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ユノのいう愛は、身内への親愛。
僕の愛は、恋い慕うもの。


「……僕とユノヒョンの愛は、違います」


こんなことを僕に言わせるユノはひどい奴だとなじりたいのに、
おさまりかけていた涙が溢れてきて、またユノのシャツを濡らした。












     【僕らの、/10-3.】












「なぁ、チャンミン…」

ユノは、今の僕とは正反対の、ゆっくりとした穏やかな口調で

「…何でお前にキスしたのか、何で昨日お前の好きにさせたのか
 考えたことある?」

一言一句しっかり聞かせるかように、問いかけた。

「そんなのっ……」

たくさん考えましたって言おうとしたけれど、言葉に詰まってしまう。



    僕は、思い出していた。

ユノのことが好きだと自覚した日のこと。
ユノに初めてキスされた日のこと。
そして今朝のこと。


“俺のことが好き?”そう聞いたユノに僕は“好きじゃない”と答えた。
ユノはそれを正解と言い、キスしたことを不正解だと言った。
向けられた背中に手を伸ばすことも声をかけることもできず、
僕は喪失感だけを抱えて、自分のこと、そしてユノのとった行動の意味を考えていた。

今朝だってそう。
「忘れろ」と言われた理由は分かっていたけれど、
そう言ったときのユノの気持ちを、考えることなんてなかった。


…きっと僕を突き放すようなことをするのは、胸が痛んだに違いないのに。
僕が傷ついたのと同じように…いや…それ以上に傷ついていたのかもしれない。
それなのに僕は今、ユノを非難して罪悪感を抱かせるような行動をとっている。


なんて自分勝手なのだろう。


自分の気持ちばかりに振り回されて、ユノを見ていなかった事実をつきつけられて…
なにやってんだ!って罵ってやりたい気持ちだった。


ユノにしかみついていた腕をゆっくり解いて、顔を上げる。
泣き腫らしたひどい顔をしている自覚はあったけれど、そんなことはもうどうでもよかった。


「…ごめんなさい」


ひく、と喉が鳴ったけれど、なんとかそれだけを口にする。

「違うって、チャンミン」

ユノはちょっと慌てた様子で

「…お前に考えさせるのはよくなかったな」

独り言のように呟いた。

何が違うのだろう。
続きがあると思って待っていたけれど、ユノはそれ以上何も言わず、
まるで僕に許しを請うかのように、コツンと額を合わせた。


ユノが目を閉じたから、僕も目を閉じた。













どのくらい時間がたっただろうか。

「…チャンミン」

ぽんぽんと背中をたたかれ、名前を呼ばれる。
僕はユノの肩に顔をうずめて、相変わらずユノのシャツをぎゅうっと握っていた。
いつの間にか涙は止まっていて、さっきの自分が嘘のように気持ちも落ち着いている。

「チャンミン」

もう一度呼ばれる。
僕に顔を見せるよう促しているのだろう。
平常心に戻っているのはバレているだろうから、しぶしぶ顔を上げる。
でも、握ったままのシャツは何故だか離せなくて、
それに気付いたユノにちょっと笑われてしまった。

僕じゃない。手が離さないのだから仕方がない。などと心の中でよくある言い訳をする。


「…話してもいい?」

僕の顔を覗き込んだユノに、そう聞かれた。
何を言われるにしても、さっきほどの不安も恐怖もなかった。
ユノの表情が、すごくあったかくて安心してしまったからかもしれない。

だから頷く。

ユノはそれを確認すると、ソファーに僕を促した。

やっぱり窓に一番近い端っこに腰を下ろすから、シャツを掴んだままの僕もそれに倣う。
ユノは片足をソファーに上げて、僕の方に体全体を向けると

「ごめんな」

開口一番に謝罪を口にした。
何の謝罪だろう。

「ヒョンは何も悪くありませんよ?」

自分の気持ちを優先して行動したのは僕だから、ユノに非があろうはずもない。
僕の困惑が伝わったのか、じつはさ、とユノがちょっと気まずそうな顔をして、目線を右下に反らせた。


「…お前、みんなが大好きだったろ? なのに急に…側にいてやれる奴が俺だけになって…
 そのせいで俺のことが好きだって思い込…」
「それは違います」


僕の強い否定にユノはちょっと驚いたように目をぱちくりさせる。

たしかに好きになる要因のひとつではあったかもしれないけれど
寂しさから生まれた依存のせいで、ユノのことが好きだと思い込んでいるだなんて…断言できる。あり得ない。

なのにユノはそう思っているということ?

