tare.gif 【タレソカ学園高校/10.】







至近距離まで近づいた僕に、反射的であろう、ユノは体を引いて2歩下がった。

だから僕は、ひらいた2歩分の距離を詰める。
そしたら僕に半歩遅れて、ユノが3歩下がった。



ここで初めてユノの顔に困惑の色が浮かぶ。
なんでこんな風に迫られているのか分からないって顔だ。



さらに3歩の距離を詰めると、ユノは4歩下がった。

そうして僕が8歩の距離を詰めたとき、ユノの背中は大きな木にぶつかっていた。














ユノの視線が素早く左右に動く。
まるで罠にかかったウサギみたいな仕草だ。

「もう、下がれませんね」

両手を幹にかけて腕の中に囲い、さらに足の間に膝を割り込ませると
ビックリマークとクエスチョンマークを同時に描いたような顔をするから、笑ってしまった。




「で、…」

下から覗き込むようにして首を傾げる。

「…誰が誰を好きなんですっけ?」

皿のように丸く開かれた瞳に、蠱惑的な笑みを浮かべた男が映った。


「チャンミン…?」


ユノは自問自答するかのように呟く。
僕が知らない人間のように見えるのかもしれない。


「なんですか?」


にっこりと笑みを浮かべてそれに応えると、形の良い眉がぎゅうっとしかめられる。


「何のつもりだ」


緊張を帯びた声音には責めるような響き。
僕らの間に流れる空気が、一気に険悪なものとなった。
とはいっても、主に、ユノの周りの空気が、ではあるが。


「先に質問したのは、僕ですよ」
「…質問?」
「僕が誰を好きですって?」

同じ質問を繰り返すと、数秒もたたないうちに

「……あ、そっか!」

ユノはすべてを悟ったかのようにポムと手を叩いた。

「口止めってゆうか…これはそういう意味なんだろ?」


その思考はズレたところに着地していた…。
思わず天を仰いでしまう。

たしかに、男に迫られるって、そんな場合もあるにはあるだろうけれど
僕が相手であっても、ユノ的には嫌がらせや脅しと同じレベルらしい。

泣いてもいいですか。

「誰にも言わないから。な?」

だから退けということなのだろうか。
終いには安心しろとばかりに、ぽんぽんと肩を叩かれた。



「…ほんっと、高校生のユノヒョンはにぶちんにも程がありますね」
「に、にぶちん?」
「サイアクです」
「……なんだよ、そこまで言うか」

ユノが口を尖らせた。

「僕は口止めしなければならないような失態は犯しません」

その尖った唇をつまんでやりたくなる。

「だいたい、僕を振る女子がいるとでも?」
「それはそうだな」

即、うんうんと頷かれてしまった。
ちょっとした冗談のつもりだったのに、さらっと誤解は解けたらしい。
言い訳より説得力のある冗談なんて、もはや冗談ですらない。

僕はちょっと微妙な気持ちになる。






「じゃぁ…これは…?」

ユノが不思議そうに呟いた。

「…何がしたいんだよ、お前」






僕に迫られている理由が口止めじゃないとしたら、他に何があるのか。
それを考えているらしく、ユノはこてんと右側に首を傾げる。

「なんだと思いますか?」
「質問を質問で返すんじゃねぇよ」
「じゃぁヒントをあげましょうか」
「じゃぁ、ってなんだ。…俺の話聞いてた?ヒントじゃなくて答えを言えって」
「それはダメです」
「何で?」
「考えてほしいから」
「何を?」
「……僕が誰を好きなのか」


そう告げた声は、思った以上に真摯な響きを持っていて、自分でもちょっと驚いてしまった。
ユノもそれを感じたようで、たっぷり10秒くらい僕の顔をじっと見つめる。
そして、


