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「彼をもらっても、いいかな?」


そう聞いたら、どう答えるのだろう。

ちょっとは優等生然りとした顔を崩せるのだろうか。












     【僕らの、/08-5.ジョンホside2】











仕事を終えて待つこと2時間弱。
1階のエントランス横に設置されているサロンに座っていた。

彼と約束していた時間まであと少し。
けれど、実は5時間ほど前、マネージャーから丁寧な断りの連絡があったのだ。

にも関わらず僕がここにいるのは、ただ単に彼の顔が見たかったからに他ならない。

たかがそれだけのために貴重な時間を費やすなど、これまでならあり得なかった。

僕を良く知っている人間がこれを聞いても、100%信じはしないだろう。
そのくらい、特別なことだ。

しかも、すれ違いになったら困るから、
この場所から一歩たりとも動いていない。

自分にこんな健気な一面があっただなんて…
マネージャーが知ったら「イメージ崩れるからやめてください」って
泣いてお願いされたかもしれない。





チーン。

エレベーターが降りてきた音。
彼だろうか。
扉を見つめる。

しかし左右に開いたドアから現れたのは、…僕の期待した人物ではなかった。
黒い革のライダースに白いパーカー、大柄のTシャツ、細身のパンツといった出で立ちの

    彼の想い人。

凛々しい眉。きれいなアーモンドアイ。小さな顔。
長くて細い手足。バランスのとれた体躯。ライダースが似合いすぎだ。
鞄を肩にかけて歩く姿は、モデルと見間違うくらい様になっているし。
同じ男として、カッコイイと思わされるのは、正直、癪だ。

こちらの方に向かって歩いてくるけれど、僕に気づいた様子はない。



どうしようか。

このままやり過ごしてもいいけれど…
ちょっと興味が頭をもたげる。


彼が心を寄せる男がどんなものか。
彼のことをどう思っているのか。
そして僕のライバルとなりうる人物なのか。

それを知っておくのも悪くはない。



僕はガタッと音を立てて立ち上がった。



ここで初めて、視線がぶつかる。
一瞬驚いたような表情を見せた。
僕は優雅に片手を上げて軽く挨拶をしてみせる。

すると、アイドルらしい爽やかな笑顔を満面に浮かべながら
僕の前まで駆けてきて、深く頭を下げた。

その上から声をかける。

「ユノ・ユンホ君だよね。こんばんは」
「声をかけていただいて恐縮です。ジョンホ先輩のご活躍、いつも拝見しています」

頭を上げて僕に向けた笑顔は完璧。
社交辞令ではない尊敬の念が込められている。
悪い気はしない。

「噂はかねがね聞いているよ。カムバックおめでとう」
「はい、ありがとうございます」
「それにしてもすごい人気だね~」
「とんでもないです。ジョンホ先輩に比べたらまだまだなので、僕らも頑張ります」

ハキハキした受け答え。
優等生な態度。


けれど、…そんなものはどうでもよかった。

僕が知りたいのは上辺の、対外用の顔ではない。
笑顔の奥に隠された感情を探り出したいのだ。

この顔を崩すことができて初めて、見えてくるもの。

それを僕に見せてほしい。





   さて、どうしたものか。



昼間の、彼と僕とのやり取りは知っているのだろうか。
ちょっと大げさに匂わせて揺さぶってみるのもいいかもしれない。

そんなストーリーを立てていたら、先に目の前の男が口を開いた。

「今日、わざわざ楽屋に来てくださったみたいでありがとうございます。
 本来はこちらからご挨拶に伺うべきですのに、申し訳ございませんでした」

マネージャーから聞いたのか。
それとも彼から聞いたのか。

でも話の流れは作らずともできた。

「たまたま時間があって、ふらっと寄っただけだから気にしなくていいよ」
「そういっていただけると、心が軽くなります」

胸に手を当ててなで下ろす仕草。
どこからどう見ても、礼儀正しい後輩だ。



…そんな男を精神的に揺さぶっていこうとしている僕が
まるで悪者みたいな気になってくる。


でも、ごめんね。

心の中で謝りながらも、まずは一発目。


彼のことをどう思っているの?
それを教えてもらおう。




「チャンミン君って、男の子なのに、ほんと美人だよね」



他の男からの好意を匂わされたら、心配になるのが男心ってやつだ。
しかも、プレイボーイの代名詞であるこの僕が相手なのだから。
目の前の男の顔色を注意深く伺う。

意図を測りかねているのかな?