僕の気持ちが偽物だと思っていたから、甘やかしては突き放すような言動をして
それを悟らせようとしていたとでもいうのだろうか。

もしそうであれば、思い違いも甚だしい。
僕の葛藤はぜんぶぜんぶ、ユノの勘違いのせいのように思えて、だんだんムカついてくる。


ユノのシャツなんか伸びてしまえばいいと思って、おもいっきり引っ張ってやった。


「やっぱり、謝罪はもらっておきます。
 正しくは“思い込み”じゃなくて“気付いた”ですからっ!
 そのとぼけた頭にしっかり覚えさせておいてください」


何で好きになったかなんて、心当たりがありすぎてわからない。
でも側にいるのが当たり前になっていたから気付かなかっただけで、
ふたりっきりになったからこそ、自覚することができたということだけは分かっている。

「だから、悪かったって。伸びる~っ」

僕がこんなに怒っているのに、
ユノは声を立てて笑いながらシャツを自分の方に引っ張った。


「…まぁ、お前に手を出しては、気持ちがホンモノになればいいなっていうのと…
 それはそれで、手段としては間違ってるって分かってたから、曖昧にしてたんだけど」


急に真面目な顔をしておかしなことを言うから、シャツを引っ張るのをやめてまじまじと眺める。

偽物の好きが本物になればいいと思ってた?

考え始めた隙に、ユノは僕の手からシャツを抜き取って
「伸びちゃったかな。大丈夫かな。まぁいっか」などと呟きながら皺を伸ばす。
それから膝の上に頬杖をついて、僕の顔の前でピンと人差し指を立てた。


「お詫び…じゃないけど、チャンミンにいいこと教えてやるよ」


片方の口角を上げたカッコイイけどちょと悪い顔で、僕を斜めに見上げる。
無駄に見とれてしまって、“いいこと”の方に思考が持っていかれた。

しかも、なんだろう…急に僕らの周りの空気が甘ったるくなったような気がする。

…でもそれはすぐに勘違いだと分かった。
ユノが口にしたのは、感情に流されない、理性的で厳しい言葉だったから。


「俺は誰とも付き合うつもりはない」


“曖昧”がなくなると、こんなにもはっきりしてしまうのだろうか…

僕の気持ちに相当する関係には発展しない。
それを改めて認識させて…一体、これのどこが「いいこと」なんだ。

僕とユノは手を伸ばせばいつだって触れられる距離にいるのに、
僕とお月さまくらい、見た目からは想像できないほどに気持ちは遠く離れている。




…と思ったのに、

「だから、俺はお前のもんだろ?」

ユノはそう言った。
大切な秘密を打ち明ける子供みたいな顔をして。




「………へ?」



ボクノモノ?

なんですか、それ。おいしいの?
初めて聞く言葉のように、理解できなかった。

そんな状態の僕を放置して、ユノといえば

「もう難しく考えんのはやめようぜ。在りのままの俺らでいいんじゃない?」

それはもう、すべてをふっ切ったような軽さで、「だろ?」と僕に同意を求めた。




いや、いや、ちょっと待ってほしい。
僕は片手を前に出して、もうそれ以上何も言ってくれるなと、ユノにストップをかける。

“付き合わない→からの→ボクノモノ”

一体、全体、どうして、そんな厳しい前提から、甘い結論が出てくるのだろうか。
本当にもう…いわゆる「詳細は割愛しますが」を今、実践しないでほしい。


「…あの~、ヒョン…」
「ん?」
「え~と…」

どこから何を聞けばいいのだろう。
無邪気と言えば聞こえはいいけれど、ユノは僕の困惑など1ミリも理解していないように見える。
できれば取材を受けるときのように、順序立ててわかりやくす話してほしい。


「…恋人を作らないってことはわかりましたけど、
 なんでそれが“ボクノモノ”ってことになるんですか?」


眉をしかめてそう聞いてみると、ユノはやっと僕が飲み込めていないことに気づいたらしく、微苦笑を洩らす。
でもすぐに姿勢を正すと、どこまでも優しい笑顔を浮かべて、僕をまっすぐ見た。




「お前はずっと俺の人生にいるんだから…お前の独占だろ?」












窓から入ってくる暖かい光がユノの輪郭をキラキラさせている。
それより、もっともっと眩しい笑顔は、とっても甘い。



「チャンミン、嬉しい?」

分かっているくせに、そんなことを聞く。


でも、そんなことを聞くユノだって、“僕のもの”だというのだから
嬉しいに決まっている。


「…嬉しくなさそうに見えますか」

「ん~あと2時間はサングラスが必要な嬉しさに見える」


ユノの手が僕に伸びてきて、頬を伝う涙を拭った。
今日一日で、僕はとんだ泣き虫になったようだ。










* * *









気づけば、マネージャーが迎えにくる時間になっていて
僕らは朝ごはんを食べる余裕もなく、とりあえず出かける準備に追われていた。

いつもと何ら変わらない、バタバタの朝。

「ヒョン、準備できましたか?」
「見つかんない!」

寝室にいるユノに声をかけるとそんな返事が返ってきた。
たぶん携帯を探している。

「鳴らしましょうか?」
「頼む!」

ポケットから携帯を取り出してユノの番号をプッシュすると、微かな音が聞こえてきた。

それを確認してから、とりあえず車内で食べられそうなものを探しにキッチンへ向かう。
そこで僕は、コーヒーパックの入ったカゴの中にさりげなく置いてあるものを見つけた。


