぁ、隣にいてくれたらいい。なんとかする」
「何を撮るんですか」
「音楽番組」
「生徒会でイベントか何かするんですか?」


ユンホ先輩は困惑気味に眉をひそめた。
え、今僕、変なこと言ったかな!?焦る。


「…さっき、1年の寮って言ってたけど…まさか高1って意味?」
「そうですけど…」
「お前、高校1年生なの?」
「そうですけど…?」

直後、ユンホ先輩は立ち上がって電話を取る。

「出かける準備しとけ」


向こうのドアを指し、それだけ言って、寝室に入っていった。









僕だけになったリビング。

一体何が起こっているんだろう。







僕の疑問は何一つとして解決していないけど、

とりあえずコーヒーを飲み干した。










続く..

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tare.gif 【視線のさきには、/03.】






ユンホ先輩が指差していた部屋。
とんとん、ノックする。


……。
ノーリターン。


一応「失礼します…」小声で呟きながら、ちょっとだけドアを開けた。


だがしかし。


数センチ…そこから見えた光景に、さっきまでの控え目はいづこへ、思いっきりドアを開け放つ。
そして一秒後には、部屋の中に入り両手を胸の前に重ねて、凄い勢いでキラキラしてしまっていた。

そう、そこはまるで、僕の欲求を反映したような楽園だったから!!






「………すっげ…」






壁という壁に、大っきいのから小さいのまで、様々なユンホ先輩の写真が飾ってある。
見たことのない先輩ばっかりだし、しかもプライベート感満載のポラロイドまで!!
ファンにはたまらない、垂涎モノだ。

僕だって、こんな楽園創りたかった。だけどキュヒョンと同室だったから…実現できるはずもなく。
まあそれ以前に、その辺のミーハーと同じだと思われるのも癪で、チラッとですら打ち明けたこともなかったんだけど。


にしても、この楽園の創造主は誰なんだ。
ユンホ先輩の熱狂的ファンでしかも同室の生徒がいるなんて…聞いたことない。

とはいえ誰かが住んでるのは間違いない。
壁をギャラリーにしているせいで、家具が部屋の中心に集まった独特な配置だけど、生活感はある。





先輩と一緒に生活するってどんな感じだろう。
……羨ましいような、耐えられないような。






「チャンミン?」
「ハイーッ」

急に声をかけられてビクッとなる。
振り向くと、ユンホ先輩が入り口に肩を預けて立っていた。


「着替えは?」


と言われても。
この部屋に僕の荷物らしきものは見当たらない。


「えと、僕、服とか持ってきてるんですか?」


我ながら変な質問だ。
自分の事を人に聞くなんて。
そりゃ驚かれるよ。
慌ててフォローを入れる。


「あの、変なこと聞いてすみません。
でも本当に、寝て起きたらここにいて何がどうなってんのか、わかわからなくて、僕の荷物とか…」
「荷物もなにも…ここ、お前の部屋だろ?」

ユンホ先輩はしどろもどろな僕を遮って、そう言った。



ここが僕の部屋…?
僕の部屋…
僕の部屋…
ってことは、


「っえっ……え      っっ! ユンホ先輩の写真…」


全部端から端まで、僕のもの!!僕のもの!!僕のもの!!
海賊王がお宝をGETしたら、きっとこんな気持ちなんだろうな!
何故どうしてという疑問より喜びが勝っていた。







だけど。







真剣な顔をしたユンホ先輩があっという間に僕との距離を詰めてきて、
ぶつかるみたいに腕の中に抱き込まれる。






「…… 記憶、消えたんじゃなくて消したかったのかもな。
お前にとって、…東方神起も、俺も、…  重 た か っ た ? 