「何で俺にそんなこと考えさせんの?」


今度は左側にこてんと首を傾げた。
もっともな疑問だ。

「何でだと思いますか?」
「だから、質問を質問で返すなって」

ぷく、とユノの頬が膨らむ。
20代半ばの男がするにはザワつく仕草だけれど、欲目なのか…可愛くて頬が緩んでしまうのは、
今にはじまったことではない。


「…わかりました。じゃぁ教えてあげます」
「でもさ、俺が知ってどうすんの?」
「当事者ですから」
「ん? とうじ   っ」


ユノが言葉と一緒に息を呑んだ。
僕が頬に触れたからだろう。
特に理由なんてない。なんとなく、手が伸びてしまったのだ。

手の甲で感じる肌は、すべすべしていて気持ちいい。
掌を反すとそのまま包み込む。

ユノの口がポカンと開いた。
すがすがしいほどの驚きっぷりで笑ってしまう。

ふっくらとした唇を親指でなぞると、ゴチンとユノが勢いよく幹に後頭部をぶつけた。






「大丈夫ですか?」

「はっ、だいじょうぶじゃねぇよ…」

「大丈夫ですよ」

「…だいじょうぶじゃないっていってんだろ」

「はいはい。どの辺が大丈夫じゃないんですか?」

「…………おれが…」

「ぷ。…それはそうかもしれませんね」

「わらうな」

「はい、すみません」

「てか、ちかい…」

「知ってます」



鼻先がぶつかった。


顔を背けられるだろうか。
言葉で止められるだろうか。
グーで殴られるだろうか。

どれかだと思っていた。

だってユノにとっての僕は、慕ってくるただの後輩であり、
なにより恋愛対象ですらないと分かっていたから。

けれど、ユノはピクリとも動かなかった。
ただただ、その驚きに満ちた瞳いっぱいに、僕を映しているだけだ。

今のユノには僕しか見えていない。
頭のなかは、僕のことでいっぱいに違いない。


      今だけじゃなくて、ずっと、ずっと、そうであればいいと思う。





制止されないのをいいことに、唇で、唇に、ちょっとだけ触れてみた。

反応はない。
だからもう一度、今度は体温が伝わるくらい長く、触れてみた。

そしたら微かにユノの大きな黒目が揺れて…
奥二重の瞳がゆっくり瞬きをする。


僕は目だけで笑むと、もう一度唇を押しつけた。


「…、」


柔らかい唇を舌先でチロりと舐め、下唇を食んで、味わうように啄ばむ。
本当は、キスするつもりはなかった。


「…はぁ。」


でも、触れてしまえばもっと、ほしくなる。

頬に回していた手を首の後ろ側に滑らせると、
少しだけ顔を傾けて、引き寄せながら歯列の隙間から舌を……


「…ん?」


そこで、ユノが息をしていていないことに気が付いた。


「ヒョン?……ヒョ~ン」


顔の前でひらひらと手を振りながら声をかけてみると、ユノの瞳がまた揺れた。

そして僕に焦点が合ったとたん、サッと目が逸らされ
同時に両手が上がり、頬と唇を押さえる。

その手の下で、ユノの顔がかぁっと赤くなった。




     えっ?




僕はそれを、信じられない思いで見つめていた。




まさか…いや、そんなね。
ユノに限って、そんなことあるわけがない。

あるわけないよね?
だって、あのユノだもん。
ムカツクくらい女性の扱いに手慣れてるんだから。

いや…でも、目の前にいるのは20代のユノじゃない。
片手じゃ数えきれないくらい昔のユノ。




それならもしかして……
もしかする?



「…まさか、初めてですか?」



そう訊ねると、顔を押さえたままのユノと目が合った。








続く..

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tare.gif 【タレソカ学園高校/11.】






「んなわけないだろ」


即答された。
……ですよね。
軽く期待してしまった自分が恨めしい。

でも、こんなユノだって、それこそネコがワンと鳴くくらい貴重だ。

いつだって、照れてしまうのは僕の方。
それを見て、微笑むのはいつもユノ。
今日は逆。


「顔、赤いですよ?」
「うるせー。こっち見んな」


あっち向けとばかりに僕の顔をぎゅーっと押してくる。
当然、この僕がこんな貴重なユノを見逃すなんてもったいないことをするはずもなく、
首の筋肉を総動員して抵抗した。