昨日の朝、ユノが出かける間際にこっそりカバンに入れていたお菓子。
ヤンパリンだ。

昨日の夜にはなかったはずなのに…頭の隅にひっかかりを感じる。



証拠隠滅のために、ユノがこっそり置いたのは間違いない。


じゃぁ、いつ置いたのか。
…多分あの後だ。

僕が眠るのを待ってベッドを抜け出したユノは、
新しく買ってきたヤンパリンをここに戻した。

ユノがやけに眠そうだった理由も、僕が抱き枕にされていたことも、これで説明がつく。

でも、僕を抱き枕にする必要はあっただろうか。
普通に枕でもよかっただろうし、僕の部屋のベッドを使ったっていい。
選択肢はいろいろあったはずなのに。


その行動が意味すること   

「…じゃなくて」

アブナイ、アブナイ。また間違えるところだった。


僕が考えなきゃだめなのは、ユノの気持ち。
目の前のヤンパリンをぼんやり見ながら、思考をめぐらせてみた。

答えはすぐに浮かんだ。
無意識のうちに口元を押さえる。



『お前のこと愛してるよ』



急に、ユノの言葉が蘇ってきて、胸の奥がすごく熱くなった。







「…チャンミン?」

いつの間にかコートを着てリュックも背負った準備万端のユノが
鳴りっぱなしの携帯を手に僕の前に立っていた。

「あ、すいません」

緩んでいる口元をマフラーで、赤い目をサングラスで隠してから、携帯を切る。
音が鳴り止んだ。

「見つかってよかったですね。
 もうマネージャーが下に来てるみたいなんで行きましょうか」

ユノの背中に手をそえて促す。
でも、ユノは僕をじっと見て動かず、明らかに不満そうな顔をした。

首を傾げる。

「…どうかしましたか?」
「お前さー、出かける前から完全防備すぎるだろ」
「そうですか?」

厚着しすぎだと言っているのだろうか。
首を傾げたままの僕にあきらめたのか、ユノはしょうがないなとばかりにわざとらしく溜息をつくと


「マ・フ・ラー。邪魔だろ」


尖らせた自分の唇をツンツンと人差し指でつついてみせた。
その仕草でユノのいわんとしていることを悟る。

「………なんですか、そのぶりっこは」

呆れたように言ってみるけれど、完全なる照れ隠し。
表情は見えていないはずなのに、ユノは分かっているのだろう。ニヤリとした。


そのとき、急に。
ほんとに急に、僕らがバカップルのように思えて、それが言葉では表現しきれないくらい幸せで
気持ちが溢れてきて、どうしようもなくて、そんな自分が可笑しくて、思わず吹き出してしまう。

ユノはちょっとびっくりしていたようだったけれど、そんな僕が可笑しかったのか、釣られたように笑った。






いつもの日常に、幸せな出来事がひとつ加わる。
でもそれはすぐに、いつもの日常に変わってしまうのだろう。


だから、いつもがいつも通りであることも、幸せだっていうことを忘れないでおこう。






僕らは家を出る前に、…キスをした。










完..


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tare.gif 【タレソカ学園高校/01.】






遠くから聞こえてくる声。


「……ナ、……って」


ユノヒョン?


「…かげん、…きろって!」


どんどん大きくなってくる。




「起きろっ!」




急かされるように、重たい瞼を上げたとたん、
視界いっぱいに映ったのは、よく見知った人物だった。

「……キュ、ヒョナ?」
「お、やっと起きたな!」

僕の胸の上に頬杖をついて顔を覗きこんでいた。

「……近い、重い、どけ…」
「うわ、起こしてやってんのに、ヒドっ!」

ムンクの顔真似をしながら、よろよろと僕の上から退く。
その仕草に思わず笑ってしまった。


「…で、お前…朝からどうしたの」

だるい体を起こしながら尋ねる。

「どうしたはお前だっ!…昨日はエロい寝言ばっか言いやがって…」

エロい寝言?
キュヒョンが赤い顔で両手を腰に当て頬を膨らませていた。
ご立腹のようだ。

「聞いてるこっちが恥ずかしくて、昨日の夜は眠れなかったっての。だいたい、」



……よく分からないことを言い始めたキュヒョンの声はシャットアウトして、右と左を確認する。
いるはずの人物がいなかったから。
シーツを触ってみる。
温もりすら残っていない。

昨日、ユノと抱き合って眠ったはずなのに……どこいったの?