最後のほうは、言葉を発したのか、発していないのか、
耳元なのに…受け取ることができなかった。

抱きしめられて、動揺したからじゃない。


吐息。
拍動。
体温。


感じるほど近かった。

だけど、

ユンホ先輩の声があまりに揺れていたから。

回された腕は強いのに、縋るようだったから。


不安。
失望。
寂然。


一気にガツンと押し寄せて、耳を塞ぎたかったのかもしれない。




…ただ、分かったこともある。

僕とユンホ先輩には、僕の知らない歴史があって。

だからこそ、僕が疑問に思ってること、口に出したすべてがユンホ先輩を傷つけた。

それに気づいたのが今更だったのは、僕がちゃんと見ていなかったから。

もう質問しない。

まっすぐ、見ていよう。












「…なんてな~。ごめんね、チャンミン」

陽気な声と一緒にユンホ先輩の体がすいと離れる。

「まぁ、お前の記憶が空白でも俺の中にあるから、いつでも埋めてやる。心配すんな?」

頭をポンポンされる。
優しくてあったかい、太陽より眩しい笑顔。


「ユンホ先輩…」

覚えていなくてごめんなさい?
早く思い出せるようにがんばります?
どれも違う。
今の僕は返す言葉すら持ち合わせていないのだ。
不甲斐なくて涙が出そう。
けど、それが相応しくないことだというのは分かる。
だから僕も精一杯の笑顔を作って頷いた。








「あ、呼び方な。今まで通り、ヒョンて呼べよ」

ユンホ様とは呼べてもヒョンだなんて…!!
ファンの男共に申し訳ないやら、照れくさいやら…

けれど僕の空白を埋める、これも一つのピースなのだろう。
意を決して言ってみる。

「……ユノ…ヒョン?」

だいぶ声はちっちゃくなったけど。

「よし。」

それでも本当に、本当に嬉しそうに笑ってくれた。





              あー、そっか。





ユノヒョンがくれた笑顔に、答えのひとつが隠されてたみたいだ。

ここにいる僕は、遠くからユンホ先輩を見ていた僕じゃない。
ユンホ先輩を笑顔にできる存在なんだ。





              だから、ここに。 ここに、いる。










もう一度、名前を呼んだらどんな顔するんだろう。
調子に乗って言ってみた。

「 ユノヒョン 」












続く…

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【 南国の、夜話 】






「なーなー。」
「なんですか」

もぞもぞ動く気配に、首だけ向ける。
ベッドのそばのオレンジ色した電球が淡く優しくユノの顔を照らしていた。
手のひらを合わせて重ねたそのうえに、小さな頭を乗せている。

「あ、起きてた」
「寝てましたよ」
「起こした?」
「いーですよ」
「今日楽しかったな。」
「撮影中も普通に遊んじゃいましたもんね」
「まだ遊ぶ?」
「遊びたいの?」

ホテルに帰るなり、飲みすぎたー疲れたー寝るーってユノがベッドにダイブして、
僕がその隣にそーっと滑り込んでから30分。

「だって目が覚めたんだもん」
「キューティーハニーですか」
「違うけど、だめ?」
「別に求めてないから、だめじゃないですよ」

僕ももぞもぞ動いて体を向ける。
そしたら目の中いっぱいのユノが、パァっと向日葵みたいに笑った。
僕の行動ひとつでこんな顔を見せられると…胸がキュンて鳴る。
もう長いこと一緒にいるのに。
いつもそう。

だけど繰り出されるボールは変なとこから飛んでくるから、いつまでたっても慣れやしない。



「じゃあ、パッタイ!」

…それは、えと、たしか…夕飯に…目をクリクリにして食べてたヤツだ。
って、そーじゃなくて、『じゃあ』って何だ。
しばし考える。


「……イェン・ター・フォー…?」
「オ、オ、オー…レンジ!」
「ジョーク」
「ク、……クルミ…」
「ユノヒョンの負けでいいですか」
「何でだよ」
「クルミは北半球の温帯地域が主な原産地なので無関係です」
「そーなの?!…チャンミン、よく知ってんなー」


ハイタッチを求められた。
でもユノの暴投に、振ったら当たってホームランになった的な気分だから、
軽めにしておく。

…で、


「今のは何ですか」
「南国しりとり」
「何の説明もなく始めましたね」
「南国しりとりに説明いるか?」
「南国しりとりの説明ではなく」
「ではなく?」
「…………いえ、何でもないです。僕にグッジョブとさえ言ってくれれば」
「あはは。グッジョブ!」