表情に変化は見られない。



「…パフォーマンスの時はセクシーなのに、可愛い顔も持っていて
 凄く気に入ったよ」



“凄く”を強調しながら、彼に後輩としてじゃない感情を持っていることを
言葉と、表情と、声に含ませる。


しかし、返ってきたものといえば、肩透かしもいいとこだった。



「ありがとうございます。チャンミンの魅力を知っていただけて良かったです」



まるで自分が褒められているかのように、嬉しそうな顔をしたのだ。

驚き。
困惑。
動揺。
不審。

何らかの感情の揺れがあってもいいはずなのに。
優等生は1ミリも崩れない。


もしかして、さらっと流された…?



彼を弟としてとしか見ていないからこその反応というわけではなく、
かわされた、そんな感じが否めない。

…いやでも、恐ろしく空気の読めない男という噂を聞いたことがある。
そうであれば、もっと踏み込んだ一手を出さなければならない。



内心の動揺を抑えるために、咳払いをひとつ。


よし。
じゃあ、気を取り直して二発目。


秘密にしていたことを友人に告白する決心がつきかねているかのような
迷いを抱いた顔をしてみせて、


「…それと、これは…君に報告すべきかな…」


顎に手を当てて視線を足元に落とす。
しばらく黙っていたら、彼のほうから控えめに聞いてきた。


「どうかされましたか?」


僕の深刻そうな雰囲気を気遣っているような声。

演技なのに、本当に心配してくれているようで…また心の中でごめんねと謝る。
けれど、謝りながらもちょっとわくわくした気持ちを自覚していた。



「僕さ、チャンミン君に…」



ゆっくりと視線を上げて、たっぷり目の前の男を見つめる。

さて、優等生君はどんな顔を見せてくれるのだろう。





「………惚れちゃったんだよね」





息を飲む気配。
目を丸くして驚いた表情。
しかも口がぽかんと開いている。

たしかに感情の揺れは見えた。
でも、―――不満だった。



何が不満って、これだけはっきり口にしたら、誰だって驚くだろう。
当たり前だ。

そう、その“当たり前”が問題なのだ。
それ以上の反応が見られない。


さっきと変わらない、優等生の続きだ。


しかも、しかもだ!

僕の機嫌が低下していくのに気づいたのだろう。
自分の態度に問題があったせいで僕が気分を害していると判断したようで、
礼儀のなっていないことを恥じるように申し訳なさそうな顔をする。


でもすぐに、場の空気を払拭するくらいの明るい笑顔を浮かべて


「ありがとうございます。そんな風に言っていただけると
 チャンミンも喜ぶと思います」


むしろ誇らしいといった感じの言葉が返ってきた。


「………」

逆に言葉を失ってしまう僕。
唖然といわず、なんといおう。

僕の告白は…恋愛感情としてではなく、ただの褒め言葉のひとつとして
受け取られたのだ。







   これは…これは、どういうことだ。


頭の中は恐ろしいほどに回転し始めていた。

まずは現状を分析する。

一発目の結果からわかること:意図的に流した、もしくは、空気が読めない
二発目の結果からわかること:男が男に恋愛感情を抱くなど考えてもいない

次に、目の前の男の言葉、行動、仕草、表情を思い出す。

心理学を勉強して訓練を積めば、目や顔の筋肉の動きを見ただけで
本当のことを言っているのか嘘をついているのかを判断できるようになる。

たいていの人間は隠すことができないから
心の動きや考えていることが出てしまうものなのだ。

僕は、それを見落とさない自信がある。

けれど思い返してみても、目の前の男から見えたのは言葉どおりの気持ち、それだけ。
嫉妬や苛立ち、ましてや含みのある負の感情なんて、一切垣間見えなかった。

それらの結果を踏まえると結論は一目瞭然で、


“彼に特別な想いを抱いていない”