「照れてます?」
「普通だ。てか、お前が平然としすぎなんだって」
「平然として見えますか? 内心ではめちゃくちゃ動揺してますよ。
 ヒョンにキスされちゃった~って」
「したのはお前だろっ」
「あぁ、そうでした。動揺しすぎて間違えちゃいました」
「いやいや、わざとらしすぎるだろ。くわせものめ…」
「くわせものって、どこの時代の人ですか」
「お前が現代っ子すぎんだ」
「ヒョンだって一応現代っ子ですよ?」
「一応ってなんだよ」
「ヒョンよりピチピチで現代っ子な僕が、気を遣うのは当然ですね」
「……あー、そうですか…」


じとっと睨まれる。
でもピンクに染まった目元のせいで、可愛さしかアピールできていない。
しばらく視線が刺さっていたけれど、僕が動じないせいかユノはため息交じりに呟いた。


「ったく…お前ほどギャップの激しい奴はいねぇな。学園天使の異名は返上しとけ」


でた。学園天使。
やっぱり僕のことだったらしい。天使はユノのほうだと思うけれど。
でもこのあたりを詳しく掘り下げるとダメージを受けてしまいそうなので、ここは流しておこう。


「喜んで返上ますよ」

僕がそう言うと、ユノはそうしろとばかりに大きく頷き

「今後はタッ・ラッ・シッとでも名乗っとけ」

スタッカートを利かせて強調するもんだから、笑ってしまった。


「残念ながら、タラシっぷりはヒョンの足元にも及びません」
「俺は誰これ構わずこんなことしない」
「へぇ~。僕が誰これ構わずしているとでも?」
「……それは…」

うっ、と言葉に詰まるユノ。

「まだ、にぶちんを発揮するつもりですか?」
「…いや……」

たたみかけると、ユノはたじろいだ。

「僕の好きな人、誰だかもうわかってますよね?」
「………。」
「ヒョンが誰よりよく知ってるでしょ?」

ずいっと顔を近づけると、

      ~ッし、しらねぇよ」




そう言ってユノは、片頬を膨らませてぷいっとそっぽを向いてしまう。
今度は耳まで、赤く染まっていた。






…………なんですか、それは。
無駄に可愛いんですけど。


「僕へのテロか何かですか」


少女マンガに出てくる愛されヒロインとか、セクシーダイナマイトな女性とか、
男性に絶大な人気を誇るアイドルとか、そんなの目じゃないと思う。
したたかさのない可愛さとでもいうべきか。

現実のユノが、こんな技を会得していなくて、本当によかったと思う…。





「ッ!…おい、ちょっと……!?」

耳元からユノの非難めいた焦りの声が聞こえた。
両手が行き先を探すように僕の背後を彷徨う。


「何ですか?」

「急に何だよ…」

「……抱き締めてもいいですか?」

「いや、それ聞くの遅いだろ」

「そうですね。すみません」

「謝んなら放せ」

「それは難しいんじゃないですかね?」

「他人事みたいに言うんじゃねぇよ」

「だって、ヒョンが僕にこうさせるんですから」


首筋に顔を擦りつけるようにしてぎゅうっと力を込めた。
ユノの匂いがする。
これをフェロモンと呼ぶのなら、ハーメルンの笛吹き男が吹く笛よりも強力かもしれない。


そんなことを考えていたら、緊張していたユノの肩から、フッと力が抜けて
背後を彷徨っていた手が、僕の背中に落ち着いた。
そして、


「………甘えてんの?」


さっきまでの焦り具合はどこへやら。
ちょっと笑いを含んだ声が、余裕綽々にそんなことを僕に聞く。

「違います」

否定してはみたけれど、抱き締めているというより、堪らず抱きついているという表現の方が、正しい気もする。
これは甘えている部類に入るのだろうか。
ユノが小さく笑った。

「……だからなのかな…」

「?」

「さっきからずっとおかしいと思ってたんだよ」

「おかしい?」

「だってそうだろ。なんで俺はお前に…大人しくこんなことさせてんのか……」



たしかにそうだ。
よくよく考えてみれば、今の状況は僕だけの意思では起こり得ない。
いくら逃げ道を塞いでいるとはいえ、実力行使に出れば抜け出せないわけはないし、
ユノに触れた手だって、嫌なら払えばいい。不快なら突っぱねればいい。
キスだって、回避することはいくらでもできたはずだ。