僕は全然可笑しくないけど、
ユノは楽し気に笑いながら、両手の親指をぐっと立ててくれた。

グーググー。
日本で流行ったギャグみたい。


「南国しりとりじゃなくて、南国じゃんけんにしましょう」
「フツーのじゃんけんとどう違うんだよ」
「勝った人が好きな所にチューできるんです」
「スキなトコにチュー?南国と関係ないじゃん」
「南国イコール開放的でしょ」
「たしかに!」

自分でもイミフな理由付けだとは思ったけどユノはうんうんしてる。
だからよし。

「いきますよ。はい、南国じゃんけんポン」




ちょき vs ぱー




遅出しになった、その手がぱー。

「僕の勝ちですね」
「しょっぱなから負けた…」
「じゃあ、いただきます。」

愕然!!とばかりに見ているその手を取り、指先に唇を押し当てて、肺活量の限界まで吸う。
皆を魅了する、男っぽいのに長くて細くて繊細で美しい、僕の大好きな指。



ダンスしてるとき、ユノが触れた空気が、キラキラして見える時がある。
そのキラキラは、少しずつ指先から溶けてるユノじゃないかって心配になるけど、
もしそうなら、僕の中に積もればいい。



そんな想いで他の指先にも口付けようとしたら、すごい早さで引き抜かれてしまった。

今、ユノの指先はユノの手の中に。



「チューは1回だから!」
「そんなルール作るんですか」
「当たり前」
「つまり僕のターンは終わりだと?」
「そゆこと」
「でもまだ何もし…」
「はいはーい、出っさなきゃ負っけよぅ~南国じゃんけんぽん!!」



ちょき vs ぱー



「よっし!!」
「おめでとうございます。」

両手をちょきにして左右にカニカニするあたり、喜びっぷりが愛しい。

「どこにシてくれるんですか」

そう聞くと、ちょきを目にぺたと当ててキョトンとする。
瞬きに合わせてカニカニ。
まだやるか、可愛いを畳み掛けてくる。

「……、お前が負けたよな?」
「ええ、ユノヒョンの勝ちです」
「でもお前…嬉しそうだよな?」
「とんでもありません。南国じゃんけんに負けてすっげー悔しいです。」
「ふぅん?」
「さ、次の南国じゃんけんでリベンジしたいから早くシてください」
「ん、わかった。じゃー……」

ユノの視線が頭のてっぺんから額へ、頬に下り、唇を通って首筋からまた上に向かい額で止まった。

「ここ?」

うんうんするユノ。
額が好き?デコチュー??
…それは想定外だ。
勝っても負けても嬉しい遊び。
ユノならまず唇にシてくれるだろうと踏んでいたのに。



だけど、次の言葉に、遊びは終わりだってことを知る。







「俺は、お前の頭ん中の痛いとこにチューしてあげたいんだけど

                                   …どーやってしようか」







さっきまでちょきだった手が伸びてきて、僕の頭を撫でる。
髪に優しく絡んだ。










                東方神起が歩みを止める。


…そんな期間に、もうすぐ入る。
寂しいけど、やるべきことだと思って準備はしてきた。


だけど、ユノの側にいられなくなる。
もっと言えば、僕じゃない誰かがユノの側にいる。
仕方のないことだと分かってはいるのに、割り切れない。


覚悟とか理解とか妥協とか、そんなもの、したくもなかった。



だけどユノは、それをしろと言う。
多分、僕らが一緒に過ごせるいちばん長い夜に。
手伝うからと。










「東方神起が再始動してからさ、半年は復帰の2文字でもつと思ってた。
でも、その後。 現状を超え続けるには、何が必要だったか…チャンミン、お前は知ってたか?」


突然の問いかけ。
その答えには、苦しい想いがたくさん詰まってる。


「……僕の成長です。」


ユノは目を細めて微笑む。
がんばったなって褒めるように、誇らしそうに。


「今の俺らが在るのは、あの時、お前が答えを見つけたからだ。」


見つけたというより、否応無く気付かされた、の方が正しい。
僕の隣には、ユノしかいないんだから。
生きる手本。そんな人なんだから。


「……またユノヒョンの背中を見てればできるんですか?」
「また、じゃねぇよ。 今回は、だ。 まず、お前にいーコト教えてやるよ。」
「いーコト、ですか…?」


なんか雲行きが怪しい…。こんな時は大抵が、脱力コースだ。
と思っていたら、ユノが僕にぱーを見せた。


「ぱーじゃねぇよ。5だ。」
「…ユノヒョン自ら説明してくれるなんて…珍しいですね。」
「いつもしてるじゃん」
「そう……………でしたっけ?ま、いいです。続きをどうぞ。」
「うん。5つあるからしっかり聞いとけ」
「…はい。」