つまり彼の想いは一方通行であり、この男は僕のライバルになり得ない。
そう判断するのだが…

しかし、今回ばかりはこの読みが間違っている気がしてならなかった。
僕の直感が告げる。


“この男は、自分の感情を一切漏らさず、制御できる”







そんな考えが頭に浮かんだとたん、この男を揺さぶる方法を間違えていたと気付く。
同時に、

この“余裕”を奪ってやりたい。
その隠された、本音を晒して見せろ。

普段、心の奥底にしまっている攻撃的で黒い感情が湧き上がってきてしまった。


キャラクターというもうひとつの僕を前面に出すことで
どんなときでも完璧に抑えていたのに。

よもやこっちの感情が引き出されてしまうとは。




いいだろう。
体面をつくろうのは、これまでだ。







おもむろに右手を持ち上げて、髪をかきあげながら視線を落とす。
かっちりキメていた髪が崩れて、真ん中で分けられていた髪が右側に落ちた。

一気に艶かしさが際立つ。

ちょっと顎を上げて首を右側に傾ける。
そして、甘くて甘くて優しくて、フェロモンにまみれたそんな流し目を
目の前の男にくれてやった。


感じてる?
雰囲気の変化を、全身で。


愛されキャラも、オトナらしさも、先輩としての在り方も、
ぜんぶ、捨て去る。





「彼…もらって、いいかな?」





目の前の男から引き出したい分だけの、本音を口にした。

気遣いなんて含まない。
ただただ、自分の欲を、そのまま声に乗せる。


男の瞳が、初めて揺れた。

動揺。
疑念。

本気か。遊びか。冗談か。
それが知りたい?


教えてやる。







「でも…彼、君のじゃないみたいだし…
  手を出すのに、許可はいらなかったね」






顎に人差し指を添えて、笑いを含んだ声で挑発した。

この僕に、堕とせない人間なんて万に一人もいない。
それが僕の作り出してきた魅力であり、自信だから。

そんなに余裕ぶっこいていていいのかな?

言外に問いかけながら肩をすくめる。




すると、…男の瞳が、スッと細くなった。
僕の本気を悟ったのだろう。

僕の挑発は成功したらしい。



もうそこに、優等生の顔はなかった。
笑顔が消えた、それだけで周囲の空気が一気に冷えた気がする。

思わず後ずさりたくなるほど、真っ直ぐで強い視線が僕を捉えた。






「ジョンホ先輩」

僕の名前を呼んだ声は、さっきより透き通っていた。
感情を排除したという意味ではない。
何も含みも、隠し事も、取り繕ってもいないとわかる、素の声。




「チャンミンは誰のモノでもありません」




事実を淡々と告げるような、そんな口調。
口調と同じで、男の顔に表情もない。

けれど、僕は肌で感じる男の変化に、体が震えるのを抑えられずにいた。
現状を言葉では上手く表現できない。
目の前の男が発する気に、意思とは無関係に体が反応しているだけだから。