キュヒョンに聞いてみようと思ったけれどまだ何か言っているから、とりあえず黙れと手で制した。
それから尋ねる。


「ユノヒョンは?」


所在を聞いただけなのに、キュヒョンは目をぐるりと回して、さらにため息までついて
呆れたをアピールしてくる。


「…ユノヒョンて…お前、まだ夢見てんの?」
「出かけたの?」
「……チャンミナ~…ユンホ先輩がここにいるわけないだろ?」
「いるわけないって、ここ俺らの家なんだけど…」
「いやいや…ここは俺らの部屋だ。俺とお前だけ。OK?」


そう言って、キュヒョンは僕の胸にハンガーごと洋服を押しつけた。


「もー、何でもいいからとりあえず着替えろ」
「これに?」
「そうそう。あと30分で始業式だから」
「…しぎょうしき?」


しぎょうしきって…
新学期の最初に全校生徒が集まって、校長先生渾身のスピーチを右から左に聞き流す、アレだろうか。
アレだとして、なんで今から始業式という話になるのだろう。


こめかみを中指で押さえる。
…だめだ。さっきかからキュヒョンの言っていることが理解できない。
会話も噛み合わない。

すべては僕の頭が起きていないせいかもしれない。


そう思ってキュヒョンに説明を求めようと目を向けるけれど……そこで僕は初めて、
ここが自分の家ではないことに気づいた。


キュヒョンの背景は、違う種類の緑色が交互に並んだストライプの壁紙だし、
その壁には明るさよりもデザインを重視したとしか思えない蝋燭を象った照明がついていた。
さらに壁に沿って、収納としては役不足であろうゴシック調の家具たちが絶妙な間隔で並んでいる。
まるで、洋館の一室だ。

僕が寝ている間にユノがこっそりこんな乙女チックな模様替えをしたとは思えないし…


…一体ここはどこなんだ。


「チャンミナ~、急げって!ほらほら」

落ち着いて考えようとしているのに、キュヒョンが僕のパジャマを脱がせるから
しぶしぶ押し付けられた服に着替える。

僕が着せられたのは、キュヒョンとお揃いの服だった。

紺色のブレザーに紺色のズボン。まるで制服。
学生服を象徴するようなエンブレムが胸元でキラリと光る。


そこにはオシャレな文字でこう書かれていた。



“タレソカ学園高校”





……新番組の衣装か何かだろうか。










続く

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tare.gif 【タレソカ学園高校/02.】







寮を出てかれこれ5分。
僕らは大勢の生徒に混じって歩いている。


その間キュヒョンを質問攻めにし続けたかいもあり、若干ではあるけれど、現状を把握しつつあった。


どうやらここは僕の夢の中で、「タレソカ学園高校」っていう学校の生徒らしい。
僕らが着ているのは衣装じゃなくて、紛れもない制服だったのだ。
二人ともルックス的に高校生だなんて無理がある気がしてならないけれど
周りの生徒誰一人として気にしている様子はない。
案外、許容範囲なのだろうか。

それとも夢マジックか。

ちなみに、ドッキリカメラの可能性も疑っていたけれど、タレソカ学園高校の校舎を見た瞬間、その考えはすぐに消えた。
番組の予算でどうにかなる規模じゃない。


白を基調に作られた建物は美しいだけでなく、まるでバロック様式の宮殿のような豪華さで
きめ細かく美しいレリーフに豪華な装飾、建築・庭園の美しさが、これでもかと強調されているし
柱ひとつとっても、細部までこだわりの感じられる彫刻が刻まれていた。
加えて、ここまで歩いてきた敷地に、アスファルトは一切ない。
石畳やモザイクタイル、手入れの行き届いた芝生のみ。
もちろんゴミ1つ、枯葉1枚すら落ちてはいなかった。

一体どれだけのスポンサーがつけば、こんな場所を借り切って番組を作れるというのだろう…
というわけで、夢の中という結論に落ち着いたのだ。



キュヒョンから得た情報はまだある。


大富豪しかいないと推測される豪華絢爛な学校に僕らは中等部から通っていて、ずっと寮生活をしているそうだ。
その時からキュヒョンとはルームメイトで、高等部寮でも同室の希望が叶ったらしい。


寮は敷地の最北端に位置していて、校舎まで徒歩10分くらい。
敷地内だけで10分も歩くなんて、この学校がいかに広いか、簡単に想像できる。

正門は寮とは正反対の南側にあって、正門から校舎までの道は、まるで商店街のようなにぎわいだそうだ。
寮生活に必要な生活雑貨からカフェ、レストラン、娯楽施設が充実していて、
授業時間以外は出入りが自由。しかもタレソカ学園高校の生徒はタダで利用できるとか。
ただし、学内からの外出は基本的に禁止されていて、外出の必要がある場合には申請による審査があるらしい。