なにより、清廉潔白を絵に描いたような人なのだから
それを汚すようなことは、何があっても許さないだろう。



でもユノは、ここにいる。
腕の中にいてくれる。

僕は顔を上げた。




      その答えをヒョンは知ってるんですか……?」

期待に声が震えてしまう。
悪いものであるわけがない。

ユノは曖昧に頷いた。



「ちゃんとお前と話したのは…今日が初めてだろ?」

「…そうですね」

「始業式の挨拶見て、意外としっかりした奴だと思ってたのに、
 じつは…ずけずけモノを言うし不遜だし…でも自分より俺のことばっか心配してて。
 …だからいい奴かと思ったらあんなことするし、俺をからかって遊んでんのかと思えば言葉の端々は真摯だし。
 お前とはそんなに親しい間柄でもないのに、なぜだか不快には感じなくて…」

「つまり?」

早くその答えが知りたくて先を急かすと、ユノは三日月みたいに目を細めた。


「つまりだな…、よくわかんないけど、たぶん俺は…」


続きは、とびっきり甘い声が引き継ぐ。





「お前のことが可愛いんだ」


ユノは自分の言葉にちょっと照れたようにはにかんだ。









………、うわ…。



「チャンミン?」


初めてだ。
そんな風に言われたの。


「おい」


これって、自惚れてもいいってこと?


「?」


……だめだ。
とりあえず、だめだ。






ユノから体を離してくるりと背を向ける。
もちろんユノの不審を買うのは当然で、

「どうした?」

回り込んで僕の顔を覗き込もうとするから
サッと向きを変えて、またユノに背中を向ける。
そしたら、


「……はは~ん。さては照れてんな?」


僕をからかう気満々な声。
ユノがどんな顔をしているかなんて、見なくてもわかる。


「…照れてません」
「じゃぁこっち向けよ」
「あ~風が気持ちいいですねぇ」
「そんな吹いてねぇし」
「さっ、戻りましょうか」
「………ぷっ」


僕が歩き出すと、ユノが笑いを堪えながら僕の後ろをついてきた。
でも、僕に追いつこうとするから、足を速めてそれを阻止する。


今はとてもじゃないけれど見せられない。
溶けかけのチョコレートみたいな顔をしているであろう自分が安易に想像できてしまったから。
そう簡単には元の形に戻せない。


そんなこんなで、お互いが更に歩く速度を上げることになり…




最終的には、

「僕を捕まえてごらん~」
「あはは」
「うふふ」

って恋人同士がお花畑でスキップしながらルンルンする羨ましいアレとは正反対の
夕日に向かって全力疾走する感じになってしまった。







で、
実はユノに謝らなければならない事がある。
先頭きって、結構な距離を走っておいてなんだけれど……



「ハァハァ…、チャンミンっ!どこ向かってんだっ」


そうなんです。
来た道を戻ってるはずなのに……
ごめんなさい、ヒョン。



全力で迷子です。











<1部>完..

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tare.gif 【タレソカ学園高校/12.】





「……あの~、ヒョン」
「ぅん?」


口に入れようとしていたスプーンを直前でピタリと止めて
ユノが僕の方を見る。


口端には赤い汚れ。
さっきまで黄色い卵の上にあったのに、今はユノの口元で堂々とその存在を主張していた。
当の本人は気付いているに違いないのに拭わない。
きっと食べ終わったらまとめて拭けばいいとでも思っているのだろう。

どうしても気になる僕は腰を浮かせて手を伸ばす。
ナプキンでユノの口元を拭うと、照れ隠しなのか「やめろよ」ってちょっと恥ずかしそうに目を伏せて
止めていたスプーンをパクと口に入れた。
僕といえば、そんな貴重なユノを目の前にしているのだからニヤけそうになるけれど
尋常ではない数の視線が刺さっているのにも気づいているから、
顔の筋肉を総動員してポーカーフェイスを貫いていた。


こんな風にたくさんの視線に晒され続けること、じつは5日目だ。
1日目は言わずと知れた始業式。
あとはすべてここ、高級ホテルの結婚式場かと見紛うような煌びやかさを誇る学食にて、である。