「でも…」

男は自分の心を覗き込むかのように、ゆっくりと胸に手を当てた。
そして、







「…誰かに譲る気もありません」







ひと言、そう口にした。


知りたかったこの男の本質。
知りたかったこの男の本音。

なのに、何故だからからないけれど、
それを見せられてひどく動揺している自分に気づく。





「君は…彼のことを…」




口から漏れたのは問いかけではない。
取り繕った魅力で自分を覆っている僕からこぼれてしまった、
単なる心の声だった。


それに目の前の男も気付いたのだろう。


ふっと、口元に笑みが浮かんだと思ったら、
冬が春に変わるかのごとく、空気が和らいだ。


それから、見とれてしまいそうになるくらい
純粋で、綺麗で、幸せそうで、でもちょっと照れたような顔をする。


僕に向けたものではない。
此処にいない、だけどこの男の中にいる彼に向けた笑顔だった。






僕の呟きに、肯定も否定もしなかったけれど

それがすべての答えだと思った。










続く



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チーン。


エレベータの音。

目の前の男の眉尻がぴくと動く。



降りてきたのは、僕が待っていた人物、チャンミン君だった。













     【僕らの、/08-6.ジョンホside3】











僕は自分の目を疑った。
さっきまで、あんなに…あんなにも完璧に感情をコントロールしていると思った男の
まさに、今の感情が明確に読み取れてしまったから。

目の前の男は、顔を凝視している僕に気付いて、
まるで風が吹いて飛んでったかのごとく自然に顔を改めた。


でも、



「っ!ふ…はははは」



我慢できなかった。
もう見てしまったから。


急に声をあげて笑いだした僕に、表情を取り繕うのは遅かったと悟ったらしく
バツの悪そうな顔をして口元に手を当てた。

それがさらに僕の笑いを誘う。
この男をからかってやりたいのに、笑いが…笑いが止まらない。


「…人が悪いですよ…先輩」


そんな僕を困ったように眺めながら、溜息混じりに呟いた。

男の雰囲気は優等生君に戻っていたけれど、
さっきまでの優等生君とは違って、どこか遠慮のなさがうかがえる。


「はは…っは~、ごめん。君があまりに分かりやすい顔をするもんだから…」


人前でこんなに爆笑してしまうなんて。
笑いすぎて苦しくなった腹をなでながら、いたずらっぽい目を向けた。










“会わせたくない”


目の前の男が見せた感情だ。

誰に誰をって、もちろん、僕に彼を、だ。



彼を奪う。



そう挑発した直後のことだし、当然といえば当然の気持ちだ。

僕があれだけ揺さぶりをかけても何の反応も示さなかったけれど
確実のこの男の中に積もっていたのだろう。



“自分の感情を一切漏らさず、制御できる”



間違ってはいないけれど、僕と同じで
彼のいる空間では制御できない部分があって
それをこの男も知っている。


がっかりしたわけではない。
むしろ、そんな一面を知った瞬間から、ユノ・ユンホという人物に好感がわいた。



完璧すぎる人間なんて、遊びようがなくてつまらない。










「僕と君が異様な雰囲気で向かいあってるから、チャンミン君、驚いちゃってるよ?」

ユンホ君の肩越しに見える彼に目を向ける。
エレベーターの前から一歩も動いていない。

「先輩の笑いっぷりに驚いているんだと思いますよ」
「そうだとしたら、君が僕を笑わせたせいだね」
「……」

苦笑。
まさに返す言葉がないといった感じだ。

完璧に僕のペース。
さっきはこの僕を弄んでくれたのだから、ちょっとは仕返しをしないとね。


「チャンミン君にも挨拶したいんだけどいいかな?」


にっこりと笑って要求する。
先輩という立場を利用すれば、よもや断ることなんてできないだろう?

それはユンホ君も分かっているらしく、努めて表情を動かすことはなかった。

「もちろんです」

そう言って後ろを振り返ると、彼に向かって手招きをした。




彼は恐る恐るといった感じでユンホ君の三歩後ろの位置まで来ると立ち止まる。
そして深々と頭を下げた。
僕から声をかける。

「さっきはどうも。急におしかけちゃってごめんね」

ユンホ君の驚きを含んだ視線が僕に向いた。
たぶん、彼に対する声の甘さが二重人格レベルだったからだろう。

「いえ、とんでもないです。本来はこちらから伺うべきですのに…」
「うんうん、全然いいよ」
「…ありがとうございます」
「それにしても長時間の撮影だったんだね。おつかれさま」
「いえ、僕らよりスタッフのみなさんが頑張ってくださったので
 予定通りに終えることができました」

本当に礼儀正しくて感謝を忘れない子だ。

けれど今の気分は針のむしろといったところだうか。
どう考えても和気あいあいといった雰囲気ではないから。
目の端にユンホ君を捉えていて、様子を気にしている。

ユンホ君といえば知らんぷり。
口を開いた分だけ僕にからかわれるとわかっているのだろう。


もっと遊びたいたいのはやまやまだけれど
彼を困らせるのは本望ではないし、
仲良くなるチャンスはまた作ればいい。


「さて…引き止めても悪いし、そろそろ失礼するね」

ここはスマートに引こう。

「とんでもないです。お話できてよかったです」
「うん、じゃあまたね」


僕が彼の方へ一歩踏み出そうとする前に、スッと体が割って入ってくる。
ユンホ君だ。



彼の姿が、ユンホ君に隠れて見えなくなった。



彼をハグしようとしたことがわかったのだろう。
表情は温和だけれど、許容範囲はここまでという意思表示。

目の前にいながら、見て見ぬふりなんてクールな行動が出来なかったユンホ君の
精一杯…いや…本能的な行動に違いない。



奪う宣言をした僕に彼を会わせたくはないけれど、
独占欲を丸出しにもできない体面。

自分の気持ちのままに行動するわけにもいかない立場。

拳を握って、耐えることも多かったに違いない。


それでも優先すべき信念ともいえる強い気持ちがあって
僕には想像もつかないものを背負い、守りたいと思っているから
今の…自分を御することを当然とするユンホ君が在るのだろう。