キュヒョンから聞いた話はここまでだ。



まるでアニメの設定でよくある“学園都市”みたいで、しばらくはこの夢を楽しみたいとすら思ったけれど
ユノがいないこと、それが不満だった。

だって、そうだろ?
ここにユノがいたら…現実世界ではできないこと。たとえばデートとか堂々とできるのに……

僕の夢なんだから、もっと僕に都合の良いように展開したっていいのもを。



…っと、そこまで考えて、「おや、待てよ」と閃きを感じる。

ここは僕の夢の中。僕が創り出した世界。地球だって、ここでは僕を中心に回っているはずだ。
つまり、僕が願えば、何だって叶うに違いない。


早速、神様にお祈りするように両手を合わせて目も閉じて、強く強く念じる。


「ユノヒョンが出てくる…ユノヒョンが出てくる…ユノヒョンが出てくるっ!」


…よし。
そーっと右目だけを開けてみると、そこには

眉をハの字にしたキュヒョンがいた…。






「…チャンミナ……大丈夫?」

心配と困惑の混じった表情で、僕の顔を覗きこんでいる。

「全然大丈夫じゃない」

やっぱりそう上手くはいかないか…
ため息が漏れる。


「…やっぱり、記憶喪失なのか!?」
「はっ、…ぇ?」


生まれて初めてそんなことを聞かれてびっくりする。
しかも、冗談ではなく真剣に。

「おかしいと思ったんだよ…落ち着きがないし、変なことばっか聞いてくるし、
 今だって急に立ち止まったかと思ったら、ぶつぶつ祈りだすし…」

今にも泣き出しそうな顔をして僕の肩をがしっと掴むと、前後に揺さぶる。

「いやいや、大丈夫!そーゆうのじゃないから!!ただ…」
「…ただ、なんだよ」

キュヒョンはピタと動きを止めると、至近距離でじっと僕を見つめる。
その瞳にはやっぱり高校生には見えない僕が映っていた。

「昨日より前のことが思い出せないってゆうか…あ、キュヒョナのことは覚えてるんだけど」
「…どっか頭ぶつけた?とりあえず保健室いく?」

起きたら夢の中で高校生になっていた云々を説明する気にはなれなくてそう言ってみたけれど、
キュヒョンは僕の腕を引っ張って寮の方へ戻ろうとする。

「いや、ホント!ほんっとに全然大丈夫!キュヒョナの話聞いて、思い出してきたから!」

慌てて引き止めると、キュヒョンを引っ張って生徒の波に戻った。


「…でも、」
「ほんとに大丈夫だから」


にっこり笑って頷いてみせる。
しばし、無言の問答。探るように僕を見ていたけれど、

「…ったく、何かあったらすぐ言えよ?」

そう言って、頼もしい顔をしてくれた。
キュヒョンは、ここでも僕の親友だった。









10分以上かかって辿り着いたのは、コロッセオが現代風に進化を遂げたような外観の建物の前。
しかもアーチ型をした分厚いドアは、高さ5mくらいある。

「でかっ!」

思わず立ち止まってそんな感想を漏らすと、キュヒョンが僕を振り返って肩をすくめた。

「今更?…ほら、突っ立ってたら迷惑だろ」

僕らを避けて入っていく生徒達に白い目を向けられていることに気付いて
慌ててキュヒョンに追いつき扉をくぐる。

目の前に広がった光景は、外観からなんとなく想像がついていたけれど、
入学式が行われるいわゆる体育館といった雰囲気ではない。
2,000名は収容できそうな扇形階段の空間で、中心には舞台、そこから円弧を描くように席が配置されていて
オペラ劇場のように煌びやかでクラシカルな内装だった。
さらにアーチ型の天井には天使の絵画…

「見とれるなら、座ってからにしろよ」

天井を見上げたまま、また立ち止まっていた僕の腕をキュヒョンが引っ張った。







席はほぼ埋まっていたので、僕らは最後列に座ることになった。

「全校生徒がここに集まんの?」

キュヒョンの他に、見知った顔がないかを探しながら聞いてみる。
座席から舞台までは階段状になっているから、前から席を見渡すことができたら、簡単に探せそうだ。

「そ。高等部だけだけどな。各学年600人くらいだから、1,800人ってとこだな」
「へぇ、結構多いな…」
「あ、でも高等部から編入してくる奴もいるから、もうちょっと多いかも。
 ちなみに中等部と大学部は別の場所で始業式してる。ここじゃ、入りきらないしな」

僕の記憶を呼び起こす助けになればいいと思っているのか、
さっきまでとは違い、面倒くさい様子は見せずに詳しく教えてくれる。



「あれ?」

見知った顔はまだ見つかっていないけれど、制服の色に違いを見つけた。

「ブレザーの縁、色が違う奴がいるな。種類があるの?」
「ああ。学年で色分けされてるんだよ。2年は赤、3年は黄色だ」

自分の制服を見下ろす。
僕らのカラーは白。

…そこで、重大なことに気付いてしまった。

「なー…ということは、まさか、僕らって…1年?」
「そうだけど」


衝撃。


高校生といっても、3年生くらいだと思っていたのに。
よもや、このルックスで、高校1年生だったとは。

「キュヒョナ~、もしかして15歳なの?」
「…お前もだろ」
「ウける!!」

キュヒョンに「何が可笑しいのか分からない」という奇妙な目つきで見られてしまった。






そのとき、
リンゴンカーン、リンゴンカーン。

電子音ではない奥ゆかしい鐘の音。
ざわめきが収まる。どうやら始業式が始まるらしい。
笑いは無理やり呑み込んで、全員の視線に倣って僕も前を向いた。









続く

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『オリジナルのモーニングメッセージを録音してプレゼントしてはいかがですか?』