「ひとつめー。
ちっちゃいユノがチャンミンの頭の中に住んでいる。」

「…………。」



脱力コースまっしぐら。

たまに…いや、結構な頻度で、高尚すぎて理解に苦しむ事を言うんだ、ユノは。
期待していないのが僕の顔からモロ分かりだろうに、ユノといえば自信ありげにニヤリして
指折り数えて言葉を詰む。



「ふたつめ。
ちっちゃいユノは郵便配達ができる。

みっつめ。
ちっちゃいユノに手紙を渡したら、ユノに届けてくれる。」



どうよ、とばかりにふふん、ドヤるユノ。



「4つめと、5つめは?」
「お手紙は毎日出せよと、出し忘れるなよ」
「最後は格言なんですね」


ユノは大きく頷いた。


…相変わらずだなと思う。
真面目な話かと思えば、こんなことを、適当なのか真面目なのか、分からない感じで言う。
だいたい、僕はリアリストだから。
メルヘン思考なんて持ち合わせてない。


だけど。


きっと、渡してしまうんだろうな。
ちっちゃいユノに、ユノへの手紙を。
そんでもって、しまった!僕はリアリストなんだから!ってなるんだろうな。





元気ですか?
ちゃんと食べてますか?
ゲガしていませんか?
毎日幸せですか?
笑ってますか?


僕は…恋しいです。

僕は…貴方の隣にいたいです。





「…それって、返信はないんですか?」
「えっ!……それは、なんだ、ウェブを見ろ」
「続きはウェブへシステム?」
「最新だからな。お前からの手紙には、活躍で応えてやるよ」
「なるほど。ユノヒョンらしいですね」

「あっ!!」

いきなり声を上げたかと思ったら、ユノが眉間を押さえる。

「どうしましたか! 痛いの? ユノヒョン?」

顔を覗き込む。

「今、ちっちゃいユノから連絡がきた!」
「……………は?」
「チャンミンは唇にチューしてほしかったんだよって言ってる」



………どうやら南国じゃんけんの話に戻ってきたらしい。
しかもその情報は…正しい。



「まさか、ユノヒョンが軌道修正するなんて…唐突も唐突、激しく唐突ですけど」
「なんかすげー失礼なこと言われてる気がするー」
「気のせいですよ」
「ならいいけど」
「ちっちゃいことは気にしない♪」
「ソレ、ワカチコワカチコ~♪」



ぷぷーっと二人で吹き出す。
深夜に何やってんだろうって思ったら、もっと笑えてくる。



「ちっちゃいユノにばっかり任せてらんないからな! 俺もチャンミンのお手伝いするぞ」

そう言ってユノは僕の頭の下に手を入れて引き寄せた。
こつんと額をぶつける。




唇に感じる息遣い。
あと少しでゼロの距離。



「痛いの痛いの、飛んでけ~」



天使の羽を生やしたちっちゃいユノが、きゃあと両手で両目を隠す。
でも、隙間を開けてチラ見。

ユノのマネする??いいと思う!賛成!賛成!

僕の頭ん中の痛いとこにパタパタ飛んでって、チューをした。


















* * *


翌朝。


「俺、じゃんけん弱いのかな。」

寝癖のついた頭。
肩にかろうじて止まるだけのシャツ。
結局続いた南国じゃんけん。
僕に負け続け、僕だけがチューできるとこにシまくったから。
どこもかしこも。


「そんなことないですよ。フツーのじゃんけんなら強いじゃないですか」

さらっと事実を捻じ曲げつつ、ユノのシャツを脱がせて丁寧に畳む。

「今日は昼まで撮影でしょ? まずシャワーして着替えてください」
「はーい。行ってくる」
「ちゃんとタオルで拭いてから出てきてくださいね」
「ワカテル」
「服出して置いておきますから」
「うん」


ばたん。

扉が閉まってから流れる動作で、
昨日のユノが染み込んだシャツは僕のカバンへ、ジップロック。






あ。
……。
…………。

いや、本気で信じてるわけじゃない。
ほんとだよ、ほんとに。


でも、まぁ…ありえないけど、…昨晩はうっかりメルヘンに片足突っ込んじゃったし。

今も頭の中にちっちゃいユノがいて、ユノと以心伝心できるとしたら…

万が一に備えて、口止めは必要のように、思う。







ちっちゃいユノ、ちっちゃいユノ、聞こえてる?