そんなユンホ君を見て、僕は急に…さっきまでは嫌がらせをするつもり満々だったのに
ほんとに急に、抱きしめて、頭を撫でてやりたくなった。



だから、彼じゃなくて、
彼の前に立ちふさがる体を抱きしめる。

今の気持ちがそのまま言葉になって、口から出た。


「なんだか君が、可愛くなってきちゃったよ…」


もちろん恋愛感情などではない。
僕の心を持っているのはチャンミン君だ。

ただ、母性本能に近い何か…それを僕は抱いてしまったのだろうと
自分で自分を分析していた。




「先輩…」

ユンホ君の手が僕の背をトントンとたたく。

「…ちょっと長すぎます」

笑いを含んだ声がそういった。

ユンホ君から離れると、今日初めてかもしれない、
親しみを感じる笑顔が僕に向けられていた。


抱きしめた理由が分かったのかもしれない。

「抱き心地はまぁまぁかな」
「それはありがとうございます」
「本当はもっと細身の体を抱きたかったけど…誰かさんに邪魔されちゃったしね」
「そうなんですか?残念ですね」

顔は、全然残念そうではなかった。
僕は笑ってしまう。


なぜだか、何年も付き合ってきた人間のような
そんな気安さを感じていた。

数分…話しただけなのに。

ユンホ君という人間を理解した気になっている。
そしてユンホ君も、僕という人間を理解しているのだろうと思った。




「チャンミン君、ご飯はまた今度行こうね」

ユンホ君の横からひょいと顔を出すと、彼に声をかける。

しかし反応はなく、
おっきな目でじっとユンホ君の背中を見ていた。

「…チャンミン君?」

もう一度呼ぶ。
ユンホ君も振り返った。

するとやっと気づいたかのように、視線が僕に移り
慌てた様子で笑顔を浮かべる。

「あっ、はい」

聞いていたのか聞いていなかったのか曖昧な様子。

「ユンホさんも一緒に、また誘ってやってください」

ちゃんと聞いていたらしい。

3人で食事…2人もいいけれど、それはそれで面白いかもしれない。
ニンマリ笑いそうになるのは我慢して、
脳内とは反対の紳士的な笑顔を浮かべた。


「そうだね。じゃぁ、また」


僕は二人に手を振る。
右手を上げ、指をひらひらさせて。

いつもの僕のキャラクターだ。



去り際はスマートにカッコ良く。



二人は揃って頭を下げる。
僕が彼らの視界から消えるまで、見送る視線を感じていた。









end..


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※「僕らの、/09.」はユノが受け手に回ってお話が進みます。苦手な方はご注意ください。











高校生の時からずっと見てきた

ユノの大きな背中。

隣に並びたいと思ったときから、見るのはやめていたのに…


久しぶりに見たユノの背中には
しなやかで綺麗な指を持つ手が回っていた。


誰の手…?


…息が止まる。
込み上がる衝動。



叫びたかった。












     【僕らの、/09-1.】












「…触んな…っ、!」


目の前からフッと手が消える。
ユノの背中も消える。
ぼんやりと浮かぶ、天井だけが見えた。


…夢?