そんな誘い文句から始まるWEB画面を見ながら呟く。

「プレゼントする奴の気が知れないな…」

突き抜けたナルシストか、愛されている絶対の自信がある幸せな奴か。
どちらにせよ、もらった方は軽くざわつくに違いない。

でも、ちょっとだけ想像してみる。
ユノがくれたなら…「気持ち悪いですね」とか言ってドン引きして見せながらも、
内心では軽く5メートルは飛び上がって喜ぶ自分の姿が思い浮かぶ。


そんな矛盾したことを考えながら、

僕は “カートに入れる” をクリックした。











【15秒にロックオン】








浴室からユノの歌声が聞こえてくる。
機嫌は上々のようだ。

シャワーの音はしない。
よし。


僕は購入したばかりの時計を大事に抱えて、浴室に続く扉をカチャリと開けた。
ユノの歌声がより鮮明に聞こえるようになる。


ちなみに、勘違いされたらアレなので言っておくけれど、
断じて入浴シーンを覗くために此処にいるわけではない。
一週間前から準備していた計画を遂行するためだ。

って、誰に言い訳しているんだか…





コンコン。
ユノと僕とを隔てている半透明のトビラを叩いた。






「ヒョン~…すみません、ちょっといいですか?」

そう声をかけると歌が止まって

「ん~、どした?」

すぐに返事が返ってきた。
同時にザパッと音がしてユノが浴槽から立ち上がったのがわかる。

「あ、ヒョン!そのまま浸かっててくれて大丈夫ですよ。
 大した用事じゃありませんから!」

慌てて制止する。

「そう?」

…ちゃぷん。

またお湯の中に戻る音がして、ひと安心。
いきなり計画の大前提が崩れるところだった…

ユノから見えない。でも、声は聞こえる。
これが重要。


気を取り直して話を続ける。

「あのですね、新しいパフォーマンスを思いついたんですけど」
「お!どんなの?」

ユノの声が高くなる。
案の定、いい食いつきだ。

「ユノヒョンは男らしい姿が多いから、可愛いのをアピールするのもいいと思うんです」
「可愛いの?…違和感あるだろー」
「いえ、余裕でイケます」

ユノに見えるはずもないのだけれど力いっぱい自分の考えに頷く。

「そう?…じゃぁ、もうすぐ上がるから、それから話聞くよ」
「今聞いて欲しいからここにいるんですよ」

すかさず、そう返す。
たしかにわざわざ風呂場で話すようなことではないけれど、
そう言われるのは想定の範囲内。準備していた理由をちょっと甘えた声で。

「さっき思いついて、早くヒョンに話したかったから…それにお風呂の方が練習しやすいですし」
「…ってことは歌?」
「ちょっと違います。口笛です」
「くちぶえ…?」

そうそう。歯笛でも指笛でも手笛でもなく、口笛。
僕は今、これをユノに吹いてもらおうとしているのだ。

「ほら、こないだスタジオでちょっと練習してたでしょ」
「ん?あぁ…口笛って可愛い?カッコイイじゃなくて?」

ユノは不思議そうだ。






ダンサーさんに口笛の上手い人がいて、練習の合間に熱心に教えてもらっていた。
犬と戯れるときにでも吹けたらカッコイイとか思っていたのだろう。

でも。

唇をいっしょうけんめい尖らせているのに、掠れた音しか出なくて、
そんな自分にウケて爆笑しながら恥ずかしそうに両手で顔を隠す姿に、
その場の全員が思ったはずだ。


『これがギャップ萌えかっ!!』


…って。
僕に至っては、その唇にキスしたくて仕方なかったんだから。

だいたい、“口笛を吹く”ってゆうのは4ステップで成り立っているわけで。

1.口をすぼめる
2.息を吐き出す
3.空気を振動させる
4.笛のような発音を維持する

これのどこに可愛い要素が含まれているというのか。
吹く人によって如何様にも料理できる奥深い行為として、僕は認識を改めることになったのだ。






「ちょっと吹いてみてください」
「えー、下手だし…」
「練習あるのみです!ほらっ」
「ん…」

僕は抱えていた時計をドアのほうに向けて[Rec]ボタンに人差し指をスタンバイ。
準備はOK。

「じゃ、ヒョン、せいので吹いてみてくださいね」
「…わかった」
「せいのっ」


カチ。


「…フュ…ん、ん~…フュ、ヒュ~ヒュヒュ…フ…
 っふひゃははは…ぁー、ん。
 フヒュ…ッ
 ふははは…だめだ…恥ずかしーっ。
 ぁー……チャンミナ?」


プチ。
ユノが無反応な僕を気にして名前を呼んだところで、録音が自動終了した。


ジャスト15秒!