僕はヘンタイじゃないよ? でも…

ユノヒョンには…シーっですからね。








end..

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tare.gif 【視線のさきには、/04.】






迎えのワゴンが来たのは、あれから15分後だった。


乗り込むなりユンホ先輩は、僕の隣で運転席のマネジャーさんと話している。

「リハの順番どうなった?」
「大丈夫。最後にしてもらった」
「なら二時間くらい余裕あるか…」
「ギリ」
「スタジオは押さえれた?」
「そっちもまぁなんとか。けど病院が先の方がいんじゃないか?」
「それこそちゃんとファンに見つからないように徹底したいから。」
「それもそうだな。にしても…チャンミン」
「は、はいっ!」

急に話をフラれてビクッとなる。
バックミラーに苦笑した顔が見えた。

「ユノから聞いたけど…高校から今までの記憶がスッポリないんだって?」

チラと隣を見る。

「…すいません…」

謝ると手が伸びてきて僕の頭をくしゃりと撫でた。

「でもなんでユノのことは覚えてんだろうな。知り合ったのは練習生になってからだろ」

マネージャーは不思議そうに呟く。
でも僕に答えを求めても仕方ないと思ったのか、言葉を継いだ。

「俺もなに悠長に聞いてんだか…現実味ないってゆうか。
ここは焦って騒ぐべきなんだよな、ほんとは。仕事どーすっかなぁ…」
「大丈夫だ」
「ユノがそう思ってるだけだろ?チャンミン、お前は?」
「…はい、まあ…」

何が大丈夫なのか、大丈夫じゃないのかすら分かんないけど、
ユンホ先輩が言い切るんだからそうなんだろう。

「一過性のものならいいんだけど…お前、ダンスも歌も、そのなんだ、できんのか?」

ダンス?
歌?
手拍子をしながらステップ踏む的な?
……なわけないよね…
だけど、『できない』は口にしちゃだめなワード感しかなくて、言い淀む。
マネージャーさんは察したらしい。

「………だよな。」
「前見て運転」
「お、悪い」
「パフォーマンスについては心配しなくていい。収録までにはなんとかなると思うから」
「ユノ、その根拠はどこからくるんだ?無理だった時のこと考えないと」
「今考えても仕方ねーよ。今日できないレベルなら、一ヶ月後だってできるわけない」
「まぁ、そうだな…任すよ。」

ただそこにある置物みたいな僕に、
ユンホ先輩は問題ないっていうみたいにグッと親指を立ててニッコリした。








ワゴンを降りて連れて行かれたのは、すごくデカくてオシャレな建物。
エントランスを抜けエレベーターに乗ってホテルの廊下みたいなとこに着く。
一番手前にある、重たそうな扉を開けて中に入った。
30畳くらいの部屋の一面に鏡が張ってある。

ここがスタジオ…かな。







…ん?


んんん?
左手を上げてみる。
鏡の中の人物が同じように動いた。


……あれ?

右足も上げてみる。
やっぱり、鏡の中の人物が同じように動いた。


つまり、あれは、




「……僕        っ!?」




駆け寄る。
鏡に映っているのは、大きな目に大きな鼻。 特徴のある唇。
今も昔も変わってない。
だけど、あどけなさが精悍さに変わり、ひょろりとした体は、厚みが増して男らしさが出ていた。
なかなかイケメンと言っていいのではないだろうか。
シャープな顎を撫でてみる。ちょっとざらざら。