ここは僕の部屋だ。


あの後、マネージャーと3人で夕飯を食べながら明日のスケジュールを確認して
家まで送ってもらった。
2人になっても僕らは互いに今日のことを話し始めることはなく
そのまま部屋に入って…

ユノに聞きたいことはたくさんあったはずなのに、
あの映像が頭のなかをループしていて、それどころではなかった。




体を起こしてベッド脇のテーブルにあるライトをつける。
時計を見ると、まだ、深夜の二時半だった。

右手で髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
冬だというのに汗でしめったパジャマが気持ち悪い。


ベッドから降りると着ているものを脱ぎ捨てて、裸になる。
寒さにぶるっと体が震えた。
急いで新しいパジャマを着て、ライトを消す。
それから、もう一度ベッドにもぐった。

明日も仕事だから寝なきゃいけない。
だから目を閉じる。

でも瞼の裏に浮かんでくるのは、あの映像。




同じ夢は、もう見たくなかった。












ユノを抱きしめる、僕のではない、手。



ユノに好きな人ができたら
その人が一番のトクベツになって
心まで独り占めにして
それを僕は、
一緒にいる時間の分だけ見せつけられて
勝手に傷ついて、しんどくなって…

きっとユノを傷つける。

ユノを傷つけてしまった僕は、
自分の気持ちにフタをして、深い深い場所にしまいこむけれど
溢れて漏れ出す感情をどうすることもできなくて
きっと、ユノを置いて逃げ出してしまう。

そしてまた、ユノを傷つける。




わかっている。
起こってもいない妄想だ。

ユノが後輩とハグしているのを見ても何も思わなかったくせに…
いずれ訪れる現実を、突きつけられた気がした。









壁にゴンと額をぶつける。

「もう寝てるかな…」

この向こうにユノがいる。

顔が見たかった。
声が聞きたかった。

ちょっとでもいい、触れたかった。




“ユノは僕の傍にいる”




その現実がここに在ることを。
変わらず、在り続けることを確認したかった。









僕はベッドから降りた。
床がひんやり冷たい。

でもそんなことは無視してドアを開け、リビングに出る。
明かりはつけなかった。


それから………


カチャ。

ノックもせずに、ユノの部屋のドアを開けて、中を覗き込む。

闇に慣れた目は、ベッドの端にいるユノの背中を見つけた。
掛け布団からはみ出しているし、今にも落ちてしまいそうなほど端にいる。


「…もー、…ちゃんと寝てくださいよ…」


部屋の中に体を滑り込ませると、後ろ手にドアを閉めた。

勝手に入ることを後ろめたく思いながらも
ユノがベッドから落ちるのを防ぎに行くだけだと
心の中で言い訳をする。

起こさないように忍び足で、ベッドの向こう側に回った。

布団を、そうっとめくる。
ベッドに膝を乗せると、ギシっという音と共に大きく軋んだ。
動きを止めてユノの様子を伺うけれど、起きた様子はない。


いつもながら…眠りが深くてよかった。


それでも、なるべくそっと、そーっと四つん這いで近づいて
暗くても顔のディテールが分かる距離までやってくる。

体を屈めて頭の下と腰の辺りに手を回した。
ユノの体は、半分以上も布団からはみ出していたせいで、ちょっとひんやりしている。


「風邪引きますよ…」


独り言を呟きながら、運ぶためにもっと深く腕を回すと
首筋にユノの吐息が触れて…思わず動きが止まってしまった。

別にやましい気持ちはなかったのに。
急に、意識下から浮上してくる。

それは僕を間違った方向へ誘惑しようとするけれど
ベッドの中央に、静かに、起こさないように移動させることに徹した。


「…ハァ」

さすがに意識のない体を動かすには力がいる。
呼吸を整えながら、ユノの顔を見下ろした。


直後。

「ん~…」

ユノがもぞもぞと動いたから、びくっとして体を硬くする。
ここで見つかったら、ただの夜這い犯だ。

起きませんように…地蔵のごとく微動だにせず念じていたら、
ユノは仰向けだった体をこっちに向けて、
まだ頭の下にあった僕の手に、頬をすり寄せた。


「、…っ!!」


冷静になって考えれば、寒かったユノが暖を求めてとった行動だって分かっただろうけど
僕を誘惑するには十分すぎる仕草だった。



「………眠れないのはユノヒョンのせいなんですから、

 責任とってもらってもいいですよね…?」



一応聞いてはみたけれど、答えが返ってくるはずもなく。
僕はユノの隣にもぐりこんで、体を抱き寄せた。











ユノの頭は腕の上。
体は僕の腕の中。

ひんやりしていた互いの体が
じんわりと熱を帯びてくる。



寝ている人間に何をしているんだって叱られてしまいそうだけど、
僕が今、何をしているかなんて、僕しか知らない。


こんなふうに抱きしめたって、


    誰にも知られない。

僕だけの秘密。



そう思ったら、

トクン、トクン
トクン、トクン

心音の数だけ気持ちが外に出たいと、訴えだした。
本当は、言葉にしてみたかった、僕の願い。


    今なら言える。









「ユノヒョンも…、

 僕を好きになる…好きになる…好きになる…」








暗い闇に消えてゆく言霊。

でも、それでいい。




“僕がユノの傍にいる”