初めてこの学食にユノと足を踏み入れたときのこと。
「「「「「……なぜここに!?」」」」」
その場の生徒達が、まるで居るはずのないものでも見たかのような顔を全員一致でしてみせたのだ。
学食に来るくらい普通のことだと思うのに……なんで?
僕の頭の中こそクエスチョンマークでいっぱいだった。
あとでこの光景をキュヒョンに話すと
「ユンホ先輩はめったに学食行かないから、皆ビックリしたんだろ」って。
じゃぁ、ユノがいつもどこでご飯を食べているのかと聞けば、「その辺は知らない」ということだった。


ほかにもある。
食事中に「これちょうだい」からはじまって、「これも」「そっちも」ってユノが僕の皿をつまむから、
「何で僕のばっかり食べるんですか」
「それがうまそうだから」
「じゃぁ、頼めばいいでしょ?」
「う~ん、でもお前の皿にあるのが美味しそうに見えるんだもん」
「だもんじゃないですよ」
「こっちやるから」
「ちょっと、勝手にのせないでください」
「いいじゃん」
「……まぁいいですけど」
「あはは。いいんだ」
って、たわいないやり取りをしていただけなのに、
気がつけば背中といわず四方から異様な視線が無遠慮に僕らを囲んでいた。
あとでこの光景をキュヒョンに話すと
「人の皿から取るなんて親しくないとしないだろ。いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」って
ちょっと驚いていた。


そして昨日は、ユノが僕の向かいではなく、わざわざイスを寄せて隣に座ったことで、明らかなざわめきが。
びっくりする僕にも、周囲の動揺にも気付いているのかいないのか
完全スルーの方向でいただきますをするユノ。
「ん!美味い!!チャンミンも食べる?」
って無邪気に笑いかけるもんだから、「カップルシートかっ!」っていう周囲の声なきツッコミと
「羨ましいな、をい!」ってゆう嫉妬の声が聞こえたような気がした。
あとでこの光景をキュヒョンに話すと「ユンホ先輩は絶対何も考えずにやってるから」って
まるで慰めるようにそっと肩に手を置かれた。





ってな感じで今日に至るわけなのだが、

「いえ、そうじゃないんです」
「なにが?」

声をかけたのは、ケチャップがついてますよ、って言うためではない。

「毎日毎日、こんなに生徒の視線に晒されてるんですか?」
「俺が?」
「そうです」
「ははっ。なんだよ、気付いてなかったの?」
「何にですか」
「お前だろ」
「…はぃ?」
「見られてんのは」
「えっ!」

もぐもぐしながらユノは手に持っていたスプーンでひょいひょいと僕を指した。

「3年用の学食に1年がいるって珍しいし。しかも4日連続で」
「ええっ!?」

慌てて周囲をぐるりと見回す。
学年で色分けされたブレザーの縁取りの色は…赤、赤、赤。赤ばかりだった。



にんまりと笑う友人の顔が脳裏に浮かぶ。
…………キュヒョンめ。知ってたのに黙ってたな。
なにが「ユンホ先輩はめったに学食には行かないからな」だ。
注目を浴びまくっているのはユノのせいじゃなくて、1年の僕が3年の学食にいるからなんじゃないか。



「そーゆうの気にならないんだと思ってた」
「そんなわけないじゃないですか。可能な限り気配を消したいです」
「3年の教室にあんな堂々と4日連続俺を尋ねてきたくせに?」
「……あれも僕の所為だったんですか…」
「ざわつきっぷり、ハンパじゃなかったな~」

ユノはその時の光景を思い出しているらしく、くくくと笑った。


これもまた、キュヒョンに始まる。

携帯電話すらないこの世界で、どうしたらユノと連絡が取れるのかなと相談したら
「そんなの簡単。教室に行けばいいじゃないか」と、これまた当たり前の体で言うもんだから…

ユノと昼食を一緒にすべく、早速3年の校舎を教えてもらい、なんとか辿り着いたAクラス。
美しい彫刻が施されている扉をギィと押し開くと、広い吹きぬけのホールが目の前に広がった。