「…おーい?」

おっと。
脳内で映像も再生されていたせいで、すっかりユノを放置してしまった。
慌てて言葉を返す。

「すみません、よかったですよ。聞き惚れちゃいました」
「それは言いすぎじゃない?」
「とんでもないですよ、味があるってやつです」
「味ねぇ。それって褒め言葉じゃなくない?」
「モノはとらえようです」
「…っぷ。それ違うだろ」
「僕が好きだからいいんです。ですよね?」
「はは。ああ、わかった。じゃぁもっと練習しなきゃな」
「いえいえ、その感じがいいんですよ」

そうそう。
上手い口笛が聞きたいわけじゃない。

「下手なのがいいってこと?」
「上手い口笛ならユノヒョンが吹く必要ないでしょ」
「そーゆうこと?」
「そうです。…じゃっ、ありがとうございました」
「?お、おう」

急に話を切り上げた僕を不審に思っているのは分かっていたけれど
そんなことより、録音が確実に成功したのかを確認したくて、じつはさっきからそわそわしていたのだ。






目覚まし時計の耳障りな音をなんとか快適にしようと思い立ち、真っ先に浮かんだのがユノの口笛だったけれど
問題は、どうやって録音するかにあった。

「毎朝ユノヒョンの口笛で目覚めたいんです。だからこれに吹きこんでくださいっ!」

ドウシチャッタノ?って思われそうなことを言えるわけもなく…
かといって、ユノが口笛を吹くときに都合よく時計を持っているなんてことも難しいわけで。

考えに考えた末思いついたのが、今の流れなのだ。
我ながら、ナイスアイディア。そして、グッジョブ。






僕は自分の部屋に戻って、ベッドの上にダイブするようにうつ伏せに寝転がると
両手で握り締めていた時計を見つめる。

目覚まし時計にこんなにもドキドキさせられるなんて、生まれて初めてのことだ。
人差し指で[Rec]ボタンの下にある[Play]を押した。



『…フュ…ん、ん~…フュ、ヒュ~ヒュヒュ…フ…
 っふひゃははは…ぁー、ん。
 フヒュ…ッ
 ふははは…だめだ…恥ずかしーっ。
 ぁー……チャンミナ?』



へたっぴな口笛と楽しそうな笑い声。
なんて耳に心地いいのだろう。
僕の名前を呼ぶトーンだって、…とってもとっても優しい。


どれだけ難しい顔をした人も、あったかい気持ちにほっこりと包まれて
いつの間にか満面の笑みを浮かべてしまうに違いない。



そして、他の人もこうなったらとっても困るのだけれど

……急に、ユノを抱きしめたくなった。


だから僕は、バスタオルを準備して待機していようと思い立つ。

おっと、部屋を出る前に隠しておかなくちゃ。







さて、目覚まし時計の一番重要な仕事はなんだと思う?

もちろん、そう。正確な時間に僕を叩き起こすことだ。


でも、この目覚まし時計が目覚ましの役割を一切果たせないことに気づくのは、
もうちょっと先のこと。

だって、聞いているだけで幸せな気分になるのだから…
エンドレス・スヌーズしちゃうのは、いた仕方なし。



15秒の幸せな誤算。








..end


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tare.gif 【タレソカ学園高校/03.】






舞台の右手から、赤い服の集団が現れた。

直後、始業式が始まる前とは明らかに種類の違うざわめきが講堂を包む。
口々に想いを叫ばないだけで…まぎれもない、密やかな歓喜。

今ばかりは、僕もその一員となっていた。



「……ユノヒョン!?」



顔がはっきり見えるわけではない。
けれど、醸し出すオーラはユノとしか思えなかった。
視線を固定したまま、キュヒョンの腕を揺さぶる。


「キュヒョナ、キュヒョナ、ユノヒョンがいる!」
「ちょっ、わかったから!!静かにしろよ!」


しーっと人差し指を口元に当てて、テンションの上がった僕を窘めた。

そういえば、今朝だってキュヒョンはユノを知っていたじゃないか。
なんで気づかなかったのだろう。
最初からユノはここにいたのだ。


「なんであそこにいんの!?始業式終わったら話せる?」
「わ、わかったから、落ち着け。だいたい、ユンホ先輩をヒョンて……
 今までお前の口からユンホ先輩のユの字も聞いたことなかったのに」


僕の前のめりな勢いに、キュヒョンは若干引き気味になりながら困惑に満ちた声で呟いた。
言い方から察するに、僕とユノはまったく親しくなかったようだ。
ユノに興味がない僕がここに存在していたなんて信じられない。

「いきなりだもんなぁ。昨日の夜から寝言でユノヒョン、ユノヒョンって連呼しだすし
 その…ユンホ先輩と…だかわかんないけどアダルトな夢見てるし、…起きたら起きたで記憶障害だし…」

また、ぽっと頬を赤く染めるキュヒョン。
僕は一体どんな寝言を言っていたのだろう。

ちょっと気になったけれど、それよりも今はユノの情報が欲しかった。

「キュヒョナ!」
「…はいはい。まぁ、たしかにユンホ先輩のこと…ってゆうか、生徒会のことは知っといたほうがいいしな」
「生徒会?なんで?」
「説明するから、まぁ聞けよ」