少なくともその現実は、ここに在るのだから。








続く



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誰かが僕の髪を撫でている。
優しい手だ。

重たい腕を持ち上げて、その手を掴みぎゅっと握る。

ゆっくり瞼を持ち上げると



目の前にユノがいた。














     【僕らの、/09-2.】












「…いつ来たんだ?」
「いつ?」

僕はぼんやりした頭で、分からないまま聞き返す。
暗くてよく見えなかったけれど、ユノは笑ったようだった。


「目が覚めたらお前がいたから」


僕がいた?

あぁそうだ、眠れなくてここに来たんだった。

間抜けなことに、すっかり寝入ってしまったらしい。


「腕、痺れてないか?」


腕?
ユノの小さな頭が乗っかっている。

動かして引き寄せてみると、唇が髪に触れた。
だからそのまま唇を押し当てる。

ユノが息を止めたのがわかった。


「大丈夫みたいです」

「…お前…、寝ぼけてんの?」


ユノはゆっくり息を吐きながら、僕に問いかけた。


「…きっとそうですね」


他人事のような自分の呟き。

これが夢でなければ、僕は、どうかしているにちがいない。
いつの間にかベッドに入り込んで、ユノを…恋人がするみたいに腕枕に抱き込んで
今も離さず、ここにいるのだから。

しかも、こんなことをしているのに、妙に落ち着いていた。
本当にここは夢の中なのだろうか。
…夢ならいい夢だし、現実ならそれはそれで…どうだろ。問題ありかも。


そんなことを考えていたら、ユノは僕が握っていた手をやんわり抜こうとする。
でも僕は指を絡めてそれを引き留めた。

ユノの困惑が伝わってくる。
でも、離したくないんだからしょうがない。



「チャンミン、…ほんとにどうしたんだ?」
「…どうしたんでしょうね?」

聞いてもなにも出てこないと思ったのか、
ユノはため息をついて別の質問をした。

「じゃぁ、なんでこっち来たんだ?」

なんで…
そう、そうだ。

「怖い夢、見たんです…」

ぽつりと呟く。

「…どんな夢?」

僕の行動はそのせいだと納得したのか、すごく優しい声になった。

目を閉じて思い出そうとする。
どんな…


「…ユノヒョンが…、」


僕じゃない腕に奪われる夢。
映像が浮かんだとたん、ざわっと鳥肌が立つ。


     あれは、夢じゃなくなるかもしれない夢。


言葉にすると現実味を帯びてしまいそうで…
だから、


「……テラノザウルスをハイキックでぶちのめす夢です」
「ジャンプの世界だな。それのどこが怖いんだよ」
「そのあと、ヒョンはトリコのごとく丸焼きにして食べました。一人で」
「お前も食べたかったの?」
「そうです」
「そりゃ悪かったな」
「いえ、全然。問題はそこじゃないんです」
「ん?」
「食べすぎで、ユノヒョンがぽっちゃりになりました」

