コンコン。

右見て左見て、また、コンコン。
右見て左見て…お尻のポケットから携帯を取り出す。

客観的に見たら挙動不審でしかないと思う。

別に悪いことしているわけじゃないし、いちばん上の階は僕とユノの部屋しかないから、
他人に見られることもないんだけど…











 【まえのばん。】












「はーい、チャンミン?」

結構な音量で流れている“WITH”とのんきな声。
なるほど、ノックの音が聞こえなかったわけだ。

「そうです。ってゆうか、聞く必要ありますか」

携帯に名前が表示されているのに。
あーはーはーって笑うユノ。
ボリュームが下がった。

「で、どうした?」
「ドアの前にいるんですけど」
「俺の?」
「そうです。」
「ちょっと待ってろ」

ぎしりと音がして、ツーツーと、電話が切れた。
ドアに気配が近づいてきて、ほんの1時間くらい前にも見ていた顔がのぞく。

「入れよ」

ユノはそういって背中でドアを支えて顎をくいっと動かした。
いちいち、何気ない仕草が様になる。

「チャンミン?」

名前を呼ばれてぼーっと顔を見ていたことに気付いて慌てて視線を下げたけど
ユノが口元だけで笑っているのが分かった。

毎回毎回のことで、いいかげん自分自身が恥ずかしい。

でも、知らないふりをして、部屋に足を踏み入れる。
カップラーメンの匂いがした。

「深夜に?」

もう0時を回っている。
夜食としてはよろしくない。
振り返ってユノを見やると、さっと目を逸らされる。
みなまで言わずとも、一応、よろしくないことを自覚しているらしい。

「いーの、明日全部消化すっから」
「そうですね」

ユノは体がバキバキに締まっていないことにちょっとした罪悪感を抱いているみたいだけど、
ファンはそんな柔らかそうな体に癒されている節があるから、いいんだと思う。
それは僕もしかり。
むしろ、僕こそが積極的に邪魔しているかもしれない。

「でも、胃がもたれますからね。ほどほどにしないと」
「ん。」

ユノはちょっと照れたように笑ってこくりと頷いた。
そのとき、メールを知らせる着信。

ユノの携帯だ。

胸のポケットからそれを取り出すと画面を見て、ふんわり微笑む。
その嬉しそうな笑顔で内容は、想像するまでもなくわかった。



誕生日おめでとうメールだ。



でもすぐポケットへしまうと、僕に向き直って首を傾げ、そしてニヤリと笑った。

「俺に言うことあって来たんじゃないの?」
「ありません。」

即答する。
そしたらユノはちょっとだけ肩をすくめた。

明日…いやもう、0時を回ったから今日か。
ユノの誕生日からツアーがスタートする。
ステージ上で祝うからそれまで「おめでとう」はナシってこと、分かっているのだろう。


「じゃぁ、どうしたの?」
「どうしたって…」


僕が部屋に来た理由は、筒抜けなほどわかっているはずなのに…
ユノは胸の前で腕を組むと半身を壁に預けて意味深に笑む。

僕の口から言わせたいのか。
そうなのか。
そこまで素直な性格じゃないと分かっていながら。


おめでとうって言わない僕へのあてつけかもしれない。

「……。」
「……」
「……っ」
「……」

「……わかりました。帰ります」

言いたくないわけないじゃないけど、そう期待に満ちた瞳で見られると、言いずらい。

「ふ~ん。そう」
「…!」

ユノはチラリと笑みを漂わせただけだった。


      「ごめんごめん、帰らないで?」


そんなセリフを期待していたのに…
返ってきたのは、悪い男の顔。


……くそ。
なんか負けた気分。

だってそうだろ?

もしここで僕が帰ったら、ユノは絶対に寂しい思いをする。
それを分かっていながら、僕がのうのうとふかふかのベッドで寝られるわけがない。

っていうのを、ユノも知ってるってことだ。





僕の小さなため息に、ユノの笑みが深くなる。
そのことに苦笑いすると、ユノは得意げに目を細めた。


でもでも、やっぱむかつくから


「……じゃ、また明日。おやすみなさい」


そう言ってくるりと背を向けると、ドアを開けて廊下に出る。
空気の抵抗を受けながらゆっくり閉まるドア。



    ガチャリ。

オートロックのかかる音。

    シン。



静かな廊下。
僕はドアのすぐ横のオシャレな壁にもたれると、耳を澄ませた。


ニヤリと笑う。
ユノは今頃予想とは違う結果になって、目を白黒させているだろうか。

僕の気持ちを逆手に取るようなことをするからですよ。
ドアが開いたら、驚かせてやる。




・・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。



な~んて、ちょっとした意地悪をしてみたけど…
ドアが開かないことに、速攻で不安になる僕。



ユノが綺麗な瞳を涙でいっぱいにしていたらどうしよう。
大きな体を小っさくしてベッドで丸くなってたらどうしよう。
僕のいないところで悲しい顔をしてたら…



そんなことはないだろうと分かっていながらも、
誇張されるのが不安というもので。
それも分かっているのに、万が一を考えてしまう。
自分でしかけた意地悪のくせに、地べたを這いずり回りたい勢いで後悔していた。