扉の一番近くにいた生徒が「えっ?」という怪訝な顔をして僕を見るもんだから、
「こんにちは」と爽やかを心がけて会釈をすると、
その声で僕の存在に気付いた生徒がこれまた「えっ?」という顔をし……
まるで伝染するかのように広がって、最終的にユノと目が合った。

ユノまで目をパチクリとあけて僕を見ると、次に周りの様子を見て、また僕に視線を戻し
笑いを堪えるように口元を歪めて「おう、チャンミン。」そう言った。

その時のざわつきようといえば……ちょっと後ずさりたくなる感じだったけれど
ユノの親しげな声に皆が驚いたのだと思っていた。

でも本当のところは、1年生が3年生の教室を訪れることは滅多にないことであり、
しかもみんなの憧れ、生徒会長様に会いに来たという僕の行動が原因だったのだ。
それに気付かず、昼休みになると速攻でユノを迎えに行っていた僕……



…………キュヒョンめ。これも気付いてて、行かせたな。
僕で遊んでいるとしか思えない。
もうユノ関連の情報は信用しないぞ、そう固く心に誓ったのだった。










続く..

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tare.gif 【タレソカ学園高校/13.】






「はぁ、満腹」

ユノはごちそうさまと両手を胸の前でペタリと合わせた。
僕も目の前の料理を皿の上から胃の中へ綺麗におさめる。

「そういえば、ヒョン。明日こそ休みなんですよね?」
「ん。」

コップを口に運びながら小さく頷いた。

タレソカ学園では5日間授業、2日間休みという周期で動いているらしい。
僕が夢の中で生活を始めてから今日で5日目。
よって、明日から2連休なのだそうだ。
普段のユノといえば、放課後は各部への顔出しやら生徒会の仕事やらで何かと多忙。
そのせいで僕がGETできたのは突撃で誘いに行ったお昼の時間だけ。
総代といってもイベントがなくちゃ出番はないし、この世界にも生徒会についても詳しくないから
ユノの手伝いさえできなくて……

つまるところ、僕はこの休みを待っていたのだ!


「じゃぁ、……なにしましょうか!」
「っぷ!ちょ、吹くかと思った」


こぼしそうになったコップを慌ててテーブルにおいて、手の甲で唇を拭う。
僕はそんなに可笑しなことを言っただろうか。


「何しましょうかって…なんだよ」
「ヒョンは2日間めいっぱいひたすらずーっと僕と遊ぶんですよ」
「はぁ?」
「なにしますか」
「俺、やることあるから」

はぁ?はこっちのセリフだ。
やることってなんだよ。

「さっき休みだって言ったじゃないですか」
「授業がな」

ユノは、すまん、とばかりにひょいと肩をすくめた。
……軽い!!
僕は…僕は高校生ライフを2人で満喫できると思って、楽しみにしていたのに!

「あー、そうですか。そうですよねっ。
 ユノヒョンには大切な用事がたくさんありますもんねっ」

ユノの都合も考えず我侭言ってるだけ?
……いや、それはそうなんだけど。夢の中でくらいいいじゃないか。
僕の夢は僕に意地悪なのか優しいのか、ホンっトわからない。
今は確実に意地悪だ。


「…………チャンミン?」
「…………」
「…………怒ってんの?」


待ちに待っていた僕の楽しみをひと言でポーィと遠くに蹴り飛ばしたくせに、
こんな時だけ空気を読んで心配そうにこっちを見ないでほしい。
何でも、“いいですよ、いいですよ”って許したくなるその顔、めちゃくちゃムカツク。


「全然怒ってませんよ。僕がもらえるのは1日1時間、お昼だけ。休みは0時間だったら5日で5時間。
 現実世界の1日分の半分…いいすぎだな。4分の1より側にいられる時間が少ないってどうゆうこと!?
 いえ、いいんです、いいんです。こっちの話です。ほんと全然っ、そんなの不満じゃないですよ。
 でも、突然始まった高校生生活だから普段できないことがヒョンとできるのかなとか、期待しちゃったりして。
 たとえばゆっくり散歩したりとか、カフェでお茶したりとか、映画見たりとか、ショッピングしたりとか、
 部屋に遊びに行ったりとか、くだらない話をしたり無駄にだらだら過ごしてみたりとか……
 もうそんなこと、全っ然っ、凹んだりとか寂しいとか、ハァ、微塵もこれっぽっちもありませんからっ…ハァハァ」