ユノはぷっと吹き出すと、肩を揺らして笑った。

「…体型確認しに来たってわけ?」
「そうです」
「プッ、…そっか。」
「そうです」


「…で、ほんとは?」


笑いながら聞いてくる。
今日のユノは煙に巻かれてはくれないらしい。


「…なんで聞きたいんですか?」


問いを問いで返す。
そしたらちょっと間があって…答えが返ってきた。



「不安そうな顔したから」


夢を思い出した時だろうか。
思わず、ユノの手を離して自分の顔に触れる。

でも待てよ。
ひとつの明かりもついていないこの部屋で
僕が見えるのはディテールだけなのに、ユノに僕の表情までわかるわけがない。


「見えないでしょ?」
「見えるよ」
「心眼とか言います?」
「それでも見えるけど」
「じゃぁ、当ててみてください」
「ん~…」

今考えてるんじゃないか!
そうつっこみを入れる前に、ユノが口を開いた。

「ハグされたこと、気にしてるんだろ」

そう。
始まりは、そこだ。

「…なんでそう思うんですか」
「お前の視線、やけに俺の背中に向いてたから」

僕にそんな自覚は…あった。

「でもそれ、心眼じゃなくて観察眼じゃないですか」
「心眼の方も知りたいの?」
「……いいえ」

僕がさっき口にできなかったことをユノが口にしたらどうしよう。
そんなことを考えてしまった。
いくらユノだって、僕の頭の中まで覗けるわけがないのに。



「ジョンホ先輩のアレは、俺で遊んでるだけだから」

ため息混じりにユノが言う。
ハグなんか気にするなということだろうか。

気にならないわけじゃないけれど、僕のマイナス思考はもっと深くまで
進んでしまっている。

何も言わない僕の様子を伺いながら
ユノは言葉を継いだ。

「それとも、ジョンホ先輩が……気になるのか?」

ちょっと棘のある声だ。

「チャンミン」

答えを促される。

「いえ…そういうわけではないです」

ジョンホ氏がユノを……そう思っているわけではない。

「違う、そういう意味じゃなくて」
「?」
「…好きなのかって意味」
「誰が?」
「…お前が」
「僕が、ジョンホさんを?」

ユノは少しだけ首を縦にふった。
僕がジョンホ氏を好きになるだなんて、あり得ない。

「そもそも同姓ですよ? あるわけないじゃないですか」

男が好きなわけじゃない。
むしろお断りだ。

もちろんユノは別だけど。



「…今日は…あんまり読めないみたいだ…」

おもむろに、ユノがそんなことを呟いた。
片手で目を覆っている。

「ユノヒョン? 」

…珍しい。
表情が見えないと、思考も読みずらいのかもしれない。


「だから、お前から言えよ」

話が最初に戻ってくる。
ユノは目を覆っていた手を離して、僕をまっすぐに見た。


僕の話を、聞いてくれようとしている。


それがわかるから、

「…ユノヒョンが…、」

重い口を開いて、もう一度言葉にしようと試みる。

けれど、…やっぱりできなかった。


しばらくの沈黙。


答えない僕に、やっぱり聞き出すことを諦めたのか、ユノが口を開いた。


「…なぁ、チャンミン。何も心配する必要ないから」


ユノはとても優しい声で諭し、とても優しい手つきで僕の背中を撫でた。



さっきは考えが読めないって言ったくせに
僕の頭の中を覗いて、全部知っているかのような言葉。



   必要がないって、一体どういう意味?

   どんな不安を抱いているか分かってて言ってんの?

   僕を不安にさせるのは、ユノなのに。


…いや、違う。責任転嫁だ。
僕が勝手に妄想に囚われて、独りでぐるぐるしているだけだ。


いつもなら素直に受け取ることができるのに…



もう、わからない。

ユノが何を知っていて、
何をわかっていなくて、
どうして僕にそう言うのか、

何もわからなくなってきた。







だから。







「今…僕が考えてること、わかりますか?」



僕は、頭の下から腕を抜くと、右足でユノの体をまたいだ。
それから、両手を顔の横につく。


いつぞやとは正反対の態勢。
今は僕が見下ろしている。


距離が開いた隙間から冷たい空気が流れ込んだ。









僕は、

ユノの言葉を、

頭じゃなくて行動で確認しようとしている。




ユノが困ることくらいわかっているのに、

それでも…それでも、この先にあるかもしれない何かを、

知りたいと、そう望んでいるのだろうか。









続く


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プロフィール

YUKA

Author:YUKA
ある日突然、ユノに恋をしました。
気付けば、チャンミンに構って欲しいユノと、ユノの側にいてくれるチャンミンの図に、萌えまくっていました。腐り具合は、きっとこれから進行してゆくのでしょう。

東方神起ありがとう!

「東方神起 RISE AS GOD」
「東方神起 LIVE TOUR 2015 WITH」




素敵な画像をお借りしました。
ありがとうございます。
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