素直に、
「今日はユノヒョンの傍にいたいんです」って
言えばよかった…



あー、あー、もう!
僕のバカ。
何やってんだろ。


とりあえず、ごめんなさいをしよう。
そう思ってドアを叩く。


    コンコ…


「え?」
二回目をノックするより早く、凄い勢いでドアが目の前に迫ってくる。
思わず目をつむったら、


    ゴッ


派手な音とともに、額に衝撃。

「い~っ!」

両手で額を押えてよろめく僕。
直後がしっと腕をつかまれた。

「遅いから」
「はぁ?」

片目だけを開けると、両頬に飴を入れてるみたいにぷっくり膨らませたユノに、すごーく睨まれていた。


「だーかーらー、もどってくんのが!」
「……。」
「…なんだよ、」

今度は唇をうにゅっと尖らせてスネたような顔をする。

どうやら、
僕らは二人して同じことして、
同じ気持ちになってたみたいだ。

でしょ?ヒョン。


「チャンミン?」
「………。」
「何笑ってんだ」
「…僕、笑ってます?」
「デコ痛いんじゃねーの?大丈夫か、お前」
「大丈夫じゃないですね。ジンジンします。ヒョン…ごめんなさい。すみませんでした。ほんと」
「お、おう…」

額が痛いのはユノのせいなのに、逆に謝り倒す僕を不思議そうに目をしばたかせて見つめるユノ。



あー、よかった。
何がよかったのかわからないけど、よかった。

うん。
ほんとによかった。



そんな気持ちのままがばっと抱きついて、体を部屋のなかに押し込む。

「ぅわっ!」

僕の勢いに重心が傾いて、倒れるーっと焦るユノの主張は無視無視。


    バッタン。ガチャリ。


鍵の閉まる音を背中で聞く。
ユノの首筋に顔を埋めてぎゅーっと抱きしめたら、宙を泳いでいた腕が諦めたようにだらりと下がった。

「…なー、チャンミン」

困っているような笑いを我慢しているような、複雑な声。

「はい」
「あのさー、」
「なに?」
「俺、今、115°くらい傾いてる気がすんだけど」
「問題ありません」
「…ないですか、そうですか…でも、いったん離せよ」
「わかりました。」
「……」
「……」
「…って!離さないのかよ。何のための相槌だよ」
「だって離してほしくないでしょ?」
「……、」
「ゆ~の~ひょん」

黙るユノ。
にやつく僕。

「ったく。もー…いつからそんな生意気んなったんだか」

呟いたユノの腕がそろりと僕に回って、ぎゅーって。ぎゅーーーって。
くずぐったい気持ちでいっぱいになる。



「明日ライブだけど…」
「ぁん?」
「今日はユノヒョンの傍にいてもいいですか」
「……そのつもりだったろ」

笑う気配。

「だってー、ヒョンが追い出すから…」
「出てったのはお前だろ」
「まぁ、そうともいいますけど」
「けどなんだよ」
「僕が帰って寂しかったですか」
「…今日のお前の話は散らかってんな」
「寂しかったんですね」
「なんでそう思うんだよ」
「寂しかったんですよね?」
「……そーともいうな」
「ふふ」
「むかつく…」
「さっきは意地悪してごめんなさい」
「ああ、反省しろ」
「はい。……で、ヒョン」
「ん?」
「そろそろ僕の腕も疲れてきたんですけど」
「離せば?」
「そうしたいですけど、とりあえず115°終了してくれますか」
「えー」
「えーじゃなくて」
「お前、鍛えてんだろ?手伝ってやってんのに」
「だからって全体重かけないでください。」
「つかさー、そろそろ俺の腹筋も辛いんだけど」
「ヒョンこそこのまま鍛えてみればどうですか」
「えっ!んーと、いや~」
「冗談ですよ。やわらかそうなお腹のままでいてください」
「そう言われると、なんだかなー」
「で、…ぐだぐだ言ってると抱っこしてつれてきますよ」
「う…それはすげー嫌だな」
「あ、でもその前に…」
「ん?」
「いや、やっぱいいです」
「なんだよ」
「後で言います」
「今言えよ」
「はいはい、ヒョンは歯磨きしてきてください」
「チャンミン!」
「カップラーメンのゴミは片付けてあげますから」
「ちょっと」
「寝不足は明日に影響しますからね?」
「…はい」


ライブのことを持ち出されると逆らえないユノは、ちょっと不満そう。
ゆっくり腕を解くと、腹いせみたいな勢いで僕の髪を両手でぐちゃぐちゃにかき混ぜて、それで満足したのか、
自分の腹をさすさすと撫でながら、すぐそこのドアへ消えていった。