キュヒョンは耳を寄せろととばかりに指をくいくいと曲げて僕を呼ぶ。
本格的な内緒話の態勢だ。


「まず、赤い制服を着た人たちは、高等部の生徒会執行役員だ。去年の冬に発足したんだったかな」
「じゃぁユノヒョンも生徒会なんだ」
「そうそう。生徒会は3年のみで構成されてて、会長はユンホ先輩。あと副会長、文化部委員長、
 運動部委員長、会計の5人なんだけど…ほら、もう一人いるだろ」


そう言われて前に目を向ける。
中央では高そうなグレーのスーツを着た紳士が話していた。
たぶん、始業式恒例の挨拶中だ。とりあえず音声は右から左へ。
その後方には一番左にユノ、それから赤服が続き、一番右端にキュヒョンの言う「もう一人」らしき人物がいた。
赤服の軍団に混じっていると、恐ろしく目立たない。


「えーっと、…僕らと同じ制服の人?」
「そ。この学園の伝統で、1、2学年の首席は各学年の総代として副会長の下で補佐的な仕事するんだよ。
 言ってみれば、来年の生徒会候補生ってとこだな」
「へぇ~。じゃぁ、ユノヒョンも首席からの生徒会入り?」
「いや、ユンホ先輩は次席。首席は副会長だよ。1年の時も、2年の時も。ほら、ユンホ先輩の隣にいる人」
「ああ、黒髪ロングの…ふぅん」


たしかに、ユノは勉強も全力で頑張るだろうけれど、歴史とか暗記の類は苦手そうだ。


「生徒会は人気投票みたいなもんだからな。
 ユンホ先輩はいわずと知れた人格者で、性格よし、見た目よし、リーダーシップは抜群てやつだから、
 当然、生徒会長に推薦されて就くべくして就いたって感じ。
 特に去年…ああ、ユンホ先輩が2年の年な。生徒会入りが予想されてたから、首席争いが半端なかったらしい。
 らしいとか言ってるけど、俺らの学年でさえ定期試験の平均が全科目9割越えしてたからな」
「それは…たまたま頭のいい奴が多かっただけじゃなくて?」
「お前、ユンホ先輩のことは覚えてても、男女ともに凄まじい人気は記憶にないんだな」
「いや、うん…人気があるだろうなってのは分かる」
「ユンホ先輩は高校からの編入組なんだよ。それで物珍しさに注目浴びてたってゆうのもあるけど
 キム・ヨンギルのバックダンサーしてるから男のファンも多いし…あ、ヨンギルって誰だか分かる?今超~人気の歌手な。
 あとモデルの仕事もしてたりして、元から認知度自体が高い人だから。憧れてるやつは多いと思うよ」
「今も仕事してるの?」
「ああ。入学前からの活動ってこともあって、ユンホ先輩には校外活動が認可されてるからな」


ここでもユノはバリバリ仕事をしているらしい。
僕の夢の中でさえ、ぐうたらする気はないようだ。
しかも客観的にユノのことを話してくれるキュヒョンの声にさえ敬意と尊敬を感じるのだから、
誰もが認める“完璧”な人間なのだろう。
現実のユノのように、片付けが苦手だったり、泳ぎが下手だったり、天然だったりする一面はないのだろうか。
まぁそんなユノは僕だけが知っていればいいのだけれど。

それに、夢の中とはいえ、ユノがやりたいことを楽しんでできているのなら、僕は嬉しい。




なのに……もやもやした何かがちょっとずつ僕の心を侵食してくるのはなぜだろう。
胸を押さえる。押さえたところで、止まるわけじゃないけれど。
何かが足りない、そんな感じ。
いつもあったものが急になくなった、そんな不安感とでもいうのだろうか。
でも、それが何なのか…わからない。


考えようと思ったけれど…キュヒョンの声がそれを遮った。




「ちょっと、チャンミナ、聞いてる?」
「…あ、うん。聞いてる聞いてる」

キュヒョンは僕に説明するのが義務とばかりに、生真面目な顔で「話は戻るんだけど」と続けた。

「でさー、俺らの代の首席はな」
「ああ…」

そういえば舞台の上には2年の総代だけで、1年の総代らきし人物は見当たらない。

「そもそも生徒会の面々とお近づきになるのが目的で勉強してたんじゃなくて、単純に頭が良かっただけなんだよ」
「じゃぁ、生徒会の手伝いさせられるなんて、迷惑な話だろうな」
「本人もそう言ってた」

キュヒョンはうんうんと首を縦にふると、チラっと僕を横目に見る。

「だからこそってゆうか…あんまり人に関心がないし、内向的なやつだったからどうなるか心配してたんだけど…
 今は記憶障害で…なんかキャラまで変わってるし…もっと心配してる」

そこで僕は…やっと、キュヒョンの言わんとしていることに気付いた。

「…、まさか…」
「そのまさかだ。1年の総代は」


そのとき。


『チェガン・チャンミン、前へどうぞ』


神経質な声に名前を呼ばれて驚く僕に、しょーゆうこと、と言いながらエアー醤油を差し出すキュヒョン。
何で呼ばれているのかわからないのは、僕だけみたいだった…。







続く


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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。
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