「そっか……」


ほんとに急なんだけど、雨粒みたいに答えが落ちてきて、波紋のように広がる。
僕は記憶を無くしたわけじゃない。




「未来…未来に来た……」




実は、記憶喪失なんて言われても、ピンときていなかった。
だけど、ここが未来であれば、現実味はないけどもしっくりくる。

未来だと仮定して、
ドラえもんでいえば、この世界にも僕がいるはずだけど…今朝の事から考えるといないような気がする。
だってこの世界に僕がいたら、あのベッドに僕がいるわけない。

見た目だってそう。
僕は大人になった。

中身が入れ替わったというのが、正しい気がする。

そして、重要な事実。
未来の僕とユンホ先輩は親しい間柄にある!!
きっと、タレソカ学園高等部・大学部と、誰もが誉めそやす素晴らしい徳を積んだに違いない。







「自分に見惚れるチャンミン…なかなか珍しいな」

ユノヒョンの笑いを噛み殺したような声にハッとする。

「いえ、僕…ユノヒョンと並んでもそんなに悪くない…ルックスじゃないかと思って」

それが凄く嬉しい。
なのにユンホ先輩は、ひょいと肩をすくめただけ。
そして当たり前みたいなトーンでさらりと言った。


「俺の隣はお前しかいねーよ」


単純に…ユンホ先輩に認められているようで、自分が誇らしかった。









「チャンミン、時間ないからやってみよう」
「あ、はい。」

直立不動な僕に指で指示する。

「その辺に立て」

小走りで移動。
何をやるんだ。
説明を受けてないけど。

ユンホ先輩は僕の顔がクエスチョンマークで埋め尽くされてるのを分かっているはずなのに
何も言わないまま、携帯をプレイヤーに接続。

「いくぜ」

直後、聞いたこともない電子音が流れ始める。
どうしていいか分からない僕の隣に立つと、音に合わせて動き始めた。



鏡越しのユンホ先輩。

隣に僕。



この状況……
心臓が恐ろしい速さで走り出す。

こんなにも高揚した気持ちになるのは、生まれて初めてかもしれない。
無意識のうちに、乙女みたいに両手を胸の前で堅く握り締めていた。


だって…だってさ!!
ファンにはたまらないでしょう…!?
どんなにユンホ先輩が好きでも、どんだけユンホ先輩にお金をつぎ込んでも、
この時間は買えやしないんだから!




在学中からダンサーとして活躍しているのは知っていた。
でも学園から出ることもない僕には生で見る機会なんてなかった。


こんなに…間近で見れるなんて…


緩い部分がひとつもない繊細さ。
素人にだってわかる、魅せるためのダンス。
瞬間瞬間の美しさにこれ以上なんかあるわけないとすら思えた。

どこまでも妥協を許さない、姿勢が垣間見える。






「チャンミン、できるだろ?」

現実に引き戻される。

「できる…んですか?」

まさか、ユンホ先輩と同じダンスをやれと言っているのか。

「大丈夫だ。頭で考えんな」

そんなこと言われても。
踊ったことすらないのに。

「体が覚えてる」

あんなに動いているのに、ユンホ先輩の息は乱れていない。声すら揺れていないことに気づく。

「誰よりも、練習してきただろ?」


鏡越し。
まっすぐ僕を見つめる瞳。
そこには“できないかもしれない” なんて、不安は1ミリさえもなかった。


100%の信頼。


きっと、未来の僕はユンホ先輩と
毎日毎日こうして、積み重ねてきたのだろう。

ひとつずつ。
ひとつずつ。

だから、僕も信じよう。
未来の僕が、ユンホ先輩の隣に立つに相応しい努力をしてきたと。
そんな僕を信じている、ユンホ先輩を信じようと。






息を吸って
ゆっくり吐く。


知っていたわけじゃない。
なのに、
歌を聴いて、音を感じ、ユンホ先輩の存在を握り締めたら、

体が動いた。
しなやかに、伸びやかに。


鏡の中の僕は、見たことも無い顔をしていた。




ユンホ先輩が頷く。
僕もコクリ、頷き返す。

信頼に応えられたことは何より嬉しい。

だけど、自在に動く身体の軽さも
自然に出てくる歌声も
僕に起こっている出来事じゃなくて

まるで夢の中にいる自分を俯瞰的に見ているみたいな…
そんな、気がした。









続く..

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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。