後ろ姿を見送ってから、ゴミの片付けに入る僕。
ユノのせいで暴れたままの髪は、そのままに。



「相変わらず、散らかってんな~」

ため息交じりのセリフが漏れてしまう。

「何で僕が片付けなきゃなんないのって喧嘩してたのが、懐かしいな」

床に落ちたままの服を拾いながら一人呟く。
仕事はあんなに完璧にこなすくせに、何で自分のことはちゃんとできないのかって
イラっと君が顔を出してたのに。

今じゃこれだよ。
むしろ、あの頃とは間逆で…
自分のことまで完璧にしなくていいように、こうして甘やかしている節がある。

ユノはユノのこと、何にもできなくていい。
これからも、僕がいるんだから。
いくつ年を重ねたって、ずっとずっと。











「チャンミナ~!歯磨き粉がない!」

ドアの向こうで反響した声。
僕のちょっとしたセンチメンタルは、安定の台詞に遮られる。


そうそう、いつだってユノはユノ。
全部全部、僕だけの特権。



「置く場所決めないからですよ。何回同じことくり返しますか」

気持ちとはウラハラな小言を、ドアから顔を出したユノに言う。




「チャンミンがいるからいいの!」

呆れ顔でユノの前に立った僕のぐちゃぐちゃな髪を、
とびきりの笑顔と優しい手が直してくれた。







end..

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tare.gif 【タレソカ学園高校/17.】






「離してください」

やんわりと、でもその行為が不快であることは隠さずに、
僕を引き止める手を振り払う。
その言葉どおりに。

「…!」

そのせいか、副会長に張りつ浮いていた微笑が一瞬で固まって、
信じられないモノでも見るかのような驚きに変わった。

けど、申し訳なさなんて微塵も感じない。
だって見ていたから。



ユノが僕の横を通り過ぎるとき、一瞬だけれど、揺れた瞳。
それを悟られまいと咄嗟に閉じられた瞼。



僕の想像でしかないけれど…二人の間には僕の知らない密約のようなものがあった。
副会長と何を約束したのかは分からないけど、
ユノは直前になって…迷った。

迷わせたのは、きっと僕。
迷いを振り切らせたのは、副会長。
しかも間違いなく、悪い方向に。

すれ違いや誤解は、一秒単位で深くなる。
だから追いかけないと。




そう思って振り返ったけど、すでにその背中は見えなくなっていて、
思わず舌打ちをしてしまう。

まだ図書館を出ていないはずだ。
今ならきっと、捕まえられる。

だけど、数歩も進まないうちに、
背中に、とてつもなく衝撃的な言葉が投げかけられた。








「まさか、彼女を一人で置いていったりしないわよね」







思わず振り返る。


        カノジョ…?

単語だけがぷかぷか頭の中を浮遊する。


        誰が、誰の。

副会長が、僕の…?


        ハハハ。そんなわけない。

…き、聞き間違いだよね?



「ね?」の部分を問い掛けるように、首を傾げると
副会長は、どこか満足気な笑みを浮かべて、一歩ずつ近づいてくる。
僕が遠ざかったぶんだけ。
ゆっくり。
ゆっくり。

そして僕の目の前で立ち止まると、制服の袖を控えめに握って、見上げた。

「今日はデートの約束でしょ?」

デート…?
誰が誰と?

「ずっと楽しみにしてたのよ?」

柔らかい口調なのに、突き刺さるような瞳。
ぽかんと口を開けた間抜けな僕が映る。





        まさか、副会長と僕、…付き合ってんの?









…いや!!! 僕ってゆうか、この世界のお前、チャンミン!

そうなの?
ホントに?
なんで?
どうしてそうなった。

いつから。
いったいいつから?

お前、副会長が好きなの?
こーゆうの、タイプだっけ。
まぁ、確かに綺麗系スレンダーな巨乳はキライじゃないけど…

じゃなくて、
え、そうなの?

ほんと?

いやいや違う。
何かの間違いに決まってる。

だってこの世界にはユノがいる。

この人がユノ以上?
あり得ない。
ってゆうか、人類でユノ以上なんてあり得ない。




まずは落ち着け。
落ち着け。
そそ。落ち着け。
深呼吸、深呼吸。
落ち着くんだ。



スーハー。
スーハー。
スーハー…

…でも、考えてみれば……ユノだからってのはあり得る、…かもしれない。

わらわら女も男も寄ってきて、内気なチャンミンはユノの視界にかすりもしなくて。
僕だって、東方神起になっていなかったら…そうだったに違いないし。
そんな状況だったら、いくら好きでも手に入らないから、諦めようって思うかも…
で、仕方ないからコレで手を打った、ってのも…無きにしも非ずか。
不純異性交遊に興味津津なお年頃だろうし。
ちょっとイケないこともしてみたいだろうし……

って、何を想像してんだ。
しっかり働け、脳みそめ。

この世界のチャンミンが万が一、万が一、副会長に好意を抱いていたとしても、
たとえ、副会長の言葉が、偽であっても真であったとしても、
どれだけ複雑な理由があったとしても、




僕の答えは1つしかない。

        そうだろう? なぁ、チャンミン。









続く..

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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。