息継ぎを忘れていたらしく、途中で息が切れる。
そんな僕をユノは一転集中とばかりにじっと見ていた。
びっくりしてるとか、困っているとか、意図を探るようにとか、そういうのじゃなくて。
表現するとすれば、目がランラン?……とりあえず、何を考えているのか読めない感じ。
だから、



「………なんですか」
呼吸を整えながらそう聞くと、

「チャンミンて……」
ユノはテーブルに両肘をついて、チューリップ型にした両手の上に小さい顔をちょこんとのせた。

またしても「そんなキャラだと思ってなかった」とでも言いたいのだろうか。
でもユノが口にしたのは



「ほっぺがぷっくりしてて、可愛いなー」
僕の頬への感想で、

「それに、磨いたばっかりの真珠みたいにツヤピカしてる」
さわっていい?って興味深そうに目をぱちぱちさせて言ったのだ。


「!…だめです」


5日目にして、しかも今言うこと?!
僕がしゃべってる間それを考えてたのか!?
バラエティだったら演者が一斉にズッコケている。
唖然とする僕を気にする風もない。
マイペースっぷりは現実のユノより……絶対上だ。

なんだか不満を口にするのもバカらしくなって、ため息をつく。
すると、


「じゃぁ、明日は俺の予定にお前が付き合う?」


話が戻ってきた!
でも、じゃぁ、の使いどころが間違っている!!

そういえば、ユノには話があっちこっち飛ぶ…そんな癖があった。
仕事ではあんなにしっかりしてるのに、なんでだろうってよく思ったものだ。


「……言いたいことをその場で言うの、やめてもらえませんか」
「付き合わねぇの?」
「…………。」


僕の発言は、あれ?心の声だっけ?って疑ってしまうほどの完璧さでスルーしつつ
チューリップはそのままに、2択を提示して首を傾げるユノ。
その答えについては分かりきっている。


「そりゃー付き合いますけど」
「よし。じゃぁ明後日はお前に付き合ってやるよ」


今度はじゃぁの使い方、合ってる。
じゃなくて、


「今、何て? もう一回言ってください」


僕に付き合ってくれるって?
身を乗り出しながら聞き返すとユノは可笑しそうに笑った。


「だから、明後日はお前のやりたいことに付き合うって言ったの。何したいんだっけ?」
「………なんでも付き合ってくれるんですか…?」
「ああ。何でも」
「ふぅん、そうですか♪」


僕の顔を見て、ユノはちょっと複雑そうな顔をした。


「こないだみたいなことには付き合わねぇよ?」
どうやら、僕が一瞬頭に浮かべた映像に気付いたらしい。

「こないだみたいなことって、何ですか」
しれっと聞き返してやる。
こんなに人がいる場所では口にできないだろうし、いなかったとしても、高校生のユノには言えないだろう。
案の定、困ったように苦笑いを浮かべた。だから、


「そうですねぇ。なんでも発言、撤回してあげてもいいですよ?」
そう言ったら、

「お!チャンミン~」
ユノの顔がぱっと明るくなった。でも、

「……まぁ、男だったら一度言った事は撤回しないものですけど」
って言ったら速攻で曇った。


すんなり引き下がってあげるほど、大人な僕は優しくないんですよ?


「わかった。……何でも付き合ってやるよ」
「さっすがヒョン! ありがとうございます」
「……嬉しそうだな」
「もちろんですよ。“何でも”付き合ってくれるんですもんね~?」
「…う。で、できうる限りは……」


そう。優しくはないけれど、


「…冗談です」
「?」
「ユノヒョンと普通のことがしたいだけです」
「普通のことって、散歩とかお茶とか映画とかショッピングとか?」

僕のマシンガン不満、ちゃんと聞いていたらしい。

「そうです。でも、まだまだありますよ?」

両手を広げて指折り数えはじめると、ユノはきょとんとしてから、イスの背もたれに仰け反って盛大に笑った。





やっぱり屈託なく笑っている、幸せそうなユノが好きだから。

“何でも”を押し通せない僕なのであった。










続く..

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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。